第25話 聖夜のはずが……(1)
俺はいつも通り、今日も小百合を教室に迎えに行く。
「光くん!」
俺が姿を見せると、笑顔で駆け寄ってくる小百合。
俺たちの背中から、小百合のクラスメートたちの声が聞こえる。
「あの二人、付き合い始めたんだよね」
「うん。でも、変わらないね」
「そうだね。何一つ……」
その言葉が、なぜか嬉しかった。
「それで……やっぱりしたのかな?」
「まだじゃない? ほら、あの微妙な距離……」
「小百合大切にしてるって事なのかな……だってほら……」
おい。
オイオイオイオイ。
そういう噂話はしなくてもよろしい。
ちらっと小百合を見ると、顔を真っ赤にしていた。
つられて、俺も頬に熱を持つのを感じた。
☆☆☆☆☆☆
雪がちらつき始めた。
いつの間にか、季節は真冬になっていて、木々の葉が散り寂しい景色になっていく。
年末も近づいてきた、ある日のこと。
俺は父さんに話しかけられる。
「おい、光。最近寝不足のようけど、何かあったのか?」
「い、いや……その、小百合と——」
「サユリちゃんと!? そうかそうか……でも、そのな、
仲が良くてお盛んなのはいいけど……アレだ……ちゃんと、ひに——」
俺は父さんが何か勘違いしているのを悟って、俺は発言を遮った。
「何の話だよ! 違うよ!
ただ勉強がハードで」
「お、そっちなのか。
ふうん……。まあ、無理しないようにな。
そうだ、気晴らしにいいものがある」
父さんはそう言って、二枚の紙——チケットを取りだした。
郊外にある「花回廊」という観光名所だ。
遊園地のような広い敷地内に、沢山の花が咲いている。
温室もあり、様々な花を見ることができる。
地元で外にあるアミューズメント施設といえば「花回廊」くらいしかない。
都会が羨ましい。
「今冬だけど……。花あるの?」
「夜に咲く花もある」
妙にうまいことを言った、みたいなドヤ顔が微妙にムカついた。
ああ、アレね。花火ね。
「ハイハイ。
でも、そんなもの見ている暇なんて……」
「真面目な話をすると、根だけ詰めても良い結果になるとは限らん。
今のお前に……いや、小百合ちゃんにも必要なことかもしれん。
そうだな、明日くらいに勉強の後の息抜きに行ってきなさい」
「明日は……クリスマスだね」
「そうだな」
「でも、勉強の後なんだね」
「ははっ。サボれると思ったか?
残念だがそれは無理だ」
「俺はいいけど、小百合がOKするだろうか?」
そうつぶやくと、父さんはなぜかニヤリとしたような気がした。
俺は早速メッセージアプリで小百合に聞いてみる。
すると意外なことに、小百合からは行きたい! という返事が来たのだった。
☆☆☆☆☆☆
いつものように俺の部屋で、小百合と二人で勉強した。
小百合は根気強く俺に付き合ってくれる。
小百合は実にスパルタだった。
もうSかってくらいに。
小百合の勉強自体はある程度仕上がっているようだ。あとは調整くらいなのだという。
俺と違って部活にうつつを抜かさず真面目にやってきたのだ。
そりゃ……差が付くわな。
学習塾も考えたけど、どうにも小百合は教え方がうまくて、二人で一緒にいた方が効率がよさそうだった。
事実、成績は少しづつ上がり、担任の先生に驚かれたくらいだ。
もっとも、先生は俺と小百合の中を知っているらしく、妙に視線が生暖かかったのだけど……。
勉強も一段落して、俺はぐっと伸びをした。
小百合は、テーブルの上のノートを片付けている。
「じゃあ、行こうか」
「うん。でも……光君、大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫大丈夫。こういう機会ってあまりないし」
うちからはだいたい一時間くらいバスに乗ると到着する場所に「花回廊」はある。
家の車だと半分でいけるのだけど……両親はどこかに出かけてしまっていた。
俺たちはバスに揺られながら、目的地を目指す。
隣に座る小百合のやわらかさと匂いと温もりと、バスの暖房がやけに眠気を誘った。
☆☆☆☆☆☆
「光君、すごい……綺麗!」
小百合の声に目が覚めて、バスの外に目をやる。
目的地「花回廊」に到着したらしい。
そこには真っ暗なところに色とりどりのイルミネーションが煌めき、俺たちを歓迎しているようだった。
バスの中もそうだったけど、降りるともっと沢山の男女のペアが見える。
高校生くらいだったり大人だったり。
俺たちも、この先、ここに二人で来ることができるのだろうか。
「ううっ。寒っ!」
バスから出ると、一気に突き刺すような冷たい空気が肌に触れる。
ここは山の上なので街よりも寒いのだが……寒波が近づいてきていたのもあり、空気がさらに冷たかった。
「光君、寒いでしょ」
小百合はそう言って、マフラーを俺に渡そうとしてきた。
俺は、少しだけ首に巻いて、小百合にも巻いてあげる。
「光君、こうしてると……恋人同士みたいだね」
「いや、恋人同士だし」
小百合によるしごきのため、一瞬忘れそうになるけど、俺たちはつきあっている。
一つの目標に向かっている。
一緒にいて、綺麗な物を見て、こうして隣に寄り添って……小百合の笑顔が可愛らしくて。
ああ……受験さえなければ……などと思ってしまった。
俺たちは花火の時間まで、園内を回ることにした。
暗いので花を楽しむと言うよりは、飾られたイルミネーションを楽しんでいく。
「あっ……。あれ……?」
小百合が誰かを見つけたようで、声を上げた。
地元で、クリスマスで……それほど遊ぶところも無くて。
だったら、知り合いに会うのも必然だろう。
だが、俺にはその後ろ姿に見覚えがあった。
「ん? 山本?
隣にいるのは誰だ?」
俺と小百合は、こっそりと山本と隣の謎の人物……どう見ても女子だが……をつけ始めたのだった。
しかし……この行動が元で小百合と一緒に泊まることになるとは、俺は思ってもいなかった。
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