第1話 元カノに振られ、振り回されるし親も関わってくるけど幼馴染みに会いました……
「細川君。好きな人ができたから、別れて」
唐突にそう言って、俺の前から消えた元カノ五木絵里。
ずっと付き合っていくものだと思っていた。
それなのに、唐突な終わり。
俺は酷く落胆した。
「細川君は、ちょっと頼りなく感じちゃってね。
冷めちゃったんだ。
新しい彼氏はとても頼りがいがあって……力強くて」
俺は優しくなろうと努力しそう接しているつもりだった。
でも優しさは魅力ではなかったらしい。
突然突き放された俺は高校に通うのがやっと。
授業も上の空で、彼女と付き合っていた間の幸せな思い出ばかりが浮かんでは消えていく。
考えることはそれだけだった。
部活を引退した後だったのが、せめてもの救いだった。
☆☆☆☆☆☆
絵里は俺が通っている高校とは別の学校の生徒だ。
俺を校門近くで待ち伏せして、告白をしてきた。
それがきっかけで付き合い始める。
「バスケの試合でうちの学校に来たときを見ていて、カッコいいなって思って」
付き合い始めると、両親を紹介してくれと絵里は言った。
「実はね、細川君のお父様がしているお仕事と、
私の両親が似たような仕事をしてて……。紹介してもらえないかしら」
「そうなの? 分かった」
どちらも、業務用ソフトウェアを開発する会社を営んでいた。
そのおかげで、とんとん拍子で仕事の付き合いが始まったのだった。
俺の父親からは
「五木絵里さんを紹介してくれてありがとう。
絵里さんのご両親と仕事がうまくいっているので、くれぐれも絵里さんと仲良くな」
などと言われてしまう。
俺の両親は夜まで不在なことが多かった。
その結果、俺の家で絵里と二人きりになることが多く、付き合ってから割とすぐに体の関係を持った。
お互い初めての相手。
舞い上がった俺は毎日が幸せだった。
単純な俺は絵里と結婚するものだと思っていた。
親の仕事も関係があるし、最高の相手だと思い込んでいた。
しかし。
俺から絵里が離れていくのに、そう時間はかからなかった。
「ごめん、今日は用事があるから行けない」
「ごめん、最近親が厳しくって……なかなか会えなくてゴメンね」
鈍感な俺でも変だと思い始める。
それでも気のせいだと思い込むよう努力した。
「なあ、細川。同じバスケ部のよしみで言うけど、お前の彼女が他の男と歩いていたぞ?」
「え? 嘘だろ? やめてくれ」
「いや、本当のことだけど」
「お前がそんなヤツだったなんて知らなかったわ」
せっかくの目撃情報を、俺は無視し続けた。
こうして、同じバスケ部だった友人を失っていく。
悪い話は全部ウソだ。
今は会えなくても、じきに会えるようになる。
なぜなら、俺たちは将来……お互いの良いタイミングで結婚するのだから、と。
そう考えていた。
でもそれは、青臭いガキの発想だったんだ——。
噂によると、絵里は彼女と同じ学校のバスケ部の男、角田尚康と付き合っているらしい。
角田は、バスケの試合で何度か見たことがある。
俺と別れる前に、絵里は角田と付き合い始めたらしい。
俺の誘いを断っている間に、角田と仲良くやっていたということだ。
二人で俺を笑っていたこともあるという噂もあった。
知れば知るほど俺は大きく落ち込む。
食事も喉を通らず、受験生だというのに成績もがた落ちしていく。
精神的に不安定になった。
絵里は俺と別れてからも幸せな日々が続いているのに俺は失意のどん底にある。
不公平だ。
角田の方が俺よりいいのか?
俺は嫉妬や後悔が入り交じった感情に振り回されていた。
☆☆☆☆☆☆
そんなある日。再び、絵里が家を訪ねてきた。
別れてから一ヶ月後のことだ。
「来ちゃった」
「……どうして?」
「いいじゃん。細川君はどうせ、まだ彼女できてないんでしょ?
イヤなら帰るけど? どうせご両親は仕事でいないんでしょ?」
「まあそうだけど」
確かに俺は未だに絵里を引きずっていた。
別れて塞ぎ込んでいる俺に声をかけてきた女子もいる。
でも、俺は……そう簡単に切り換えられない。
また、互いに慈しむように抱き合う肌の感覚を味わいたい。
楽しく笑い合いたい。どうしても、俺はそう思ってしまうのだ。
「ん?」
よく見ると、絵里の頬が僅かに腫れている。
誰かに叩かれるなどしたのだろうか?
「じゃあ、上がるね」
心配になった俺は再び彼女を家に上げてしまう。
部屋で絵里は、俺の隣に座ってくる。
積極的に体を俺にくっつけたりしてくる。
懐かしい絵里の香り。
匂いで色々思い出すことがある。柔らかい肌、暖かい絵里の中。
もう人の彼女だ、何か感じてはダメだと頭を振った。
俺はなんとか理性を保ち、絵里の接近を躱し続ける。
「彼氏いるんだろ? 俺に会いに来たり、こんなことはやめた方がいい」
「したいと思うからしてるの」
「だからやめろって!」
しかし時折見せる寂しそうな表情に、悩んでいるなら俺はなんとかしてあげたいと思ってしまう。
俺の甘さだ。
「私のこと心配してくれるの? だったら、私を慰めて——」
服を脱ぎ迫る絵里に対し、俺は懸命に拒否をし続けた。
しかし、もう一人の俺がささやく。
——そもそも今の絵里の彼氏は、俺から彼女を奪っていったヤツなのだ。
そんな男に遠慮をする必要があるのか?
懸命に俺はそのささやきを無視した。
ただ、近づいて気付いたことがある。
絵里の体に、腕や足に痣がいくつかある。さっき見たのは見間違いじゃない。
俺と付き合っていた頃には無かったものだ。
少し腫れた頬といい、間違い無く誰かに暴行されているのだ。
それとなく聞くが、絵里ははぐらかした。
そうこうするうちに日が暮れる。
結局俺は欲望に勝ち、絵里を抱くようなこともキスするようなことも無かった。
俺の固い意思に、絵里は諦めたようだった。
——今日のところは。
「また来るね」
「……こういうの良くないと思うんだけど」
「そうかな? まだ細川君は未練があって、私は細川君に会いたくて。別に問題無くない?」
「付き合ってる男がいるんだろ?」
「そういうことは言わないで。細川君に彼女がいないなら、どうでもいいことじゃない?」
何事も無かったように帰って行く絵里を見送る。
絵里は、はっきりとは言わなかったが今の彼氏とうまくいっていないようだ。
ケンカしたときは、また来るのかもしれない。
痣は、ひょっとしたら今の彼氏に?
こんなことが、今後も続くのだろうか。
暴行を受けていたのは気になるけど、俺がフォローする必要はあるのだろうか?
そもそも。
彼氏がいるのに俺と会い関係を持とうとするなんて、しょせんそんな女でしかなかったのか?
☆☆☆☆☆☆
その翌日の放課後。
放課後になり、帰る途中のことだ。
家の近くの駅で男女が揉めている声を聞く。
「なあ、君……西高だっけ? ヒマだろ? これから遊ばない?」
「ごめんなさい……」
「そうやって、つれなくしなくてもいいと思うけど? 彼氏いるの?」
同じ学校の女子が他の高校の男たちに絡まれている。
助ける義理はないものの、俺は彼女の方に目を向けた。
すると、彼女と目が合う。
ん?
顔に見覚えがあるな。
「小百合?」
千石小百合。
複数の男に絡まれていた、あどけなさを残す少女は俺の幼馴染みだった。
【作者からのお願い】
この小説を読んで
「幼馴染みって良いよね……」
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