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第28話 聖夜のお風呂


 ついに、バスルームに、小百合が突入してた。

 たぶん、既に下着姿なのだろう。



 シュルッ。


 ほんの少しだけ衣擦れの音がする。

 パサッという音が聞こえ下着を脱いでいるのが分かった。


 俺は修行僧のように悟りを開こうとするが、どうしても煩悩が勝ってしまう。

 そしてぺたぺたという足音がこっちに近づく。



「光君、思ったより恥ずかしいから……目つぶってて?」



 あっ、入ってくる……!


 俺は言われた通り、素直に目を瞑った。

 シャッとシャワーカーテンが開く音が聞こえた。

 そして少しの迷いのあと、ちゃぷんとお湯に浸かる音が聞こえ、お湯が揺れるのを感じる。


 俺の前に小百合が座っている。

 ユニットバスの割に、風呂自体は大きく湯船は二人で入っても全然余裕みたいだ。


 だけど、俺の足の途中に、小百合の肌が触れる。

 たぶん、腰の辺りだろけど当然柔らかく、すべすべだ。



「も、もう、目を開けていいよ?」



 ゆっくり目を開けると、小百合の後頭部、そして背中の上の部分が視界に入った。


 長い髪はヘアゴムでまとめられていて、その下にうなじが見える。白く細い首筋が、なんだかすごく艶めかしい。

 自然に目がその下に行く。白い肌、背中のラインもすごく綺麗だ。


 最後に一緒にお風呂に入ったのは小学生の頃。

 その記憶と重ねて見ても、ドキドキして仕方がない。


 俺は手のやり場に困っていた。

 何も考えていないと、無意識に腕を前の方に回し、小百合の胸に触れてしまいそうだ。

 俺は理性を総動員して、なんとか耐える。


 視線に気付いたのか、小百合が振り向く。

 俺の顔を見て、くすっと笑う。



「光君、お顔真っ赤だよ」

 

「そっちこそ……」


「私だって、恥ずかしいもん。でもね……初めてじゃないし」



 さっきから「初めてじゃない」を何度も強調する小百合。

 そういえば、アイツとのバトルの時に、意地を張っていたっけ。

 なんだか少し嬉しそうな小百合を可愛いと思った。


 小百合は前を向いて、俺の胸に後頭部をくっつけて縋ってきた。

 当然のことながら、小百合の背中がお腹の辺りに当たって……ある事情で俺は腰を引いた。


 俺の心臓の鼓動が速くなっていく。


 髪の毛が触れてこそばゆい。

 そして、小百合の思った以上に柔らかい背中が俺の胸に触れ……ドキッとする。

 うう……こんなに心臓がバクバクしたの、初めてだ。



「よいしょっと」



 そういって、小百合はさらに俺の方に身体を寄せ、お尻をこっちに寄せてきた。

 せっかく腰を引いたのに!


 俺の中心で目一杯存在を主張しているものが、彼女に触れた。

 っていうか、ラノベの主人公がお風呂とかのシチュエーションで平然としていられるなんて……絶対嘘だ。



「あっ……?」


「ううっ」



 気付かれた……。おしまいだ……。



「これ……。その……これ……その……私で?」


「いや、ま、そ、その通りだけど。小百合を前にしたら……ごにょごにょ……」


「えっ……??」


「……こうなるのは当たり前というか、小百合のこと好きだし」



 俺は開き直った。

 バッと顔を上げる小百合。しかし、すぐに顔を伏せる。耳まで赤い気がする。



「……恥ずかしいけど……嬉しい」



 後ろから少しだけ見える横顔が、はにかんでいるように見えた。

 まるで照れを隠すように、小百合は続ける。



「じゃ、じゃあ、少し暖まったし、このまま身体洗っちゃお?」


「う、うん」



 スポンジは二つあって、それぞれにボディソープを付けて、自分の身体を洗う。

 あっという間に湯船には泡が浮かんだ。


 こうやって湯につかって身体を洗うのは初めてだけど、互いに細かいことは気にしていない。

 俺はゴシゴシと強くこすり、小百合は優しく撫でるように身体を洗っていた。



「お風呂、恥ずかしいけど楽しいね」


「う、うん」



 まるで経験のない小百合が得意げにしていて、経験があるはずの俺おどおどしている。

 非童貞の俺が処女の小百合に負けているような気がしていた。


 女の子は、こういうときに意外と大胆になり、男の方が縮こまるとも聞く。

 俺はこの状況を変えようと思い立つ。



「小百合、背中洗ってあげる」


「えっ……? う、うん」



 拒否されなかった。当たり前……なのかな?

 でもその当たり前が嬉しい。

 俺はさっきから触れたくてしょうがなかったので、その欲求のまま小百合の肩に触れた。



「ん……」



 小百合の口からかわいい声が漏れる。


 柔らかくて、温かくて、滑らかだ。

 ボディソープのぬるっとしている肌触りが俺の鼓動を早くする。



「あっっ……んんっ」



 と、小百合の少し高い声が漏れ、身体がビクッと震えた。

 声が出ないように我慢していて、足がもじもじしている。

 ダメだ……仕草が可愛すぎるし、恥ずかしがっているのがとても良い。


 やめろと言われないので、俺はスポンジでどんどん背中を洗っていった。


 洗うというより、スポンジで撫でる感覚だ。

 滑らかで柔らかい肌がほんのり桜色に染まり、俺はどんどん興奮していく。



「あっ……うんっ……」


「小百合、大丈夫?」


「うん、すごくくすぐったくて、声が出ちゃうだけだから」


「やめようか?」


「ううん、続けて。くすぐったいの我慢する」



 小百合の可愛らしい、かすかな喘ぎ声が続く。

 我慢しているようだけど、声が漏れてしまう。

 もしかして、すっごく敏感なのだろうか。



「ひっ……光君……」



 その言葉を聞いて俺は我慢できず腕を前に回して小百合を抱きしめた。

 俺の手が小百合のお腹に触れる。すべすべしていて、柔らかくて気持ちが良い。


 無意識のうちに、片手が上に動きお腹からもう少し上に触れた。



「あっ……あうッ」



 ビクッと小百合の腰が震え、がくっと力が抜けたようになった。



「大丈夫?」


「う、うん……くすぐったかったよぉ」



 ふぅ。ぐったりとした小百合が回復するまで、俺たちは湯船につかっていた。

 



 ☆☆☆☆☆☆



 俺たちは風呂から上がり、ホテル備え付けのガウンに着替えた。

 下着は、俺がコインランドリーに持っていき、洗って乾燥したのだが……十分乾いていない。


 他の人も待っていたので、そのまま持って帰り、少し湿っているためハンガーに掛けて干している。

 そのため、ガウンの下は小百合も俺も何も身に付けていない。素裸だ。


 そう考えるとまた興奮しそうだけど……意外とガウンは厚く、俺的に大丈夫そうだった。


 二人でダブルベッドに横になり布団に入る。

 今さら、別々に寝るというありがちな選択肢は俺たちにはない。



 目の前に、小百合の顔があった。

 ニコニコと俺の顔を見つめている。



「楽しいね。お風呂……あのね、また——」


「うん……また入ろうか」



 いろいろと俺には試練なのだが、楽しそうだし、また入りたいみたいだ。

 俺の理性が持つか心配だが……あの状況で我慢できたのは奇跡に近い。



「うん!」



 めちゃめちゃ嬉しそうな小百合。

 俺には修行が必要だ……。



 小百合を腕枕して抱きよせた。



「温かいね」


「うん。小百合……」


「なあに……?」


「なんでもない……」



 小百合の柔らかさと、息づかいと、温もり、そして可愛らしい表情。全てが心地良かった。



☆☆☆☆☆☆



 目が覚めると、いつの間にか部屋が明るくなっていた。

 カーテンの隙間から光が差し込んでいる。


 俺の胸には、小百合の寝顔があった。

 ずっと、いつまでも見ていたい寝顔だった。


 あ……。


 どう寝返りをうったのか分からないけど……。

 お互いのガウンがはだけ、殆ど裸のような状態になっている。


 しかも……俺は朝のなんとかってヤツで。

 小百合を起こさないように慎重にベッドを出たのだった。



 ベッドに戻り再び小百合の隣に滑り込む。

 すると、パチリと小百合が目を覚ました。



「おはよう」


「うん。おはよう」


「先に起きてたんだ」



 小百合がちょっと残念そうな表情をした。



「どうしたの?」


「光君の寝顔……もっと見ていたかったな」



 ふふっ、と俺は笑う。

 同じ事を考えていたことが、少し嬉しくもあり、面白い。



「——ああっ!」



 急に真顔になった小百合が、悲鳴を上げた。



「ど、どうした?」


「今……9:45だよ。チェックアウト10時だったよね?」


「……ひぇっ」



 俺たちは慌てて着替えてチェックアウトを済ませる。

 こうして俺たちはクリスマスの朝を慌ただしく迎えたのだった。



【作者からのお願い】


この小説を読んで


「砂糖」


「続きが気になる!」


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