第18話 そして火花を散らした後、幼馴染みは退場していく……。
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目の前の料理を食べつつも、幼馴染みと元カノの会話が進んでいく。
「どうして細川君の幼馴染み……千石さんがここにいるの?」
「父に言われて来ました。私も、貴女と……光君の元彼女さんとお話しがしたくて」
元彼女という言葉に、うっと少したじろぐ絵里。
普段、小百合の声は落ち着いていて棘など含まないが、今は違っている。
「なるほど。あなたとはここで決着を付けておくのもいいかもしれないわね」
「私もそう思います」
絵里も小百合も興奮している。
絵里はともかく、小百合のこんな姿は見たことがない。
「だいたい、細川君と親しくされてるってどの程度なの? 当然、キスとかその先も?」
「えっ……。そ……それは……光君と……手を繫いだり……」
「なあに? そのおままごとみたいな付き合いは。
小学生じゃあるまいし、最初にキスしたのは私よ」
ここで小百合は反転攻勢に出る。
「ううん、最初のキスは私とだよね? 光君」
「な、何よ。どういうこと?」
「小学一年の時……」
俺は忘れていたのだけど、小百合の声で記憶が蘇る。
「あっ。思い出した。あの時か」
「うん」
あれをカウントに入れるべきか?
——小学校一年の時。
大人の男女がキスをしているところをたまたま公園で見かけた俺と小百合。
俺はなんとなく、本当になんとなく……真似したくなって小百合に言ったのだ。
「さっきのあれ、してみよっか?」
「えっ? キスのこと?」
「うん」
「……光君がしたいなら……いいよ」
「どうした? 顔真っ赤にして? どうして目を瞑るの?」
返事をしない小百合に俺は顔を近づけた。
唇と唇をちょんと触れる。
俺はその意味を分かっていないから、あっけなくこんなものかと思ったものだ。
今思えば、小百合にとっては重大な出来事だったのだろう——。
「ええええ! 小学一年の時って、そんなのノーカンに決まっているでしょ!?」
「ですが、初めてという話をしたのはそちらですよね?」
「う……そ、そうだけど」
旗色が悪い絵里だったが、めげる様子はない。
「じゃ、じゃあ……細川君と初めて……初めて抱き合って……初めてセックスしたのは私よ?」
何を競っているのかよく分からないが、ふふんと小百合を見下す絵里。
しかし小百合は引かなかった。
なんだかムキになっているけど小百合大丈夫か……?
「わ、私だって……私の方が先に光君と一緒にお風呂入ったり寝たりしたもん! ね、光君!?」
同意を求められて記憶を辿る。
「お……おう」
「それ、いつのこと?」
「小学校五年くらい……だったかな」
——俺はなんとなくその時のことを思い出していた。
互いの家に泊まり合い、小学校高学年にもなっても一緒に風呂に入ったことがあったな……。
さすがに親に止められてから、もうそういうことはしなくなったのだが。
だが、正直なところ、あまり小百合の裸の姿の記憶がない。
たぶんそのころは女子のことなど全く意識していない子供だったのだろう。
「またそんな前のこと」
「だけど、初めてという話をしたのは——」
「くっ、さすがに細川君とお風呂に一緒に入ったことは無い……わ。でも細川君の初めては——」
あくまで初めてにこだわる絵里だったが、小百合はここで開き直った。
「私は、これから……私の初めてを、光君にあげられるもん!
ずっと、生涯たった一人、光君だけに——」
小百合は、言った後はっと何かに気づき、両手で顔を隠した。
指の隙間から見える小百合の肌は、目も当てられないほど真っ赤に染まっている。
自分の発言に驚き、恥ずかしがっている様子がとても可愛い。
「っ!」
一方の絵里は、小百合に言い返せないでいた。
そういう意味での優位性がなくなったと感じているのだろうか?
小百合のように初めてでもないし、俺以外の男に全てを許した絵里。
絵里自身が自ら比べるということを言い出しておいてこの状況だ。
これ以上言い合っても意味は無いだろう。
「あのさ、もう互いに比べるなんてやめてくれ」
「「うん……」」
二人は同意してくれたようだ。
しばらく無言のまま食事をとる。
そして、落ち着いた小百合が、ゆっくりと話し始めた。
「五木さん。細川君と付き合っていたのに、振っておいて……どうして今さら?
あなたたちが別れなければ、光君が幸せだったら私はそれでよかったのに」
小百合の声に力が入っている。
いろいろな感情が膨らんでいるのを感じる。
「別れて、他の人とつきあって、細川君の良さがやっと分かったから」
絵里の声はやや萎んでいた。
「そんなの今さらだよ。どれだけ光君が落ちこんでいたのか知ってる?
良さなんて付き合っているうちにいくらでも……私よりも分かったはずなのに、どうして?」
小百合の声が震えている。
俺はその声に小百合の感情を、覚悟を思い知る。
きっと小百合は、ずっと……。
「……。確かにその通りよ。でも、だからこそ本当のことが分かった」
「何が分かったの?」
絵里は、少し溜めてから噛みしめるように言った。
「私が、細川君のことが大好きだって事」
「……そっか。分かった。
私はこれで帰るね。私がこれ以上ここにいても、喧嘩になるだけだし」
「「えっ?」」
俺と絵里が同時に驚く。
こんな状態で帰る?
「光君。ちゃんともう一度、五木さんと話してね」
「お……おう」
「私も光君のことよく分かってるつもりだから。だから、ね。ちゃんと……ね」
「うん、わかった」
小百合は、絵里に挨拶をしてこの部屋を去って行った。
取り残された俺と絵里。
しばらく経ってから絵里は自信ありげに言った。
「そっか、千石さんは諦めたんだ。じゃあ、これからは私たち二人で……また付き合ってくれるよね?」
すっごいポジティブなんだな。
ちょっと羨ましいと思いつつ、俺はふう、と息をつく。
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