第24話 約束
俺はゾクッと背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
小百合を失うという恐怖が目の前にある。
もし付き合うのなら……こういうことはもうないようにしないとな。
俺は、ようやく自分がすべきこととが分かったような気がした。
「光くんが好きだと言ってくれてとても嬉しかった。でも春になったら……別々になるって分かっていたはずなのに……。
だからね、終わりにしようって思った。
最後に思い出を作って……。
でも……」
ひょっとしたら、今日俺が告白することを見越してずっと考えていたのかも知れない。
ずっと、一人で悩んで。
「無理だな」
「うん……無理……諦められない。
どうしたらいいのかな。でも遠距離恋愛は……正直苦しい思いを……。
ずっと泣くしかないのかな」
「ふぅ」
俺は息をつく。
「小百合はバカだな。勉強は俺よりできるのに」
少しきつめに言った。
驚いて、振り返り潤んだ瞳で俺を見る小百合。
小百合を俺の方に向けさせ、腕枕をした。
触れたところから柔らかさと温かさが伝わってくる。
「俺は、たぶん小百合が思っている以上に一緒にいたいと思っている。
寂しいと言われたら、いつでも会いに行く。いつだってだ」
「でも……」
「それがダメならさ、遠距離にならない努力を始めてみようかな」
「努力?」
「同じ大学、受けてみるさ」
小百合の顔が一瞬ぱっと明るくなり、すぐ微妙な表情になる。
そうだよな……無理だって思うよな。
無謀なことかもしれないけど可能性が無いわけじゃない。
「……じゃあ私も志望校変えて——」
「低い方に合わせてどうするんだ。小百合はそのままで。
でも、これから春まで……頼りにしてる。かなり頑張らないとな」
小百合と本当の意味で向き合う。
ぼんやり考えていたことが具現化して、やっと言えた。
「……わかった。私も協力する。
でも、ものすごく頑張らないと……」
「うん。でもさ、これくらいできないといけないかなって。
ずっと二人でやっていくためには……これくらい」
「そうだね……でも光くんならきっとできそうな気がする」
「小百合が言うなら間違いないかもな」
「うん……きっとそうだよ」
やっと小百合に笑顔が戻りほっとする。
はあ、よかった。
じゃあ、勉強は明日から……頑張ろう。
今日はこのまま、小百合と抱き合ってすごそう。
ああ、もちろん普通に……健全に抱き合ってだ。
身体は欲望丸出しだけど、理性で我慢はできる。
しかし……小百合はそんな俺の甘えを許さなかった。
「じゃあ、今から。頑張ろう?」
「い、今から?
こうやって抱き合うってのは……」
「ダメだよ。起きて勉強だよ?」
「じゃあ、その勉強が終わったら……」
「勉強が終わったら、次の教科の勉強だよ?」
「えぇぇ……」
なんだか俺と小百合の表情がさっきと逆転してしまっている。
小百合……厳しすぎないか?
まあ、でも……言い出しっぺだし頑張るしかないか。
「でもその前に……つきあうってことでいいのかな」
「うん。よろしくね、光君」
満面の笑顔で応える小百合。
「よかった。じゃあ……勉強……する?」
うう……。正直なところ、このまま小百合とくっついていたい。
でも、二人で決めたことだ。
でもあと一分だけ……そしたら起きるから……。
そんな俺の様子を見ていた小百合が、にこっと笑って言った。
「でもね、その前に……光くん、目を瞑って?」
「お、おう」
何か思いついたのか、小百合が言う。
俺は言われたとおり目を瞑る。
「動かないでね」
しばらく目を瞑ってしばらく待っていると、ゴソゴソという音の後、俺の上に小百合が乗っかるのを感じた。
程よい重さと柔らかさを感じる。
そして、がしっと俺の顔が小百合の腕で固定されるのを感じ……そして……。
俺の唇に温かくて滑らかな何かが触れた。
それは最初はちょんと軽く、そして次に密着するように——。
「んーーっ!」
びっくりして目を開けると、目を瞑った小百合の顔が見えた。
そっちがその気なら……。
俺は反撃する。
子供のようなそれをする小百合に比べ、経験値なら俺の方がある。
俺は小百合を抱き締め、より深く——。
「んっ」
小百合が可愛い声を上げる。
理性が飛びそうになるけど……ぐっと我慢して、続けた。
一生懸命俺についてこようとする小百合が、可愛らしく愛おしい。
離れると、小百合が頬を膨らませている。
「もう……。そんな……いろいろ反則だし……目を開けたらいけないのに」
小百合がぷうと膨れ、俺の上で抗議している。
「小百合、びっくりしたよ」
「うん……ごめんね。多分光君からはしてくれないって思ったから……」
そう言った小百合は耳の先まで真っ赤にして、俺の胸にしがみつく。
小百合に先手を取られたのはいつぶりだろう?
「でもつきあったからって……俺は……」
「分かってる。勉強しないといけないし、時間は限られてる……」
そうなのだ。二人一緒にいる時間があるなら、小百合には悪いけど俺が勉強を教えてもらう時間に充てた方が良い。
「俺、頑張るよ」
「うん……でもね、もし……もし、願いが叶ったら——」
「叶ったら?」
小百合は、さっきよりさらに顔が赤く染まっていた。
「もう……言わない!」
その答えを知るために、俺は必死に勉強を続けたのだった——。
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