第31話 小百合と婦人科病院へ行く(3)
婦人科の待合室。
子供連れの女性も見られる。男は俺一人……。周囲からの視線が痛い。
っていうか初めて来た。
小百合は俺の隣に座って、ぴったりと俺にくっついている。
シーンとしているので、うかつに話しかけづらい。
仕方ないので、英単語の一つでも覚えることにする。
小百合はにこにことしていて、嬉しそうで何よりだ。
「あっ、私呼ばれたから言ってくるね」
受付をしたあと、随分待たされた後。
小百合がそう言って、検査室というところに向かって行った。
しばらくして戻って来たが再び待たされて、次に小百合は診察室へ入っていった。
それが終わると待たされて……支払いをしてようやく帰ることになる。
その帰り道、ようやく小百合と話ができた。
「今日はありがとね。ずっといてくれて……嬉しかった。デートしてるみたい」
そう言って、小百合は俺の手を握る力をぎゅっと強める。
婦人科デート……新しいけどさぁ。
「でも大変だな、毎月行っているの?」
「うん。生理痛が酷くって、お薬貰っているの」
そうだったのか。
しかし薬って……。
「大丈夫なのか?」
「うん。全然大丈夫。これ飲まないとね、動けなくなるほど痛いときがあるの」
俺は知らなかったけど、高校に入りたてのころ、痛みで動けず学校を休んでいたそうだ。
そういえばクラスでも休む女子いたけどそういうことなのか?
あまり詮索はしない方が良さそうだ。
「本当に大変だな」
「うん。私もね、先生が薬飲むのを勧めてくださったときは迷ったけど、もう無いのは無理。それだけ飲むと楽なの」
俺は手をぎゅっと握り返す。
「大変なんだな……その少しでも分かち合えたら良いけど」
「うん。ありがとう……でね、これあるとね……その……」
小百合が何か言い淀んでいる。
俺は、その先を促した。
「うん?」
「そ、その……避妊にもなるんだって。それ用はね、本当は違う薬なんだけど、中身は一緒だって言ってた」
一度話し始めると、小百合はするすると最後まで言った。
見ると、顔が桜色に染まっている。耳の先まで。
「そ、そうなのか?」
「うん。ちゃんと飲んでいたら……その……しても……付けてしなくても……妊娠する可能性がほぼ無いんだって……」
初めて知った。
薬飲んでるから妊娠はほぼないってこと?
まあでもゴムしないと俺が不安になりそうだけど……。無しでしたことないし。
でも、この話をする意味って……?
「それにね。その、受験が上手くいったら……って思ってて。でもね、私でご褒美になるのかわかんないけど……」
さっきまで桜色だった小百合の肌が、今は赤色に染まっている。
全部を言わない小百合だけど。
「いや、きっとなるよ」
「えっ? う、うん! 頑張ろっ!」
「でも、我慢できるかな」
「大丈夫だよ。私も我慢する」
「小百合も?」
「あっ、今のなしっ。なんでもないっ!」
「わかった。じゃあ、今は……」
そういって、俺は小百合を抱き締めた。
ちょっと強引に。
すると、きゅっと小百合も背中に腕を回してくる。
俺たちは——。
くっついたまま……なかなか離せなかった。
恥ずかしがる小百合が可愛い。
ああ、このまま……。
そう思った時、リンリンと自転車のベルの音が聞こえた。
俺はそれを無視していたが、小百合が俺の胸に手を回し、押しのけるようにしてきた。
身体が離れる。
「もう、光君、ここ外だよ?」
「うん……」
自転車に乗っている男性は何も見てませんという感じで、道を向こうに走っていく。
……見られたかな?
完全にぼーっとしていて、そこまで頭が回らなかった。
小百合はたっと前に向かって駆けて、振り返った。
「今日は罰として問題集二倍ね」
「あっ。やっぱりこれから勉強ですか。しかも二倍」
「当たり前だよっ! 本当は三倍だけど、病院について来てくれたから二倍で許してあげるっ」
ちょっと意地悪した子供のようにはにかむ小百合。
そうだな。あともう少し、頑張りますか。
なお、小百合のお母さんは、俺に色々言ったことを小百合に謝ったそうだ。
もう干渉はしないと宣言したらしい。
どうやらものすごく俺を信頼しているようだ。
幼馴染みってそういうことがあるのかな?
反面、焦れ焦れしてしょうがなかったとのこと。
だけど流石に干渉しすぎたことを自覚し、後悔したらしい。
今後は静観するそうだ。
短い間にいろいろあったけど、小百合ともっと近くなれたような気がした。
ずっと近くにいるために、俺は今できることをするのだ。
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