第46話 最後の戦いpart2
「ぐ……!」
「う……!」
俺もアシェリーも、魔力の限りを尽くしたが、呪縛は溶けなかった。
今度の【威圧】はケタ違いだ。
俺たちの様子を、魔力の供給を受けながらカールティックがニヤニヤと眺めている。
リネットは変わらず、聖杯を起動させ続けているようだ。
(……そういえば。
なぜ、リネットは【威圧】の効果を受けていないのか?)
カールティックのすぐそばに居たはずなのに、全く変わりがない。
防御魔法を使っている様子もない……
(……そうか、聴覚か。リネットは、魔法で耳を麻痺させ、聴覚を機能させなくしている。
【威圧】は、吠え声そのものに効果があるんだ。
だから、カールティックは指示する時、指の動きを使っていたのか)
気づくのが遅かった……!
カールティックは魔力補給を終え、こちらに向き直る。
「……!」
アシェリーもなんとか動こうとしているが、俺と同じようにどうにもならないらしい。
くそ……!
と、その時。
また俺の隣の空間から、飛び出してきたものがあった。
白くて、ふわふわの……
(リルル!?)
どういうわけか、フェンリルのリルルがそこにいた。
俺のアイテムボックスに、紛れ込んでいたのか?
どうやって? 俺は入れた覚えはない。
「ふぉおおおおおおおおおおおーーーーーん!」
と、リルルが突然、遠吠えのような声を上げ始めた。
とたんに、体の自由が戻る。
「ぷはあっ!? な、なんだ?」
「ふう、動ける、動けるわ!」
俺とアシェリーの体は、完全に元通り動かせるようになっていた。
これはフェンリルの力なのか。
「なんだと!?」
最大級の魔法を準備しようとしていたカールティックが、驚きに顔をゆがめた。
「リルルが、助けてくれたのか……ありがとう……!」
ひゃん! と俺を振り返り、じっと見てくるリルル。
「……!」
この時、リルルが次にやろうとしていることが、なぜか俺には分かった。
良く分からないが、言葉ではない何かが、伝わって来たのだ。
「……わかった!」
と俺はアシェリーを引き寄せ、その耳に麻痺魔法をかけた。
そして俺の耳にも。
それを見届けたリルルは、またカールティックの方に向き直り、
「ふぉおおおおおおおおおーーーーーーーんんん!」
と遠吠えの声を上げた。
「がっ!?」
今度は、カールティックの動きが止まった。
ガクガクと震えるも、それ以上体を動かすことが出来ない様子だ。
「これは!? 【威圧】!?」
麻痺を回復させ、聴覚が戻ったアシェリーが驚きの声を上げる。
「!? ど、どうしたのですか? か、回復を……!」
リネットがカールティックに駆け寄り、回復魔法をかけようとした。
「……ど、どうして!?」
しかし、聖女の回復魔法は効果を発揮することはなかった。
リルルの方を見ると、口を開けたまま、吸い込むようなしぐさをしている。
良く見ると、魔力の流れがリルルの口の中へと向かっている。
「【魔力吸収】!? もしかして、フェンリルのスキル……!?」
「ああ……!
フェンリルは固有スキルとされるものを、全て使う事が出来るのかもしれない!」
だから、俺のアイテムボックス空間にも自由に出入り出来たのだ。
「今のうちだ! カールティックを!」
「で、でも。さっきの【威圧】を解こうとして、魔力を振り絞ってしまったわ。
もう、残りの魔力が少ない……! 勇者ちゃんも!」
確かに、カールティックのスキル効果を解こうと、全魔力を使ってしまった。
俺もアシェリーも、魔力量は残りわずかだ。
「大丈夫。魔力は、ここにストックしてある!」
と俺はアイテムボックスを開き、そこから魔力を取り出して吸収した。
「聖杯ごとリネットをここに収納したとき……
ダダ洩れだった聖杯の魔力を、ストックしておいたんだ。
かなりの量だぞ、俺たちの魔力が完全に元に戻るくらいの!」
ニヤリとアシェリーに笑いかける。
「さ、さすが勇者ちゃん!
はやく、その二人分の魔力を使って、カールティックを!」
「いや、一緒にやろう。俺たち二人で、カールティックを討つんだ」
「でも魔力供給には、そのスキルもないし、時間がかかるわ!」
普通、人から人へと魔力を分け与えるには、手のひらからの放出という手段がある。
手軽だが、かなり時間がかかるのがデメリットだ。
「固有スキルの【魔力吸収】なら、時間もかからず吸収できるのに!
わたしはそれ、持ってない!
……しかし、あと一つ。
手っ取り早く、速攻で供給できる手段があるのだ……
「アシェリー」
と俺はアシェリーのあごの下を、人差し指と親指でくいっと掴み、持ち上げた。
「!?」
そして、唇を重ねた。
カラーン、と音が王の間に鳴り響いた。
リネットが聖杯を取り落とした音だ。
カールティックはリルルの【威圧】で。
リネットは、俺たちの様子を見て……
固まっていた。
じっくり数秒。
やさしく重ねた唇を、そっと離す……
「こういう、供給手段もある」
「……もう! また、ロマンチックのかけらもないのを!」
顔を赤らめ、怒ったアシェリーが俺の背中をバシバシと叩いた。
――もう一つは、口移し。
これだと速効で与える事が出来る。
「魔力量は十分だな?」
「じゅうぶん、いただきました!」
まだ、ぷんすかしているアシェリー。
「あー! もう早く終わらせて、今度はちゃんとしたのをやろう!
その続きも!」
続きィ!?
「さあ、やるわよ! 二人のスローライフの前に現れた、石ころを排除するの!
いいわね! 勇者ちゃん!」
「わ、わかった」
俺は剣を構えた。
そして俺によりそったアシェリーが、剣に炎をまとわせる。
二人の魔力は、完全にシンクロしていた。
「い、いしころだあ!?
お、お、おれを、いしころあつかいした、のかあ!?」
ガクガクと震えながら、かろうじて口がきけるくらいには回復したらしいカールティック。
おっと、はやく石ころを排除しなきゃ、岩くらいになって余計邪魔になってしまうな。
「はああっ!」
炎の剣を振りかぶり、カールティックまで一瞬で間合いを詰めた。
そして、大上段から思い切り、振り下ろす……!
「がっ……! ばかな、あ、あああああっ……」
カールティックは、完全に両断された。
二つに分かれたそれは、ゆっくりと床に後ろ向きに倒れ、動かなくなる。
「ふう。石ころ、排除完、了……」
俺はガクリと膝をついた。
「勇者ちゃん!?」
異変を感じ取ったアシェリーが駆け寄って来る。
カールティックは、真っ二つにされる直前、指の爪を俺に向けて発射。
その一本が、俺の脇腹を貫いていたのだ。
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