表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/48

第48話 最終回 どこでもスローライフ

「俺が望むのは……ただ一つ。自由だ!!」


 立ち上がり、びしっと国王を指して宣言した。


「魔王を倒す、という勇者の責務はこれで果たした! 


 これからは、俺の好きなように生きる……


 となりにいる、新魔王アシェリーと共に!!」


 ばさっとフードを後ろにはねのけた女性は、当然、アシェリーだった。

 豊かな金髪が腰まで広がり落ち、頭部の二本角があらわになった。


「な、なにぃーー!?」


「新魔王だと!?」


「勇者よ、どういうことだ? 魔王と手を組んだとでも言うのか!?」


 動揺が玉座の間に広がっていく……


「俺はこれからアシェリーと一緒に、魔界に戻る!


 いいか国王、俺に二度と関わってくるな。魔族を攻め滅ぼそうなんて考えるな。


 もう、人間の土地は取り戻したんだからな!」


 俺は思いのたけを、国王にぶちまける。


「当然、俺とアシェリーも人間領に攻め込んだりはしない!


 友好条約でも、相互不可侵条約でも、こちらは結ぶ準備はあるが……


 そちらは、どうせ魔族を信用はしてないだろうから、無理にとは言わん」


 すっかり静かになってしまった王の間の連中を見回しながら、俺は続けた。


「魔族も新たな土地を得た。だからこれ以上、争う理由もないんだ!


 これは、新魔王アシェリーの正式な宣言だ。


 以前のこともあるから、信用できないというのなら……


 俺の連名による宣言と受け取ってもらう!」


 やはりダンマリの、国王たち。


 まあ、期待はしてなかったが……言うだけのことは言った。

 そしてどうせ、人間に新たな魔界を攻めることなんて出来ないんだけどな。


 あっと、言う事はもう一つあった。


「ついでに言っておく! 


 また俺を連れ戻して、エルフやドワーフの大陸を攻めさせようとか!


 夢にも思うんじゃないぞ。そんな事を一言でも言ってみろ……


 もう一度そのヒゲ、ぶち抜いてやるぜ!」


「なっ……!?」


 ややバランスの悪いヒゲの片方に手をやりながら、国王が青ざめた。

 まさか、こいつ!?といった顔だ。


「貴様! 国王になんという言葉を! 近衛兵! こやつをひっ捕らえい!」


 大臣が怒り心頭に命令を下した。


 だが近衛兵たちは顔を見合わせ、動かない……


 たった二人の戦力で魔王を倒したようなやつらに、かなう訳ないだろ!

 という本心が見て取れる。


「おっとそうだ、大臣、あんたにはこれを返しておく!」


 アイテムボックス空間から取り出した愛剣を鞘に入ったまま、大臣に投げつけた。


「ごほっ!?」


 みぞおちに見事に柄部分が食い込み、前のめりに大臣は倒れる。


「授かった伝説の剣も、これにて返却済み! これでもう一切の貸し借りはなしだ!


 あと剣の鞘に、退職願を挟んである! 読んでくれ!」


 俺は右手を天にかざし、光系最大魔法をぶっ放した。

 凄まじい爆発音が鳴り響き、天井に大穴が空く。


「この天井の修理費は、俺の退職金で支払うってことで! じゃあな!」


 俺はアシェリーと腕を組み、移動魔法で天井の穴から飛び出した。




 ……残されたのは、呆然と言ったおももちの面々。



 飛んでいく俺たちに王が何事かを叫んでいたようだが、もう知らん。

 


 その後……

 国王は魔王軍が支配していた土地へ向け、開拓者たちを向かわせたらしい。

 

 しかし。


「この土地には、ばかでかいクレーターがあり、どうすれば良いのか分からない」


 という開拓者リーダーから報告が届き、国王は頭を抱えたとか。




 ▽




 元勇者パーティのグレーナとナルバエス、それにリネット。

 彼女らは冒険者として、相変わらずの生活を送っているらしい。


 教会から聖杯を盗み出した件は、バレていない。

 操られている時、よっぽどうまく盗み出したようだ。


 このことは、俺たちとリネットだけが知っている秘密となった。


 教会は今でも犯人と聖杯を追っている。


 

「おう……また、飛んできたぞ」


 グレーナが、宿屋の窓から手を出した。

 その手に一羽の鳥がとまる。


 鳥の足には、小さい筒のような入れ物が結び付けてあり、その中には手紙が入っていた。


「なになに……ふんふん」


「ふんふん、じゃ何も分からんがね。どういう中身だったのかね?」


 ナルバエスが、不機嫌そうにコツコツと杖で机を叩く。


「まあ要するに……あいつらは、相変わらず元気でやってるそうだよ。


 魔界で、ね」


「それは何よりですね」


 リネットが穏やかに答えた。

 ナルバエスは、未だに聖女が勇者のことを諦めたのが信じられないようだ。

 なので、


「そ、そうかね。なるほど……」


 と無難な回答。魔界という言葉はスルーしたようだ。

 その様子にグレーナは苦笑し、


「いつか、アタシたちを魔界に招待したいってさ」


 と付け加える。


「そればっかりは、勘弁してほしいところだね!


 魔界なんかにのこのこ行ってみろ、我々がどうなるか……


 火を見るより明らかではないかね!?」


 ナルバエスが鼻息荒く、部屋を出ていった。

 さすがに神官として、魔族と仲良くとはそうそういかないようだ。


「ま、どうしても相いれないってのはあるから、仕方ないな。


 無理をおしてまで、仲良くすることもないよね」


「そうですね……今は、この平和を喜びましょう」


 聖女は膝をつき、神に祈る姿勢を取った。


「勇者と魔王に、祝福があらんことを」


「聖女なのに、すげえ文面の祈りだな」


 グレーナが笑った。



 ……といった具合に、彼女らとの間に一羽の鳥を、使い魔として派遣している。

 いつでも定期連絡を取り合えるようにしておいた。


 使い魔が彼女らの元に居れば、その魔力をたどって移動魔法でいつでも会える。



 そして、俺とアシェリーはというと……




 魔界――いまは、浮遊魔界大陸。

 アーレンス大陸の北端から数キロ先、その海上に浮かんでいる。



 俺たちはカールティックを倒したあと……地上に露出した魔界を、さらに浮上させた。

 無限の魔力を持つ、聖杯の力を使って。


 そうすることで、人間の土地を占有せず、魔族だけの土地として地上に存在することが出来る。


 太陽の聖杯は浮遊魔界大陸の中心にあり、浮力を支えている。

 降り注ぐ太陽光を受け、無限に魔力を生成するから、この魔界は太陽ある限り永遠に飛び続けられるのだ。




「今日も、いい天気だ」


「ほんとね。そろそろ、休憩して昼ごはんにしましょ」


 この魔界の新たな魔王になったアシェリーが、額に汗しながら、俺と一緒に土地を耕している。



 生き残った魔族の面々も、この浮遊大陸に集まってもらった。


 新たな土地……というか魔族の元々の故郷ではあるが。

 そこが浮遊大陸になったことは、案外すんなりと受け入れてもらえた。

 皆もともと、地上に出るという夢を持っていたからだ。


 そして俺たちをも快く歓迎して、新たな生活に向けて皆頑張っていた。


「ここには太陽がある。風も吹けば雨も降る。


 魔界では生育不可能だったさまざまな農作物を育て、発展していくだろう」


 なだらかな丘陵の上から見下ろす。

 農業に目覚めたゴブリンたちも、生き生きと畑作業をしていた。



「昼は、焼き肉どんぶりだ」


「わーい! 勇者ちゃんのごはん大好き!……勇者ちゃんはもっとすき」


 おおう。唐突だな。 


「アシェリー……」


 思わず目を見開き、アシェリーを見つめる。

 目と目が……合った。


「ほんとうに、感謝してるわ。あなたはあたしの、夢をかなえてくれた。


 こんな楽しい生活を提供してくれた。なんだか怖いくらい。これは、現実?」


 アシェリーの目が、少しうるんでいる。 


「現実だよ、アシェリー」


 出来る限り、優しくささやいた。


「確かめたいわ……」


「いいとも」


 二人の距離が、縮まった。

 しばし見つめ合い、そして……


「いやあお精が出ますなどっこいしょ」


 突然現れたエリサさんが、収穫したじゃがいもの箱をドスンと下ろした。


 思わず、二人してぴょんと飛び上がってしまった。


「このタイミング! もー、エリサ! わざと!? わざとなの!?」


「どうぞどうぞ。じっくり見てますんで……ごゆっくり……」


「……ほんと、相変わらずだな?」


 まったく。

 しかし、そろそろエリサさんのこういう行動にも、毅然とした態度を取らないとな。


 そう思った俺は、アシェリーのあごを掴んで引き寄せ、唇をやさしく重ねた。

 最初は驚いたアシェリーも、目をつむり、力を抜いて俺の背中に腕を回してきた。


「ん……」


 お互い、やさしく唇を吸いあう。

 しばらくそうした後、そっと唇を離した。


「……相変わらず、ロマンティックの雰囲気はゼロね!」


「努力したいところなんだがな……」


 近くに居たリルルが、ひゃん!と一声ないた。


 おお、お前も祝福してくれるのか?

 よしよしと頭を撫でてやる。


 リルルは、あの時以降、フェンリルらしい挙動はない。

 俺たちを助けてくれたリルルは、世界の敵にはならないと、俺は確信している。


「……でも、また先にやられちゃった! 今度は、おねーさんが先だからね!


 そして、超良い雰囲気にしたげるから! 待ってなさい!?」


「期待しとく。……さて、じっくり見た感想は?」


 エリサをちらりと見やる。

 

「……負けました。


 堂々としたものです。おめでとうございます、魔王様」


 エリサは両手を上げた。万歳なのか、降参なのか……

 たぶん、どっちもかな?

 

 しかしこれでようやく、エリサさんに敗北宣言をしてもらうことには成功したようだ……


 苦笑して、額の汗をぬぐう。

 だいぶ、暑くなってきた。



「エリサもはやく、誰か良い人見つけてね!」


「出ましたよ。


 自分がリア充になったからって、他の人にも安直にそういうのを進めてくる人」


 エリサがジト目でアシェリーを見る。


「い、いいじゃない! あたしはエリサの幸せを願って、」


「お2人を観察してるだけで十分です。それにわたくし……以前から勇者様のことを……」


 とエリサが流し目をこちらに向けてきた。

 なんだ突然!?

 ……いや、また始まったというわけか。


「ちょ、ちょっとお!?」


 しかしアシェリーはガチで焦ってるぞ。

 いい加減、このノリに慣れてないものか……俺より、長い付き合いでしょ!


「勇者様。おとといの夜は、実に熱く燃えましたね……


 勇者様と2人で上りつめて……」


「よ、よる!? あああああつくうう!?」


「盤上遊戯の話ね……アシェリーは、あの時は3位だったな……」


「……!?」


 アシェリーが青くなったり赤くなったり。


「魔王様は、どんなことを想像しましたでしょうか?」


「あああああもおおおおお!」

 

 どたばた、アシェリーが地団太を踏んだ。


「ほんと、やれやれ」


 空を見上げた。

 どこまでも続く青に、白い雲が点々と流れている。


 この魔界は、浮遊大陸だけに、世界のあちこちへ飛んでいく事が出来る。

 以前ログハウスごと、あちこちへ引っ越したように。


 今度は、大陸規模の引っ越しってわけだ。

 当然だが、引っ越し先に迷惑にならないようにだけども。


 遥か遠く……どこまでだって行ける。

 砂漠でも、密林でも、雲の上でも。




「……さて、次はどこでスローライフを送ろうかな!」


 終

最後まで、お読みいただきありがとうございました!


ここまでお付き合いいただき、感謝、感謝でございます!


評価、いいね、ブックマークしていただいた方々、ありがとうございました!



下のほうにある☆☆☆☆☆への評価・ブックマークなどを頂ければ、

今後の創作にも大変な励みになりますので、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ