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第13話 後日談と親友の告白(1)

夕方も更新します。もしよろしければ、ブックマークをお願いします。

 

 警察から帰った俺は、疲れですぐに寝てしまった。

 まあ、あの様子だと角田やその仲間はもう手出しできないだろう。


 翌日、学校では昨日の事件の簡単な話が先生からあった。



「昨日のことだが、下校途中の女生徒が、男達に誘拐されそうになったそうだ。

 こういうこともあるので、できるだけ明るいうちに帰れよ。

 遅くなるときは、友達と一緒に帰るとか、気をつけて登下校してくれ——」



 実際には連れ去られたわけだから少し事実とは異なる。

 小百合のことを配慮した結果、そのように伝えることになったのだろう。


 しかし、結局は、その辺りの真相に迫る噂が立ちはじめていた。

 小百合のことが色々言われると嫌だなと思ったが、幸い予想外の部分が噂になり始めたのだった。

 どちらかというと、なぜか俺の話が噂で盛り上がっていた。



 いつものように放課後、小百合を教室に迎えに行く。



「小百合、今日も彼氏が来たよっ!」


「……ありがとう。でもね、付き合ってなくて、幼馴染みだよ。じゃあ、私帰るね」



 頬を染めて教室から出てくる小百合は、嬉しそうでもあり、少し遠慮しているように感じた。

 背中から、彼女のクラスメートたちの声が、噂話をするのが聞こえる。



「あの二人、やっぱ噂は本当なのかな?」


「どう見ても付き合ってるようにしか見えないんですけど?」


「細川って人が助けに来て犯人をボコボコにしたって本当?」


「あーいいなあ。ヒーローじゃん。尊い」


「バスケ部もみんな活躍したらしいね。山本君名誉の負傷。カッコいいよね」


「あのさ、山本君って……彼女とか、好きな人いるのかな……?」



 犯人をボコボコにしたとか、事実と異なる話にさらに背びれ尾ひれがついていく。

 そのおかげで噂の中心が小百合から離れてくれたので、それ自体は悪いことではなかった。


 俺も時々直接聞かれ、訂正はしたのだが……噂は止まらない。



「みんなね、光君のこと噂しているの」



 小百合は嬉しそうに語った。



「なんかね、空手の有段者で犯人グループのリーダーを一撃で倒したとか、白い馬に乗って現れたとか」


「もう滅茶苦茶だな」


「でもね、私には……そう見えた」


「え? そうなのか? 大丈夫か? 目に異常があるのか?」


「ふふっ。もう、そんなこと言って……もちろん、正常だよ。

 にらみ合いが続いてどうなるかって思ってた時に、みんな突き飛ばして私のところに来てくれた」


「そういう状況を作ってくれた、俺以外のみんなのおかげだよ」


「うん。でもね、光君がね、一番最初に私のすぐ側に来てくれたの」



 少し笑いながら、俺を見つめる小百合。



「私ね、怖くなかった。男の人に囲まれて、何をされるのか分かっていたけど。

 光君がね、きっと助けてくれるって思ってたら、怖くなかった」


「そっか。小百合が怖い思いをしていなかったのなら……」



 俺は小百合の顔を見た。

 彼女は俺を見て、もうしょうがないなあ、という顔をする。



「心配してるでしょ? でもね、ホントにね、ホントに怖くなかったんだよ?

 でもどうしてかな?

 ……今思い出す方が怖いかも」



 小百合の手と俺の手が触れた。

 思い切って握ってみる。


 拒絶されたらどうしよう?

 とんでもなく胸が高鳴り、冷や汗をかく。


 少しの戸惑いの後、小百合はそっと握り返してくれた。



「思い出さなくていい。俺のことだけ思いだせば——」



 なんか滅茶苦茶恥ずかしいことを言いかけたことに気付き、俺は口ごもる。



「うん、そうだね。光君のことだけ、思い出してる」


「めっちゃ恥ずかしいんだけど」



 彼女はくすくすと笑って、指を絡め、ぎゅっと握った。

 俺もそれを握り返す。

 

 大変なことがあったわけだし、思いを告げるのは小百合がもう少し落ち着いた時がいいだろうと思った。


 もう、あとは互いの気持ちの確認という儀式をするだけだと、俺はそう思っていた。

 思っていたのだが……。




 その数日後。

 休んでいた山本と会っていろいろ話を聞いた。


 二人きりで、人があまり来ない校舎の端の階段に座り腰掛ける。

 包帯を顔にぐるぐる巻きにしている山本。



「山本……なんか包帯大げさじゃね?」


「そうかな?」


「それじゃミイラ男だ」



 彼が特攻したとき、角田らに数発殴られたらしい。

 その最中に他のバスケ部員も到着し睨み合いが始まり、さらに俺が入っていったわけだ。


 確かに俺が小百合が捕まっていた部屋に入ったとき、彼の顔は少し腫れていた。



「病院の先生がそのほうが印象がいいから……って言ってて」


「俺からすると印象最悪なんだけどな」


「そう? 警察のみなさん、心配してくれてめっちゃ印象良かったよ?」


「確かにその見た目だと心配になるな。

 それはともかく山本のおかげで早く小百合の元にたどり着けたし、

 特攻してくれたおかげで小百合は酷いことをされなかった」



 俺は山本の目を見つめて言った。



「本当に感謝している。ありがとう」



 俺は頭を下げた。

 これで貸し一つな……と山本は言うんだろうな。


 当然のことだしむしろ安いくらいだ。いや、これから何かあったら俺が山本を助ける番だ。

 何でも言ってくれればいい。俺は心からそう思う。



「うん。千石さんを守れてよかったと思っている。本当に」



 山本の言葉にとても熱い想いを感じた。



「ああ。小百合も感謝していた」


「うん、親御さんと家に来てくれたよ。あの笑顔を守れただけで……本当に良かった。オレのためにさ、手作りのお菓子持って来てくれたんだぜ?

 お見舞いの中でそれが、一番嬉しかった」


「マジか。俺もらってないぞ?」


「やった。やっと一つ、お前に勝てたな」


「うん? バスケも何も全て山本の方が上だろう?」


「いやいや……そうでもないさ」



 彼が手を差し伸べてきたので、握手を交わした。

 いいやつだな。本当に。



「それで、あいつらはどうなった?」


「……聞き伝ての話だから話半分に聞いて欲しいけど」



 そう前置きをして山本は話し始めた。


 バスケ部員らは、小百合誘拐の実行犯。

 家裁送りになるかどうかってところらしい。未成年略取? か何からしいけど、小百合が被害届けを出すか否か? かどうかというところもあるみたいだ。


 小百合は「被害者」になることを良しとしないかもしれない。

 残念ながら被害者に対する偏見はどこにでもある。将来、変な色目で見られるくらいなら、事件のことは目をつぶるという選択肢もあり得るようだ。


 アイツらにはキツい罰を与えたいところだけど小百合の意思を尊重したい。


 それと山本への暴行。

 どちらかというと、小百合のことより、こちらをメインとする流れなのかも知れない。

 俺にはすごく元気そうに見えるのだが、大げさな包帯によって印象は変わる。


 奴らは一週間の停学処分になりそうだが、退学も視野に入れて現在も検討中。

 全員部活は引退済みだったので現役部員に対しての処罰は何も無い。


 しかし、今度何かあったら廃部を含めた重い罰が下されるようだ。


 結果、現役部員に迷惑をかけたということでOBらに目を付けられているのだそう。

 それはそれで大変そうだ。



「角田は? あいつ警察署で姿を見なかったけど」


「腹が痛いと言ってなかなかパトカーからなかなか降りなかったらしい」



 どうやら角田はプライドが高いのか、股間が俺にやられたことを黙っているようだ。

 仮に奴が俺のせいにしても、小百合を助けるためにやったことだと言い張るつもりだが。 


 それに、故意じゃない。

 あれは事故なのだ……と主張するつもり。



「角田は大学推薦の話もあったらしいけど当然白紙に戻ってる。

 まだ決定してないけど退学の可能性が高い。さらに家裁送りになるかもって」



 それに、と山本は俺に耳打ちをした。



「どうやらあの日以降、勃たないらしい……という噂が……」


「まじ?」


「あくまで噂だけどな。精神的なものか、細川の攻撃によるものかは不明だ。確かめたいとも思わないけど」


「ああ、そうだな!」



 俺がそう言うと、山本も頷き笑った。



「で、さ。お前と千石さん、まだ付き合ってないんだろ?」


「まだって……まあ、そうだけど」


「じゃあ、一応断りを入れるわ。

 オレ、千石さんに告白しようと思う」


「えッ……」



 驚いたものの冷静に考えると……確かに、山本の言動を見ていれば気付くべきだった。


 連れ去られる小百合を山本が見かけたのは本当に偶然だった。

 山本の住んでいるところの近くという幸運もあったが、いつも小百合のことを気にかけていないと気付かなかった可能性が高い。


 もっとも、奴らが送ってきた小百合の写真から居場所を特定することは俺にだってできただろうが、迅速に行動できたのは山本のおかげなのだ。



「どういう結果になっても、シンプルにオレの人間性と千石さんの気持ちだけの話だ」



 山本の言うとおり、小百合は真剣に考えるだろう。

 そして小百合がどういう選択をするのか……俺は分かっているつもりだ。


 だから、山本のことを思うと、どういう態度を取って良いのか分からなくなる。



「まさかの大逆転があっても恨みっこなしで良いよな?」


「ああ……恨んだりしない」


「もっとも……望み薄、いや、答えなんて分かってるけどな」


「……それは……」


「本当はさ、色々悩ませてしまったり、オレに対する罪悪感を抱いたら悪いなって思ってたから、告白するつもりはなかった。

 でもさ、そんなことは俺の大きなお世話ってやつだったのが、お前らを見て分かったんだ。

 絶対に、微塵もお前らが揺らぐことはないって思ったから、告白を決めたんだ」



 山本の顔は卑屈でもなく、かといって自信たっぷりでもなく。

 ただ、決意があった。

 

 彼が自分の気持ちに区切りを付ける「けじめ」なのかもしれない。



 俺がすべきことは……いったい何だろう?


【作者からのお願い】


この小説を読んで


「恩人でも、それはそれ、これはこれじゃないかなぁ?」


「続きが気になる!」


「この先どうなるの!?」


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【NTRタイムリープ】幼馴染みを寝取られ俺は死んだ。でも、時間がまき戻ったので全てをやり直す。〜今さら奪おうとしてももう遅い

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― 新着の感想 ―
[一言] 誘拐とか暴行があっても停学とか退学ですませるお話が多い中、ちゃんと警察沙汰にしてるところがリアルっぽくて良いですね。
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