第5話 森のスローライフpart2
「持ってきたわよー」
「はえーな!?」
川のそばの地面を均してる間に、あっという間に魔王とそのメイドが資材を持ってきてくれたのだ。
しかもすぐ建築材として使えるように、ぜんぶ丸太や角材にカットされた状態になってる!?
「魔王様が引っこ抜き、わたくしが加工しておきました」
ほんとに魔族のメイドは優秀だな……魔王は力こそパワーなタイプだが……
さらに照明用に使える魔晶石も確保してきてくれた。魔力を込めると発光する石だ。
確かにガワだけじゃなく、内装の部品も必要だったな。
「2人ともありがとう。これだけあれば十分だ、さっそく取り掛かろう」
丸太や角材を、積み上げたり組み合わせたりしていく……
うむ??
何か、体の調子が良いというか、テキパキと動ける、いや動けすぎる。なんだこれ?
「勇者ちゃん、わかった?
それがあたしのもう一つの固有スキル。【行動加速】よ」
【鑑定】に続く魔王の固有スキルか。
そして効果は……まるで自分だけ時間が加速したみたいに、高速で動けるみたいだ。
「自分でも誰かでも、対象になった者の行動速度を上げるの。
素早く動いた分、時間も同じぐらい過ぎてるってことはないから、老化の心配はないわ」
「なるほど、これは便利だ」
「でしょー! おねーさんに頼って頼って!」
妙にうれしそうなアシェリー。
建築資材が既にカットされてる状態で持ってこられたのも、それのおかげか。
「……そしてわたくしの固有スキルが【スキル無効】。
ここに居る皆様の固有スキルを、全てキャンセルするスキルです」
エリサさんがずいと前に出て両手を広げた。
「なんですと!? それは使ってもらわなくていいかな……」
「もう遅いです。ざまあです。今、発動しました」
「やめてくださいよ!? ……? ……何も変わったようには思えないけど」
【アイテムボックス】も普通に発動できるぞ……?
「発動したら、わたくしの固有スキル自体もキャンセルされますので」
「!? !? !?」
ええと【スキル無効】の効果が、スキル無効のスキル自体をキャンセルして、……結局何も起きないってことなの……?
「うそよ。この子には残念ながら固有スキルは発現してないわ」
アシェリーが苦笑しながら言った。
なんじゃそりゃ!
エリサさんはぱっと見、無表情・無感情っぽいけど、中身は結構ゆかいな性格なのかもしれない……
とまあ色々あったけど。
家、完成!
魔王の固有スキルのおかげで、想定の数10倍は早い所要時間で完成したぞ。
どうすか?
「……家というより、小屋ね……」
「小屋ですね。完全立方体の、板張りの小屋。これは10点」
評価ひっく!
……まあ、【基本万能】で大体なんでもこなせるとはいえ、美術的なセンスが磨かれるわけじゃないからね……
「あと狭すぎます。魔王様が住むにふさわしくありません。
わたくしが設計図を書きます。
勇者様は、それに従って建て直してください」
エリサさんはそう言って、手持ちのメモ帳にズバババと何か書いてる様子だったが、しばらくしてそれを差し出してきた。
……外見も立派な、十分な広さのログハウスの設計図が、そこにあった。
「メイドとして一応の建築知識や設計、デザインに関してなども学んでおりますので」
メイドの必須知識かなあそれ。しかし、設計図は確かなものだった。
「すごいな……確かに、これに比べると俺の家はカスや……」
建築、やり直し。
そして……
改めて、ログハウス、完成!
「すごーい! 素敵!」
「ふむ」
今度は2人にも満足いただけたようだ。
デザインセンスに関しては10割エリサさんの手柄だけど。
三角屋根の乗った木造一階建て。
テラスまでついており、3人が暮らすには十分な広さがある。
エリサさんのアドバイスなどを適宜伺いつつ、なんとかやりきりました。
日はそろそろ傾いて、森の中も徐々に暗くなりつつある。
まともに建てるなら月単位でかかりそうなところを、半日でやりとげてしまった。
【行動加速】、めちゃ便利!
「さあ、入ってくれ」
「わーい」
「お疲れ様です」
ログハウスの中に入ると。
高い天井に、吊り下げられた魔晶石のランプ。
柔らかいオレンジの光が木の床や壁を照らし、良い雰囲気を醸し出している。
木の香りが鼻をくすぐり、落ち着いた気分にさせてくれた。
広いリビングには木製の机やロッキングチェアが並び、別区画には個別の寝室もしつらえてある。
窓はガラスじゃないけど、不可視の物理結界魔法をその場に常時展開し、採光できるようにした。
「良い雰囲気だわ! 勇者ちゃん、やるわね!」
「いや、デザイン担当が優秀でね」
「10割そうですね」
組み立てたのは10割俺なんすけどね。
「勇者ちゃんもエリサちゃんもお疲れ! 素敵なログハウスだわ!」
リビングでくるくる回りながら、満足気なアシェリー。
「魔王様には、大変窮屈なものとなることをお許し願いたく」
「城に居た頃は、石に囲まれてて正直息が詰まったわ。この木の家、あたし好き」
アシェリーは機嫌よく答えた。
そして、宣言する。
「ここが新しい、あたしたちの家になるのね!」
家か……
当分は野宿を想定していた出奔だったけど。
まさか家を建てる事になるとは、思ってもなかったな……
ここでリビングに「ぐう」と大きい音が鳴りひびく。
確かに夕飯にちょうどいい時間帯ではあるが、よく考えたら朝から何も食べてない。
「魔王様……その音量ははしたないレベルかと」
「あ、あたしじゃないわよ!?」
「俺だよ俺。今食べ物を出そう……また肉になるけど、良い?」
昨晩さんざん食ったからな。しかし、
「問題ないでーす。毎日肉でもいいわ」
アシェリーは既に椅子に座って配膳待ちしている。
「あ、いや肉を焼くなら外になるよな……」
オール木材のこの家、火を扱うにはちょっと問題が。
レンガ製のかまど等がある厨房が欲しいところだ。煙突つきで。
「厨房。それは失念しておりました、一生の不覚」
エリサさんがやや眉を寄せて反省の色を見せた。
「いやいや、俺も忘れてたし。明日、別棟で作ろう」
そもそもちゃんとした食卓があるなら、ちゃんとした食器も欲しい。
今後の課題だな。
てことで今夜も外で焚き火をたいて、串焼き肉三昧の夕食とあいなった。
食後、交代しながら川で身を綺麗に。
あ、風呂も欲しい所だ。
そしてそれぞれ寝室へ。
「おやすみー」
「お休み」
「おやすみなさいませ」
皆に夜の挨拶をして、ぱたんと扉を閉める。
思えば、誰かにお休みとか言ったのも何年ぶりだろう。
「なんか、いいな」
そして部屋を見渡せば、ベッドしかない殺風景だけど、今後色々と増やしていこう。
増やすと言えば、厨房、食器、風呂。
やるべきことが色々出て来るし、なんだか楽しくなってきた。
木製のベッドに寝転がり、この先の展望に想いを馳せながら目を閉じる。
(毛布とかも欲しいところだな……)
そして俺は眠りに落ちて行った。
次の日、起きたらログハウス全体がうねうねと動く怪しいツタ植物に覆われてる、なんて夢にも思わずに……
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