第3話 乗り換え ——五木絵里視点
——五木絵里視点
「急にごめんなさい。あの、バスケ部の試合でカッコいいって想ってました。付き合ってください」
そう告白して細川君と付き合ってから、一ヶ月が過ぎた。
あたしは、たまたま見に行ったバスケ部の試合で見かけて細川君に一目惚れをした。
友達に聞いたら、彼はセンターというポジションらしい。
コートの端からあまり動かないが、スリーポイントシュートをガンガン決めたり、目の覚めるようなパスをコート内の味方に放ってチームに貢献する姿は、地味だけどかっこいいって思った。
ただ、彼は敵のチームだった。
学校が違うのだ。
あたしは細川君のことを同じクラスの角田というバスケ部員から聞き出した。
そして、わざわざ彼の通う高校まで会いに行き——告白をした。
とにかく押しまくってOKの返事を貰う。
私が迫ればだいたいはこうなるのが分かっていた。
あたしと違って彼は誰かとつきあったことがなかったらしい。
だから、最初のうちは彼の反応がかわいいと思っていた。
その頃、ギクシャクしていた親との関係も、なんと彼のおかげで改善していった。
「絵里、西上高の細川という子とつきあってるんだって?」
両親は急にそんなことを聞いてきたのだ。
「うーん、順調?」
「そうか。実は、彼の親御さんと仕事が同じ業種みたいなんだよな。ちょっと紹介して貰えるように話をしてくれないか?」
「えっ、そうなの? 家族ぐるみの付き合いになるってヤツ?」
「ま、まあそうだな」
あたしは細川君に話をして両親同士を引き合わせることに成功した。
業種が同じで仕事上で協力するらしい。
あたしは彼との関係がもっと深まったと感じた。
細川君の家は、ご両親が不在なことが多かった。
彼の部屋で会うことが多くなり……あたしの方から誘って互いに初めての経験をした。
最初はあっと言う間で、こんなものなのかと思った。
しかし、何度もすることであたしも次第に満足するようになっていく。
体の関係を持ってから、細川君は、あたしにとても夢中になっていた。
言葉にしないけど、結婚まで考えているようだ。
あたしはそこまで思ってはいない。
高校を卒業して進学して……もっと出会いがあるのだろう。
体の関係を持ってから、男の考え方とか、性質が理解できたように思う。
こんな風にコントロールできるのなら、もっと良い男と付き合うことだってできる。
男なんて、体さえ繫いでいればいくらでも言いなりになってくれる。
その考え通りになっていく彼の様子はあたしの承認要求を満たしていく。
細川君は、とても優しく、壊れ物を扱うようにあたしを抱いてくれる。
体がつながっている瞬間は他の嫌なことを全部忘れさせてくれるくらいに。
ただ、あまりに惚れていることが分かってくると、退屈に思うことがあった。
デートもプレゼントも……彼が一方的に負担してくれる。
何でもあたしのワガママを聞いてくれる細川君に、次第に慣れてくる。
——ものたりない。
なんとなくそう感じ始めたあたしに、近づいてくる男がいた。
「なあ、絵里——。この前教えた細川ってやつと付き合ってるって?」
元バスケ部キャプテンの角田が、あたしに話しかけてきたのだ。
この前の試合では、細川君の学校に負けていた。
「そうだけど?」
「お前さあ、変わったな。随分色気づいて——」
角田は、そう言ってあたしの体をなめ回すように見る。
その時、あたしはゾクッと電流が流れるような快感が流れた。
複数の男に惚れられる。
あたしが、選ぶ立場になれる。
それ以上に、気持ちいいこと——承認要求が満たせることがあるだろか?
「そうかしら?」
「ああ。前は、ブラウスのボタンも首元まで留めていたのに、今では肌を見せるようにして——誘ってるのか?」
「そういうわけじゃないけど。だとしたら?」
「じゃあ、あの細川ってヤツと比べてみないか?」
最初は細川君のこともあり、断っていた。
でも、角田は同じ学校で、同じクラスで毎日顔を合わす関係だ。
「じゃあ一度だけなら」
ついにその日、私は根負けして……そして、私の考えているとおり、男をコントロールできるのか試す意味で……浮気をした。
体育館の更衣室——。
「お前、めちゃくちゃ感じていたみたいだったけど、俺の方がやっぱよかったんじゃないのか?」
「そんなことは……ないけど」
事の後、角田に言われて気付く。
優しい細川君と比べて角田の荒々しさは非常に新鮮で、彼に感じていたかもしれない。
細川君への罪悪感……背徳感も後押ししたのかも知れない。
一度だけの約束が、二度、三度と増え、細川君と会うことも減っていった。
あたしは、角田と会い体を交わす関係がとても楽しくなってきた。
男がこんなにも自分を求めてくる。
これほど幸せなことがあるだろうか?
正反対のその性質に、あたしはあっと言う間に虜になる。
あたしが次第に求める側に変わっていく頃には、もう引き返せないほど角田のことが頭の中から離れなくなっていた。
同じ学校で毎日会えるというのが大きかった。
そして、少し日が空いて細川君から誘いがあった。
そろそろ断るのも面倒になってきた。
それに角田と関係を持っているのが校内でも噂になりつつあった。
——細川君なんて、どうでもよくなってきちゃったな。
角田に乗り換えようか。
毎日会えるし——。
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