第26話 聖夜のハズが……(2)
見覚えのある後ろ姿を追って……二人で手を繋いで歩いて行く。
別に相手が誰だろうと、どうだっていいのだけど、こうやって小百合と並んで歩くと、子供の頃遊んだことを思い出す。
幼馴染みって、そういう不思議な感慨があるよな。
「あれ? いない?」
園内は暗い。
イルミネーションや多少の明かりはあるものの、少し離れると人の顔も分からない。
どこで声をかけようかと思っていたけど、結局二人を見失ってしまった。
「見失っちゃったね」
「うん……。まあ、いっか」
「そうだね。でも、ちょっと楽しかった」
「うん」
「じゃあ、回廊の方に戻ろうか。花火はあそこから見られるらしいし」
小百合の手を引っ張ろうとする。
すると、小百合はわざと体重をかけ、俺をひっぱった。
「ん?」
「ここ誰もいないよね?」
意図を察する。
そうだ。いつの間にか少しルートから外れたためか、周りにはイルミネーションも無いし誰もいなかった。
小百合は俺を見上げ、目をつぶっていた。
そっと、唇を重ねる。
しっとりとした小百合の唇。
その分、俺の唇が荒れているのに気付く。
「ん……んっ……」
小百合が可愛らしい吐息を漏らした。
別に深いキスでは無いのだけど。
どーん!
突然の音と光に驚く。
周囲が色とりどりの光によって染まる。
二人で、唇を触れたまま、恐る恐る明るくなった方向に目を向けると……。
どーん!!
続けて、空に二つ目の花火が上がった。
「あっ……花火始まっちゃったね……光君」
「うん。どうする? 回廊の方に行く?」
「ううん。ここで見たいな……二人で。だめ?」
「いいよ」
俺たちは向かい合って抱き合いながら、互いの背中に手を回した。
周りに誰もいないからできることだ。
そこは二人きりの特等席だった。
来年も、再来年も……こうやって二人で一緒にいられたらどれだけいいことだろう。
あともう少し、これからが踏ん張り時だ。
どーん!
どーん!
大きな花火は見られなかったけど、沢山の花が夜空を照らす。
二人で見上げる花火は特別なもので……。
明るくなった一瞬に見える小百合の顔が、とても綺麗だと思った。
☆☆☆☆☆☆
たった三十分ほどではあるけど、冬の花火は予想以上に美しく、寒さを我慢してみた甲斐があったと思えるほど大満足だった。
「じゃあ、今度こそ回廊に戻ろうか?」
「うん!」
そういって手を引こうとしたとき。
白いものが、小百合の髪の毛に付いていることに気付いた。
俺はそれに手を伸ばす。
触れると、あっという間に溶けた。とても冷たい。
雪だ。
その白いものは、次第に数を増やしていく。
「雪だね。ホワイトクリスマス」
「うん。さすが山の上だね」
俺たちは、次第に白くなっていく地面に焦りながら、外を目指し歩いた。
あとはバスに乗って帰るだけだ。
☆☆☆☆☆☆
俺たちがバス停に着いたときには、既に待っている人はいなかった。
どうやら俺たちは施設の端で花火を見ていたらしく、バス停まで歩くのに随分時間がかかったようだ。
他の人はもうみんなバスや車に乗って帰ってしまったらしい。
幸い、まだ最終便があるのでそれを待つ。
雪はどんどん強くなっていく。
俺たちは、くっついてバスを待った。
たった二人なのに、そうしていると寒さが和らぐ。
しばらくして、最終のバスがやってきた。
次に駅で降りる。ここで乗り換えだ。
街の方は雪が降っていないと思っていたけど、甘かった。
既に街は真っ白になっている。
道路に積もる雪がどんどん増えていた。
「雪、すごいね」
「うん。これは……もしかすると……」
「ああ……。光君、あれ……」
「やっぱり」
駅のバス停には「最終便は運休しました」と書かれた紙が貼られている。
「うおっ。じゃあ、父さんに来てもらうか」
「うん……うちにも電話してみるね」
それぞれが自宅に電話してみた。
なんと、互いの両親は同じ所にいるようだ。
家の近所にある焼き鳥屋だった。
「ねえ、父さん……少し嫌な予感がしつつ聞くんだけどさ、駅まで車で迎えに来れない?」
「あー。光、どうした? 最終便のバスを逃したのか?」
「え、そっち雪降ってないの? こっちはバス運休するほど雪降ってる」
「ちょっと待ってくれ……………………何じゃこりゃあ……!」
外を見たであろう父さんが驚いていた。
確かに天気予報では雪がちらつくようなことを言っていたのだが……バスが運休するほど積もるとは。
「光、すまん。酒飲んでるしどっちにしろ無理だった」
「母さんは?」
「母さんも飲んでるわ。小百合ちゃんも一緒だろ? タクシーで帰ってこい」
俺はタクシー乗り場を見た。
そこには長蛇の列が……。
まあ、そうだよね。バスが止まってるんだもの。
「すっごく遅くなりそう。めっちゃ並んでる」
「そうか……。ちょうど千石さんも一緒にいてな。ちょっと相談するわ」
ブツンと通話が切れた。
俺が小百合を見ると、同じように切られたようで左右に首を振った。
えぇぇ。どうすんの。
さすがにこの雪の中を歩いて帰るのも厳しい。
多少遅くなるが、タクシーを待つしか無いのかも知れない。
「ヤバいな……どうしよう?」
「うーん、困ったねぇ」
小百合はちっとも危機感がなかった。
「なんか小百合、楽しそうだな?」
「うん。楽しい……。光君と一緒だからかな?」
「そっかぁ」
正直、あのタクシーの待ちの列をこの寒空の中待ち続けるのは気が重い。
でも、俺もそこまで深刻にならないのは小百合と一緒だからかも知れない。
「俺も楽しいかも」
「そうだね。ずっと思い出に残りそうなクリスマスだね」
ブーッ、ブーッ。
俺と小百合のスマホが同時に鳴った。
互いの両親からだろう。
「やあ父さん」
「なんだ? 元気そうだな。
会議の結果を伝える。
お前たち駅前だろ?
ビジネスホテルも沢山あるし、そこに二人で泊まれ」
「なんだって?」
「千石さんの奥様の方は酒を飲んでないのだけど、この雪の中運転するのは無理だと判断した。
そして、タクシーを待つのに光や小百合ちゃんを寒い中待たせるのも無しだ。
だったら、泊まるしか無いだろ?」
「でも、小百合が何て言うか」
「いや、小百合ちゃんはとっくにOKをもらっている。ちなみに、光、お前には拒否権は無い」
「はあっ?」
わははと父さんの笑う声が聞こえた。
「こんな状況で小百合ちゃんも不安になってるかもしれない。心配させないようにな。
ちなみに、ホテルはもう見つけて料金も払っているから二人が行くだけだぞ」
「へいへい」
とんでもないハプニングだったが、なんとかなりそうだ。
父さんとの電話を切ると、小百合は先に通話を終えていたようで、にこにこしながら俺を見ていた。
全然不安そうじゃないな……。
「なんか泊まることになったな」
「うん。明日が土曜日休みで良かったね。ゆっくり帰って来いって」
「そうだな。明日は……やっぱ勉強?」
「うん!」
くっ。楽しそうに小百合は言うなぁ。
「じゃあ、行こうか」
俺たちは、指定されたビジネスホテルに向けて歩き出した。
街行く人たちがみんな恋人同士に見える。
雪に覆われつつも、イルミネーションに飾られた街や人が華やかに見えた。
ああ、そういえばクリスマスイブなんだな。
俺たちも、そういうことしそうに見えるのかな?
小百合を見ると、相変わらず楽しそうだ。
そういう俺も、ハプニングを楽しんでいた。
☆☆☆☆☆☆
俺たちは指定されたホテルに着いた。
駅前にある大きなビジネスホテルだ。
普段何気なく見ていたけど、まさか泊まることになるとは思わなかった。
「いらっしゃいませ」
「こんばんはー。ええと細川と言います。多分予約してます」
「少々お待ちください」
微妙に受付の人の視線が痛い。
そうだよな……男女二人で、しかもイブにホテルって……。
気のせいかも知れないけど。
「細川様、二名様ですね。カップルプランでご予約を承っています」
「んっ?」
ふと小百合の方を見ると、彼女はきょとんとしている。
「あの、部屋ってシングル二つじゃなくて?」
「いえ、ダブルルームになりますが……?」
「ツインでもなく?」
「はい」
えっと、それって、一部屋で、ベッド一個って事だよな。
俺は念のため、小百合の両親に確認してもらった。
結果は変わらない。
キャンセルが出たカップルプランを見つけ速攻で予約したとのことだった。
親公認?
それで良いのか……?
【作者からのお願い】
この小説を読んで
「親公認とか……いよいよなの?」
「続きが気になる!」
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