第19話 元カノとの最後の時間を過ごす。
お知らせ:
※18歳以上の方に限定されますが、本小説のR18バージョンを別のサイトに連載しております。
絵里は勝利を確信している。
その自信は一体どこから来るのか?
小百合が先に帰った意味を理解していないんだ。
俺ははっきりと言うことにした。
「ごめん。もう、絵里と付き合うことは考えられない」
「えっ? どうして? 角田とちゃんと別れたし……細川君誰とも付き合ってないんでしょ?
それに、私のこと、まだ好きな気持ちがあれば大丈夫大丈夫」
「もう、絵里のことは吹っ切れたよ」
「えっ……? もうって……?」
「うん。っていうか、とっくの昔に」
そこまで言うと、絵里は俯いた。
「だったら、これから……これからまた、最初から——」
「無理だよ」
「どうして?」
そんなことは決まっている。
こういう人は自分が何をしたのか分かっていないのだ。
前はそうで無かったはずなのに。
いつからこうなってしまったのだろう。
「もう、絵里を信じられないからだよ。
あの時、絵里と付き合っている時、お互い本気だと思っていて、多分それは本当のことで、お互いに真剣だったと思う」
「う、うん……」
「だけど、絵里は変わってしまった。他に好きな人ができた、そう言って俺の元から去っていった」
「それは悪かったわ。だから、こうやって元に戻ろうとしてるのよ?」
元に戻ろうとしているのは、アイツがDVなど振るう男だったからだろ?
しかも……本当に最低な奴だと。
そうじゃなかったら、絵里はこうして俺とよりを戻そうとしただろうか?
違うような気がする。
「もう無理だよ。君が他の男と一緒になったと考えて吐き気がした。今でも正直キツい。
もう、俺の中の……俺が好きだった絵里は死んだんだ」
絵里の瞳が潤み、涙が流れようとしていた。
「そ、そんな……私は……まだいるわ」
「そうだ。でも、もう俺が好きだった頃の絵里じゃない。
君自身だけじゃなく、他の男にって考えただけで、無理なんだ。
付き合っても同じ事を繰り返す」
多分付き合っても。
その言葉に、絵里は顔を上げた。
「もう、同じ事は繰り返さないから。大丈夫よ」
「その言葉を、もう俺は信用できないんだ」
「そ、そんな……いや……いやだ。また、付き合おうよ? また、あなたの家で……抱き合ったりしよ?」
もう俺は絵里に何も感じなかった。
彼女のこんな姿を見ても、心が動かない。
もし俺の心が動くとしたら……。
「絵里、俺にはもう好きな人がいる」
「……っ!」
「それは君じゃない。もう無理なんだよ」
「やだ。そんなの知らない。確かにさっきの子は可愛いかもしれないけど、私の方が……あの女と私を比べて——」
そこまで言って絵里はハッと表情を変え言葉が止まった。
散々比較し、小百合にボロ負けしたのは絵里自身だ。
しかし絵里はめげなかった。
「——いや、だとしても。私との幸せな時期だってあるでしょう?
また、そうやって幸せな時を過ごすことだってできる」
「確かに、付き合い始めや体を重ねたときは幸せだった」
「でしょう? だったら……」
「でも、それは……もう思い出なんだ」
「思い出……そんな……」
俺の意思が変わらないことを少しずつ理解してきているようだ。
「これからは、小百合のことを考えて生きていたい」
「う……そんな……いや……いやだ。私は細川君のことが好き。好きだから……諦められない」
「絵里に振られたとき、俺だって簡単に諦められなかったさ。でも時間がなんとかしてくれる」
しばらく、沈黙が部屋を支配した。
ふと、スマホを見ると連絡が入っていることに気付く。
父さんからで、親同士の話し合いは終わったとのことだ。
俺を待ってくれているらしい。
ただ、急ぐ必要は無いとの連絡だった。
絵里が口を開く。
「……でも、まだ付き合ってないでしょう?
ひょっとしたら、細川君の一方通行かも知れない。
例えば、千石さんに他に好きな人がいたりするかもしれない。もしそうなら、私と……」
今の状況で、想像ができないことだ。
俺は、小百合が俺に好意を持ってくれていると確信している。
それが、自惚れではないことも。
もし仮に絵里の言うとおり、俺の一方通行だったら。
じゃあ、その時はずっと一人で過ごすのも悪くないかも知れない。
「もし、もし小百合に振られても、諦めるつもりはない」
「え……そんなに……?」
「それに、もし仮に俺の思いが届かなくても、絵里に戻るつもりはないんだ。決して」
俺は絵里の未練を断ち切るように、すっと立ち上がった。
「じゃあな。話は終わりだ。俺も帰るよ」
「そんな、待って……まだ話は終わってない」
「俺からはもう話すことは何も無い」
「やだ。私の気持ちはどうなるの? 私は……私はやっぱり細川君が好き。大好き。だから、待って……?」
絵里は部屋を出ようとする俺の足に縋ってきた。
俺は、その指を……手を解いていく。
「もし……もし、小百合に会う前だったら」
「俺のことをずっと見ていて、
俺のことを誰より知っていて、
でも、控えめで」
「自分の気持ちを押し殺して生きてきた幼馴染みの女の子に、会っていなかったら……」
「人の思いに、人の気持ちを想って涙を流す幼馴染みに会っていなかったら……」
「少しは考えたかもしれないな。
俺は弱かったし、絵里に頼っていた部分は確かにあった」
「……」
「でも、もう俺は変わってしまった。絵里が変わったように」
「……じゃあ……もう……遅いってこと……?」
「うん。もう、絵里の知っている俺はどこにもいないんだよ」
「イヤ……いやだ……。うわあぁぁぁぁん——」
「さようなら。絵里」
俺は泣きじゃくる絵里を置いて部屋を出た。
好きな人を失う気持ちを、少しでも感じて貰えたらいいのだけど。
同じ間違いを繰り返さないためにも。
料亭の人に案内されて外に出た。
そこには、夜の空を見上げた、父さんが静かに待っていた。
「まあなんだ……。色々あるとは思うが……。
お前、泣いているのに気付いているか?」
「え……」
「一つだけ教えてやる。
一人の男が本当に幸せにできるのは、たった一人の女だけだ。それだけ覚えておいてくれ」
「……うん」
父さんはくしゃくしゃっと照れ隠しのように俺の頭を撫でた。
「さあ、帰ろう」
父さんの心遣いが、嬉しかった。
【作者からのお願い】
この小説を読んで
「壊れたものは、元に戻らない」
「続きが気になる!」
「この先どうなるの!?」
と少しでも思ったら、ブックマークや、↓の★★★★★評価 を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、更新の原動力になります!
よろしくお願いします!