第22話 幼馴染みに思いを告白して。
絵里に決別を告げた日。
スマホに絵里からメッセージが届いていた。
そのどれもが、会いたいとか、考え直して欲しいとかいうものだ。
俺は、どれも断ると返信をする。
しかしキリが無いので、もうやめて欲しい旨返信をした。
「今後、連絡してくるのはやめてほしい」
「やだ。どうして? 話を聞いてくれないの?」
「話を聞いてくれないのは絵里の方だよ。俺には好きな人がいるから。もう絵里には返事できない」
「そんな」
「じゃあ、これが最後にするし、アドレスは削除する。さよなら、絵里」
「やだ、やだああああ」
メッセージを送り終わると、絵里の連絡先を全てブロックし削除した。
連絡が来ることは、もうないだろう。
もし家まで絵里が来るようなことがあれば、厳しい対処をしていくしかない。
帰りの車の中で、父さんは仕事の話は気にするなといってくれた。
今後は直接やりとりするので、息子や娘を介すことは決してしないようにと念を押してくれたのだそうだ。
詳しいことは教えてくれなかったけど、仕事の面でもある程度区切りをつけるということのようだ。
次の日。
帰り際に、いつものように小百合を迎えに行く。
彼女のクラスメートたちは俺の姿を見ると、小百合に伝えてくれるようになった。
「小百合、彼氏が来たよっ」
「光君はね、彼氏じゃないよ。付き合ってないし、幼馴染みだよ。じゃあ、ばいばい〜」
そう言って、友達に挨拶をして俺の元にやって来る小百合。
同じやり取りを毎回していて笑いそうになる。
「光くん、おまたせ」
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
どちらともなく、手を繫いだ。
すると、俺たちの後ろから声が聞こえる。
「あれでつきあってないって、嘘でしょ?」
幾度も聞く言葉にプレッシャーを感じてしまう。
絵里のことも片付いたことだし、いよいよ俺もはっきりすべきなのだろう。
☆☆☆☆☆☆
俺は次の休日に、遊びに行こうと小百合を呼び出した。
彼女は弾むように「いいよ!」と返事をしてくれた。
久しぶりに二人で郊外のショッピングモールに行き、買い物をしたり、食事をしたり、遊んだりして過ごす。
「光くんとこうやって遊ぶのも久しぶりだね」
「そうだな。また来よう……いつでも」
「……あのね、光君」
「ん?」
「お互いの目標の大学って違うよね?」
「うん、そうだけど。でも、大丈夫。遠くても、絶対会いに行くし」
急に何を言い出すのかと思ったら進学の話だった。
最初から分かっていたことだ。
小百合の方が学力が高いので、その分良い所を受験する。
俺は残念ながら少し手が届かないところだ。
遠距離になっても続ける自信はあった。
遠くても、会いに行く。
会う回数を増やして少しでも距離を縮めていけば、すれ違うこともないだろう。
「そっか……ありがと」
少し素っ気ない小百合の返事が気になる。
「小百合、どうした?」
「エッ……ううん、どうもしないよ」
「ならいいけど」
俺たちは手を繫いだまま、デートを続ける。
少し早めにショッピングモールを出た。
そして帰りのバスに乗って……降りて少し歩く。
これから告白をする。
俺は告白のことで頭がいっぱいになる。
小百合にも俺の緊張が伝わっているようだ。
「光くん、どこに行くの?」
「うーん、ちょっと懐かしいところに」
「あ……。うん」
なんとなく察した小百合が頷く。
そこは、近所の海岸だった。
もう秋が近づいていることを感じさせる、夏の終わり、夕暮れ色に染まる海。
他の人はおらず、俺たち二人きりだった。
波は静かに寄せては返し、とても穏やかだ。
海の風を感じる。
少し肌寒い。その空気の冷たさが、俺たちを近づける。
「ここ、本当は遊泳禁止なのに泳いだりしたなぁ」
「そうだね。もうそんな勇気はないよね」
「ああ」
いざ告白しようと思っても、うまく言い出せない。
告白なんて簡単なものだと思っていた。
多分、小百合も俺のことが好きで、自分ももちろんそうで。
言葉にすることで「つきあう」という約束をする。
ただ、それだけだと思っていた。
「小百合……」
「うん?」
隣で同じ方向を見ていた小百合を見ると、彼女も向かい合ってくれた。
でも、小百合の瞳を見つめると言葉が出て来ない。
心臓が高鳴り、冷や汗をかいてくるのが分かる。
俺は緊張しているのだ。
俺は小百合との関係が変わるのが怖い。
つきあうことで変わってしまうこと。
失うものがあることが。
今の関係は、本当に心地いい。
つきあっても何も変わらないと思う。
恋人らしいことをするのかもしれない。
でも、そんなことはゆっくりでいいと思っている。
二人の時間はいくらでもあるから。
「光くん、ちょっと寒くない?」
「あ、ごめん……帰ろうか?」
「ううん。私は平気だけど、光くんの顔色がよくないような気がして」
そうか。
小百合はいつも、こうやって俺のことをよく見てくれていた。
俺は、彼女の握ったままの右手を俺のコートのポケットに入れた。
「あったかい……」
「小百合の手の方が温かいかも」
「今はそうかも」
「……なあ……」
変わることがあっても、小百合は、本質的なところは変わらないのだろう。
改めてそう思った。
何も怖がる必要は無いのだと気付く。
俺は言葉を絞り出した。
「小百合……大好きだ。付き合ってほしい」
俺はようやく、その言葉を発することができた。
「私も、光くんのことが……大好き」
小百合ははにかんでから、一度俯き再び俺の目を見つめた。
あとは付き合うという約束を……。
「じゃあ……」
「ね、光君。今日ね、両親遅くにならないと戻って来ないから、私の部屋に来ない?」
小百合は瞳を潤ませて、思い詰めたような表情をして言った。
「うん、分かった。久しぶりだな、小百合の部屋」
「そうだね……久しぶり」
お互いに、手を繋いで小百合の家に向かう。
☆☆☆☆☆☆
——絵里と別れて小百合と接するうちに俺の心は癒やされてきた。
もしつきあうことになっても、経験がある俺がリードすれば良い、などとは思っていなかった。
絵里から乗り換えたような付き合いになることの意味を俺は理解しているつもりだ。
経験がある分、好きな相手と抱き合う気持ちよさを知っている。
俺の本能が、何度、彼女を抱きたいと思った事か。
でも、俺は自分を戒めてきた。
抱き締めたり手を繋ぐことはあってもそれ以上のことはしていない。
キス含め、それ以上は全くしていない。
小百合を俺の部屋に上げたことはあったけど、何もしていない。
つきあっていないのだから当然だ。
でも、気を許すとあっさり一線を越えそうな、そんな予感がする。
それは良くないと思う。
もし、俺が経験がなかったり、何年も恋人がいないのならともかく。
俺は絵里と別れてから、それほど経っていない。
だから、もしつきあっても、身体だけは距離を置こうと考えている。
ただ……今は、小百合の方から求めてきている。
言葉の意味を分からない俺じゃない。
でも……俺は……。
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