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第15話 後日談と親友の告白(3)

——山本視点



「千石さんと話してると、どうしても細川の話題になるな」


「そうかな? ……そうかも」



 一人で納得している千石さんは、はにかみつつ言った。

 その顔を見て、オレはやっぱり好きなんだと、再確認をする。っていうか、こんな可愛い笑顔に惚れないヤツいるのか?

 いや、いない。



「それでな、千石さん」



 オレは本題を切り出した。

 声のトーンが変わったことに気付いた千石さんは、はっと顔を上げ、オレの瞳を見つめてきた。



「う、うん……?」


「あの……その……この前も、見舞いに来てくれてすごく嬉しかった。

 今日は時間を作ってくれてありがとう」



 細川と帰る時間を奪ってごめん、とは言いたくなかった。

 今だけは、アイツの名前を出したくなかった。



「は、はい」


「話って言うのはさ……オレの気持ちというか……」



 うまく言葉が出ない。

 本当は、もっとサクッと言って、笑って終わるつもりだったのだけど。


 怖い。

 バスケの試合前も怖かったけど、今ではそれ以上に心臓がバクバクする。


 諦めていたつもりなのに、整理とケジメのつもりなのに。

 いつも本番は予想外のことが起きて、うまくいかないこともあるものだよな。



「うん……山本君——」



 千石さんはテーブルの上に手を置いていて、手のこぶしはぎゅっと握りしめられていた。



「オレは……オレは……」



 やっぱり言葉が出ない。

 すると、千石さんの瞳が潤んでいることに気付いた。恐らく、オレもそうなのだろう。



「うん。山本君」



 千石さんは、それだけを言って、オレの言葉を引き出した。



「オレは……千石さんのことが好きだ。

 ずっと、前から」


「うん……」



 千石さんは目を逸らさずに、オレの言葉を受け止めてくれていた。

 うん、という言葉の意味は……知っていたという意味なのか、それともオレが言ったことに対して分かった、という意味なのか。


 たぶん、後者なのだろう。

 しばらく、沈黙の時間が流れる。


 千石さんは、オレを見つめていながら、ずっと考えているようだった。

 強い意思を持って、思いを言葉に変えようとしている。


 あれ? 千石さんってこういう顔もするのか。

 初めて見る表情に驚きつつも……オレは不思議と納得できるような気がした。


 当然の変化なんだろう。きっと。



「あのね……。本当にね、本当に嬉しいんだよ?

 ……山本君の気持ち。

 でもね……でもね……ごめんね……」



 千石さんは、歯を食いしばり瞳から涙がこぼれそうになるのを必死にこらえているようだった。

 そのキラリと輝く瞳を見たとき、オレはようやく確信する。


 千石さんの抱く思いは、到底オレの想像できる範囲にない途轍もない大きなものだということを。

 多分、諦めようとしたことすらありそうな、それくらいの……。


 それほどの思いに、オレごときが敵うはずがない。

 背負えるはずがない。


 細川、お前は知っているのか?

 この途方もなく大きな、大きな想いを。


 理解することで、オレは逆にスッキリとした気持ちになった。

 なんというか……今は……告白したことに嬉しさを感じていた。


 不思議だ。

 振られて落ちこむんだろうなーとは思っていた。


 でも、現実はそうではなかった。

 嬉しい……ただ、それだけだ。

 本番ってのは本当に……。



「やっぱそうだよなー。いや、分かってたよ。

 こっちこそごめんな。

 ちくしょーいいなあ……細川のヤツ。

 羨ましいなあ」



 決して卑屈になったわけではない。

 心から祝福しようと思って、つい言葉がこぼれてしまった。


 オレは嬉しさのあまりにこぼれる笑顔を、彼女に向けた。

 その瞳に溜まった涙が、ひっこめばいいなと。



「山本君……」


「はい、この話はおわり!

 アイツさ、意外と鈍いところもあるから、気をつけないといけないと思うんだけど」


「そ、それは……そうかも。意外じゃないかも……」



 よかった。

 ちょっとだけ、涙が引っ込んだようだ。千石さんに笑顔が戻った。


 こういうときは、アイツをディスるに限る。

 おっと、あまりディスると怒っちゃうからほどほどに。

 


「苦労するよな……千石さん……オレはそれが心配で心配で」


「もう。山本くんー。

 でもね、山本君も鈍いところあるかも……」


「えっ?」


「結構モテるんだよ? 山本君って」



 互いに空気を変えようとしている。

 でも、それはとても心地よい雰囲気で。


 ああ、だからこそ、オレは彼女を好きになったのだろう。



「えっ、詳しく!」


「あっ、ごめん、今の聞かなかったことに——」



 オレたちはそれから少しだけ話をした後、千石さんを家まで送り別れた。


 オレは一人、帰り道、空を見上げた。

 夜空には星が煌めき、綺麗に輝いていた。こうやってのんびり夜空を見たのはいつぶりだろう?



「はあ、振られたなあーー」



 反動は少し後に来るのかも知れない。

 まあでも、今はすがすがしい気分だ。


 オレはしばらく、美しい星々に見とれていた。



 こうしてオレの初恋は終わったのだった。


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