第17話 これが噂に聞く修羅場というものなのだろうか?
いつものように小百合を送ってから家に帰ると、父が低い声で話しかけてきた。
「なあ、光。最近、五木さんの娘さんとどうしてる? さっき連絡があってな、お前と一緒に会食に誘われたんだが?」
「えっ、絵里のところと?」
「ああ。最近、その絵里さんだったか、あまり家に来なくなったようだが、どうしているんだ?」
そろそろ現状を伝えた方がいいのだろう。
俺は、はっきりと言う。
「もう別れたよ。会ってない」
「やっぱりそうなのか。じゃあ、断る方向で考えた方がいいのかも知れないな」
「えっ? 仕事の話? いいの?」
「ああ、お前に嫌な思いをさせてまでするような仕事は無い。特に恋愛がらみは面倒だからな」
父さんは、どこか遠い目をしてしみじみと言った。
「……もしや父さんも苦労を……?」
「あらあら、何のお話かしら?」
母さんが参戦してきた。
言葉は柔らかいが、目はギラついている。
途端に顔色が悪くなる父さんだが。
「すまん、電話だ」
あ。
逃げた!
しかし、その電話は千石家、つまり小百合の親からの電話だったらしい。
千石家とも仕事の付き合いがある。
「すまん、光。やはり会食には行くことになった」
「え?」
「どうしてもと言われてしまってね。まあ、この際ハッキリとこちらも言うことにするよ。ちなみに、小百合ちゃんとは今でも仲良くやってるのか?」
「あ、うん。今一緒に帰ってるし、仲はいいと思う」
「付き合ってるのか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
父さんからそう言われると、正直照れてしまう。
「なるほどなぁ。分かった。もう少ししたら出ようと思うから、着替えてきてくれ。あまり気取らないでもいいけど落ち着いた服がいいかもな。制服が無難だな」
「ええ? 今から?」
「ああ。光もご指名だ」
俺は父さんと久しぶりに一緒に出かけた。
☆☆☆☆☆☆
そして大きい家……というよりは、お屋敷みたいなところに着いた。
料亭?
こういうところに来るのは初めてだ。
迎えにきた人に案内される。
「光はこの先の部屋に」
「え? 父さんと一緒じゃないの?」
「ああ。いろいろ難しい話になりそうだし、子供たちは別の部屋だ」
なんだか嫌な予感がする。
その予感は的中し……。
畳の純和風の部屋。
壁には掛け軸が飾られている。
何か書いてあるけどぐにゃぐにゃしていて読めない。
低いテーブルと座椅子がある。
ドラマでよくある、偉い人が食事をしながら悪巧みをする部屋だった。
「細川君!」
「やっぱり……」
部屋には、絵里が一人で座っている。
俺は、その正面に座った。
「こんばんは。また会えて嬉しいな」
絵里はドレスのような白いワンピースを着ていた。
ちょっと部屋の雰囲気と合わない気がする。
前会ったときは酷い有様だったけど、今は腫れなど怪我は見られず顔色もいい。
軽く化粧もしているみたいで、気合いが入ってるようだ。
道ですれ違えば多くの男が振り返りそうな外見だが、俺が心が動かされることはなかった。
「もしかして絵里が段取りをしたのか?」
「どうしてそんな怖い顔をしてるの? そんなこと私ができるわけ無いでしょ」
じゃあどうしてこんな状況になるんだよ。
「それに……私……。別れたし」
「角田と?」
絵里は、俺が角田の名前を出したところで一瞬顔をしかめた。
もうその名前は聞きたくないのだろう。
「うん。私を殴ったりしたこと全部話したら、大変なことになったみたいで」
「そうか」
「だからね、また細川君とつきあってもいいかなって。細川君と別れて、あなたの良さがよくわかったっていうか」
まただ。今さら、何を言っているのか。
別れたからどうだというのだ。俺には関係ない。
俺は溜息をつきながら冷めた目で絵里を見る。
「お料理の準備ができました」
着物を着た女性が、料理を運んできた。
三人分の料理を並べていく。
「「三人分?」」
絵里と同じタイミングで質問してしまった。
「はい、もう一人お連れ様がいらっしゃると……」
「え? そんなの頼んでない」
「絵里……やっぱりこの場をセッティングしたのは……」
「あっ……」
急に絵里が黙り込む。
俺はその顔を睨みながら、料理が並べられるのを待った。
「こんばんは……あっ、光君」
そこに小百合がやってきた。
もう一人というのは小百合のことだった。考えてみれば当然だ。
小百合は、料亭の女性に座る場所を聞き、俺の隣に座る。
すると、絵里が俺に聞いてきた。
「え……誰?」
「幼馴染みの小百合だよ」
「なっ。じゃあ、この子が……むっ」
「光君、こちらの方は?」
小百合が俺を見る目は優しい。
しかし、小百合が五木を見る目には炎が宿っていた。
「えっと、小百合、この人は五木絵里と言って——」
「細川君の彼女よ」
「元だろ、元」
小百合に誤解させないようにしっかり訂正する。
まあ、今さら大丈夫だろうけど。
「はじめまして、五木さん。光君と親しくさせていただいている千石小百合と申します」
「なっ! 親しくって——」
先制攻撃をしたのは、なんと小百合だった。絵里は焦っている。
そんな様子に少し笑いそうになった。
だけど、小百合が絵里に向けて挨拶をした瞬間、この部屋に稲妻を見たような気がした。
きっと幻だと思うのだけど。
いったい何が起きているんだ?
これはもしかして……これって……噂に聞く修羅場……?
い、いや……俺は二股なんてしてないし違うよな。
それにしては、この部屋のピリピリした空気は一体何だろう?
小百合の初めて見る戦闘モードに、俺は釘付けになった。
優しい幼馴染みの真の姿を、俺は見ることになる。
【作者からのお願い】
この小説を読んで
「幼馴染みVS元カノ……!?」
「続きが気になる!」
「この先どうなるの!?」
と少しでも思ったら、ブックマークや、↓の★★★★★評価 を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、更新の原動力になります!
よろしくお願いします!