第14話 後日談と親友の告白(2)
——山本視点
「クラスに可愛い子がいる。名前は、千石小百合というらしい。読者モデルもしていたらしいぞ?」
春、クラス替えで見かけない顔にまだ慣れていない頃。
同じクラスになった男共が話していた。
この頃、オレは部活漬けの日々を過ごしていた。
そのため、クラスで新しく見る同級生に興味が湧かなかった。
もっとも、同じ校区に住んでいたので、顔は見たことがあった。
「ああ、あの子か。まあ、噂にはなるよな」
オレは最初、その程度に考えていた。
☆☆☆☆☆☆
「細川に他校の女子が告白してきて、付き合い始めたらしい」
ある日のこと、オレがバスケ部の話を友人としていると、千石さんがチラチラこちらを見ていることに気付く。
どうやらオレよりも、話している相手のことが気になっているようだ。
バスケ部に彼氏でもいるのか? それとも細川のことか?
チラチラと視線を感じ、時々目が合った。
千石さんはいつも、びっくりした様子でぺこりと頭を下げそっと視線を外すということを繰り返す。
でも、しっかりと耳はこちらに向いている。
その小動物みたいな仕草が可愛い。
一度意識し始めると、次第に惹かれていくことにそう時間はかからなかった。
千石さんはあまり男子と話している様子は見られず、女子の友達も多くはいないようだ。
クラスの中では地味な存在として認識されている。
目立つ女子ほどではないものの、千石さんの人気は悪くはなかった。
聞けば、「千石さんいいよな……」という感じで気になっている、好きだと言うような男がちらほらいる。
そうなると当然勇気のあるヤツから告白していく。
しかし結果はいつも同じ。
噂では「好きな人がいるから」という理由で断っているようだ。
その好きな人というのがどうにもぼんやりしていて、誰なのか分からなかった。
オレもバスケ部に集中することにして、一旦千石さんのことは脇に置いておくことにした。
☆☆☆☆☆☆
時が流れ、オレは部活を引退。
そのしばらく後に、放課後になると必ずやってくる男がいた。
バスケ部同期の細川。背が高く、ポジションはセンターで、試合ではサイドからのスリーポイントシュートをバンバン決める得点源の一人だ。
仲よさげに帰って行く千石さんと細川の姿を見て、オレは一人納得した。そうだ、あいつも同じ校区だ。好きな人というのは、細川のことだったのか、と。
あっというまにクラスで話題になる。
ある男は絶望のどん底にたたき落とされ、ある男は細川に嫉妬の視線を送る。
一方の女子たちは、幼馴染みカップルの誕生を楽しみにしつつも、細川の前の彼女の噂や、どこまで進展するのかと飽きずに話題にしていた
「あの細川って人の元カノ、他の男と浮気してしれっと振ったらしいよ」
「最悪……。その傷を、千石さんが癒やしているの」
「付き合ってるのかな? あの二人? もうしてるのかな……」
そしてオレは……細川ならしょうがないか、とも思っていた。
他校にいた彼女と別れたらしく、最近元気がなかった。俺が細川をケアできないことに苛立ちを覚えていたけど、千石さんが全て解決したのだろう。
オレが千石さんを好きだという気持ちは、胸にしまっておこうと思っていた。
☆☆☆☆☆☆
事件が起きた。
千石さんが何者かに連れ去られたのだ。
細川に連絡し、親戚の警察やバスケ部にも連絡する。
バスケ部の奴らは気の良い奴らばかりで、一人が警察やバスケ部内の連絡役を引き次いでくれた。
オレは単身、やつらの後を追って工場の事務所のような所に連れ込まれる千石さんの姿を確認、建物に侵入していく。
部屋の外で様子を伺っていたものの、多勢に無勢。迂闊に飛び込むわけにも行かず、チャンスを見逃さないように努めて冷静でいようとした。
バスケ部員も細川ももう少し到着に時間がかかるようだ。
一方の千石さんは気丈に奴らに抵抗している。
心が折れていない様子にオレは安堵しつつ、引き続き様子を窺っていると、どうやら奴らは千石さんの服に手をかけ始めたようだ。
オレは冷静さを失い、細川に最後の連絡をすると部屋に突入した。正直、この辺りはあまり覚えていない。
気がつくと、千石さんを抱える細川と、床に寝転びのたうち回るどこかで見た他校の男がいたのだった。
そしてようやく、オレは殴られた痛みを感じはじめる。
☆☆☆☆☆☆
オレは全然平気だったのだが、入院をすることになった。
どういう力が働いていたのか分からない。
大人怖いと思ったのだが、オレは素直に状況を受け入れることにした。
退屈な入院。数日で退院することになるのだが、その最終日、千石さんが見舞いに来てくれた。
「山本君、ありがとうね。光君……あっ、細川君にも聞いたけど、いろいろ頑張ってくれたんだって?」
そういって、オレの頭にぐるぐる巻いてある包帯を見つめる千石さん。
「それに、こんなに怪我を……」
「い、いや、これすっごい大げさなんだ。軽いかすり傷だし、もうほとんど治ってるし大丈夫」
「本当に……?」
千石さんは、少し瞳を潤ませている。優しいんだな。オレのために悲しんでくれるなんて。
くぅ〜細川のやついいなぁ……。こんなかわいくて、優しい女の子と幼馴染みだなんて。
千石さんには笑顔でいて欲しい。オレは精一杯の見栄と虚勢を張る。
「本当だよ。だからね、オレのことは心配しないで」
「う、うん……。それでね、今日はね、お礼というか——」
千石さんは、なんと手作りのお菓子……ケーキまで作ってくれたのだ。
オレは感動してしまう。今まで女の子に、こんな贈り物してもらったことがない。
くぅ〜細川のやついいなぁ……。こんなかわいくて、優しい女の子と(以下略
「えっ。マジ? オレ母親以外にこんなの貰ったことない……感動の嵐だよ。もう死ぬまで忘れないっ! うっ、ううっ」
「もう、山本君たら……ふふっ」
少し会話して、屈託なく笑う笑顔をみてオレは確信する。
この強さは、きっと細川がいるから……二人が近づいていることの証だと。
そしてオレは後で、千石さんがくれたお菓子を感動で泣きながら食べたのだった。
美味しかった。
とても甘くて、ちょっとしょっぱかった。
☆☆☆☆☆☆
細川と千石さんの関係はとてつもなく深い。
だったら、逆に遠慮することはないんじゃないか?
二人にはちょっとだけ申し訳ないけど……思いを告げてもバチは当たらないんじゃないだろうか。
もちろん、勝算はゼロなのは分かっている。
あくまで次に進むために……この気持ちを整理しケジメを付けるために。
オレは、細川に了承を得た後、一日だけ千石さんと一緒に帰りたいとお願いしてみた。お菓子のお礼に、と言おうとしたけど普通に断られそうなので、話があると正直に伝える。
そして、帰り道。他愛のない話をしつつ、駅の近くの喫茶店に千石さんと一緒に入った。
いよいよ、オレにとっての決戦の時がやってきた。
【作者からのお願い】
この小説を読んで
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