第9話 森のスローライフpart5
「てことで、フェンリル犬のリルルです。よろしくね」
「ひゃん!」
「あっ、はい」
ログハウスまでリルルを抱いてお持ち帰りした俺。
リルルの片方の前足を掴んで、エリサに向かって振らせてみる。
……なんかエリサ、固まってない?
「犬、苦手なの?」
「いえ、犬。犬は全く問題ありません」
「なら、いいけど……とりあえず、犬小屋作ろうと思うんだ。
アシェリー、例のスキルを頼む」
「……え? あ、はーい」
例のスキルを使ってもらい、超高速で犬小屋を建てる。
形はこのログハウスの、ミニチュア版って感じにした。
「ひゃん!」
お犬様にはさっそく入っていただけた。
「おー、リルル、気に入ってもらえたかな。そしてそろそろ、朝飯にしようか」
「わーい、肉!」
なんかちょっとぼんやりした感じのアシェリーだったが、飯を聞いて元気になった。
妙な様子なのは、お腹すいてただけか?
「てことで朝飯の、……いつもの串焼き肉ね」
「わーい!」
しかし、今回は食べられる野草の付け合わせもあった。
エリサさんが、ログハウス周辺に自生していたものを採って来ていてくれたのだ。
その上、とある花の種から油が抽出できる事も発見してくれた。
これは料理に使える……!
「魔界のメイドが優秀で助かるよ」
「まさに朝飯前のことです。竜討伐にはかないませんが」
「まあねー。勇者ちゃん、いえーい」
「い、いえーい」
リルルにも肉を小さめに削ったのを出したら、喜んでガツガツ食べてくれた。
「やっぱ美味しい!お肉さいこー」
アシェリーもこうやってすごく喜んでくれるが。
「……毎食、同じ肉ばかりてのは……ちょっと面白くないかもな」
「んー? 全然不満ないけど。どうするの?」
「幸い、ここ魔獣の森は、動物の楽園だ」
それを活かさない手はないのだ。
もっともっと料理のバリエーションを増やしたい。
野菜と油の確保が出来たのでなおさらだ。
……魔王も絶対喜んでくれると思うしな。
「とりあえず今日の目標を立ててみた」
俺は、ログハウスの別棟として、火を扱える厨房のある建物づくり。
エリサさんはそのデザイン。
アシュリーは牛、豚、鳥など、森に生息している食べられる動物を狩って来てもらう。
「というので、どうかな」
「了解しました」
「わかったわ!」
と、ここで、
「ひゃん?」
わたしは?というふうに首をかしげて見せるリルル。ああかわいい。
「お前も何かしたいのか、よしよし。じゃあ、アシェリーについて狩りの手伝いかな」
「ひゃん!」
うーむ、人間の言葉を完全に理解しているように返事してくれるな。
「いいよなアシェリー?」
「えあ? え、ええ。いいわ」
また妙な様子が戻って来たような。
「ほんとに犬、苦手じゃないんだよな?無理してない?」
「だ、大丈夫よ! ほら! リルルちゃん、いきましょ!」
「ひゃん!」
森へ駆け出していく。リルルも後をついていった。
うーん、仲が悪いってこともなさそうだし、大丈夫かな?
「んじゃ、俺たちは建物づくりだ」
「デザインはお任せを。しかし、全てまた木で作られるのですか?」
火を扱う場所なのに、と訝し気なエリサさんだったが、
「大丈夫。ちゃんと考えはある」
ぐっと親指を立てて見せた。
「……その合図、人間側では何を示すのか知りませんが……
魔族側では、宣戦布告の意思表示となるのでご用心を」
「マジで!?」
「嘘です」
「んなー!!!!!」
▽
「できた!」
ときどきエリサさんの嘘話などに翻弄されながらも、別棟の厨房小屋が完成した。
暖炉とかまど、排煙用の煙突も完備。
ただし全部木製だ。
「……どうするのです? 火を入れると、ここ全焼しますよ」
「こうするんだ」
俺は暖炉に向かって石化魔法を使った。
ビシビシと音を立てて、暖炉は石化。
「……なるほど」
石化魔法。対象の素材が何であれ、強引に石に変えてしまう魔法。
魔力の調整で、石の種類を自在に変化させることができる。大理石でも石灰岩でも。
「今回は、耐火性に優れている砂岩にしてみた」
「器用なものですね……」
「【基本万能】のスキルからも分かるように、勇者って器用が身上みたいなところがある」
だからこそ便利屋として使われまくったんだよな。
そもそも勇者は、対魔王のための存在だったはずなのに。
魔王特攻みたいな性能にしなかったのは、勇者システムの妙なところだ。
「こういうのを器用貧乏って言うんだろうな」
「勇者様の性能を考えると、器用大富豪という印象ですが……」
まあそれはともかく。
かまどや、煙突にも同様の石化魔法をかけていく。
そして次は、鉄化魔法の出番。
石化魔法同様、対象を問答無用で鉄に変える魔法だ。
かまどの上に、木の板を鉄化したものを載せてみた。
「これで鉄板料理とかも作れるわけだ」
さらにさらに。
建物を作ってる間に、エリサさんに用意してもらったあるもの。
短い丸太の、下を球状に削り、中身を綺麗にくり抜いた鍋状の物体。
それにも鉄化魔法をかけ……
「鉄鍋というわけですか。素晴らしいです」
これで料理のバリエーションが増える。
焼いてよし煮てよし蒸してよし。
アシェリーの戦果が楽しみだ。
野草もあるし鳥の水炊きとかいいなあ。初夏の今だとちょっと暑いかな?
「ただいまー!」
お、ナイスタイミング。
アシェリーが色々狩ってきてくれたようだ。
どさどさと地面に置かれる戦果。
こ、これは……!
「牛! 牛! 牛!……ですね」
「豚や、鳥は?」
「居たけど、やっぱ牛が好きかなーって」
……。
「やりなおし!!」
「ええー」
森へお帰り。と指をさす俺。
すごすごと戻っていく魔王。
リルルはまた遊べると思ったのか、嬉しげについていく。
まあ、狩ってしまったものは仕方ないので、牛は全部アイテムボックス送り。
……って、乳牛も混ざってるじゃないか。
アグゥ牛ってやつで、量自体はそんなでもないが牛乳が搾れる。
いっそ、柵を作って牛を囲うのもいいな。
生きた乳牛を捕まえられれば、ミルクの確保が出来そうだ。
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