第6話 幕間 魔王とメイドの夜会話
森でのスローライフ開始、初日の夜。
ログハウス内、魔王の自室にて……
「本当、ご無事で何よりです魔王様」
「ありがとねエリサ。また世話になるわ」
椅子に座ったアシェリーの髪を後ろからくしけずりながら、エリサが改めてほっとした様子で言った。
なにせ10年ぶりの再会だ。
無表情・無感情に見えるエリサだが、その言葉には嬉しさによる揺らぎのようなものがわずかながら感じられる。
魔族と人間とでは時間感覚はやや違っているが、それでも長い期間に違いない。
「そして、ご結婚おめでとうございます」
「はやいはやいはやい!!」
エリサの途中をすっ飛ばしたような解釈に、アシェリーが真っ赤になって足をじたばたさせた。
「しかし、そう言う事ではないのですか?」
「ふ、2人でスローライフしていこうねってなっただけで……
ケ、ケッコンとか!まだ!」
「なるほど、(仮)ってところですか。
しかし相手は人間。神前の誓いとかどうすれば良いんでしょうね」
「し、知らない!」
エリサの口の端がやや歪んでいる。
ニヤリ笑いをしているのだ。
「人間、それも勇者と、とは。我々魔族の、敵ではないのですか?」
「敵じゃないわ。元々ね」
「そうでしたね」
「人間も、あたしたちと変わらない生き物よ。勇者ちゃんに出会って良く分かった」
失言でした、とエリサ。
アシェリーは建国宣言で明言したように、人間を敵視していない。勇者も当然含まれる。
「今はクーデター組が結成した『魔族連合軍』てのが人間と戦ったけれど……
あたしは争う気はないわ」
「現状、連合軍に動きはありません。というより、動けません」
「勇者ちゃんが壊滅状態にしちゃったみたいね。クーデター組も想定外だったでしょう」
やれやれ、とアシェリーため息をついた。
主力がゴブリンやオーガなどの亜人軍なため、魔族自体の被害はほぼ無いのが救いか。
「城はなかなか、バタバタしてる様子でした。
このままでは人間たちに隙を突かれるのでは」
「人間たちも、もう動けないわ」
アシェリーが断言した。
「なぜ?」
「勇者ちゃんが居ないから。彼のスキル上、人間は彼におんぶにだっこ。だから」
アシェリーは保証する。
「当分平和よ。
あたしたちが隠れてスローライフを送れば送るほど、その期間も伸びるわ」
「そういうものですか……
しかし、魔王様がお持ちのようなスキルを、勇者も持っていたのですね」
「かなり強力なものをね。
だから、人間は彼に頼り切りだった。そして彼は疲弊していった……」
目をつぶり、勇者から聞いた話を思い出す。
「彼は傷つき、疲れてた。
追い詰めたのは、人間たちだけど。あたしの至らなさも遠因。
クーデター組の同胞を、抑える方法が思いつかなかった」
「……それは」
エリサが言葉に詰まった。
「同胞たちは……
自分たちを追い出した神を名乗る者と、人間たちをごっちゃにしてるのかもしれない。
人間たちは何も知らないで、この土地に来た。
お互い……誤解を解いて歩み寄る必要がある。
あたしと勇者ちゃんが、その懸け橋の第一歩になればいいなって」
「それで、魔王様は勇者様をベッタベタに甘やかそうと。溺愛してやろうと」
「そうそう……じゃなくてえ!」
またアシェリーは耳まで真っ赤だ。
エリサもまた微ニヤリの表情。
「いや違う、違わない? もう! とにかく、ほっとけない、って思ったのよ!」
「ずいぶんと年上アピールしてましたね。やや空回ってましたが」
「空回ってた!?」
お、おかしーなあ。年上が年上らしくしてるだけじゃない」
アシェリー首をかしげる。
「人間と魔族ですからね。数字だけで年上年下を考えるのは、違うかもしれません」
「とにかく! 勇者ちゃんはあたしが守るし、癒してあげたいの!
頼れるおねーさんでありたいの!」
「魔王様の考えは尊重いたします。可能かどうかはさておいて」
「なんか不可能前提で考えてない!?」
こうして、ログハウス初日の夜は更けていった。
皆が眠りについたのち……巨大な影がログハウスそばに近づいていた事には、誰も気づくことはなく……
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