第41話 聖杯起動
「こ、これが聖杯……! ち、力を。とてつもない魔力を、感じます……!」
トリシュが震えながら言う。
「おお……!」
ボウマンも心底感心したような歓声を上げた。
「よし、無事起動したな……! だがこれは俺たち魔族には使えない。
おい、そこの聖女。ついにお前の出番だ」
リネットにこっちへ来るように指を動かすカールティック。
「そして残りの二人は……」
ここでカールティックは一瞬ちらりと、聖杯を食い入るように見つめるボウマンとトリシュに目をやり、
「ちょっとしたお使いを頼むぜ。このメモを見ろ。人間領へ戻れ」
とグレーナーとナルバエスに紙切れを手渡した。
「……」
二人は頷き、荷物を持ち直してすたすたと三傑の横を通り過ぎる……
が、次の瞬間。
グレーナはいきなり抜きはなった剣を、ボウマンの背中を狙って振り下ろした!
「!?」
殺気に気づいたボウマンが右手でそれを受け止める。
その直後、グレーナの後ろに居たナルバエスが風魔法を放ってきた。
ボウマンは左手でそれを掴み、握りつぶす。
「なんだ!? 貴様ら!!……!?」
ボウマンの両手がふさがれた一瞬。
素早く飛び上がったカールティックがボウマンの頭部をわしづかみにし、
「【同化】」
スキルをボウマンに対して行使した。
「ぐわあああっ!? バカな!?」
あっという間に、吸い込まれるようにしてボウマンの体はかき消えた。
「な……! なにを……!」
トリシュが慌てて魔法の詠唱準備に入る。
だが、
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」
カールティックが強烈な叫び声をあげた。
するとトリシュは尋常ではない恐怖に囚われ、身動き一つ出来なくなった。
グレーナたち三人もバタバタと倒れる。
「こ、これは……い、【威圧】!」
トリシュが震えながら、声を絞り出した。
「そうさ、ボウマンのスキルだ。ありがたく使わせてもらうぜ」
「……し、しかし……!
か、カール、ティックの魔力は、……私たちより、下、だったはず……」
「格下のスキルが通用して変だってか!?
はは、お前らはこの半年間……
自身の魔力を、レベルアップさせる鍛錬を積んできたようだが」
カールティックはにやりと笑い、
「俺はレベルアップした魔力を抑え……
以前と変わらないよう、見せかける鍛錬も積んできていたのさ!!」
トリシュの顔を掴んだ。
「ひ、ひぃ! や、やめて!お願い!」
「なに、魔王の事は任せておけ。俺が責任をもって、倒してやる。
それで、借りを返すことにするぜ。……【同化】」
トリシュの姿も、一瞬で消え去ってしまった。
「これで、【魔力吸収】のスキルも使える……!
吸い尽くしてやる、聖杯の魔力を! そうなれば、魔王なんて!
まったく目じゃねえ! 俺が、俺が新たな、この世界の魔王だ!!」
両手を広げ、ひとしきり高笑いするカールティック。
そして地面に落ちた聖杯を拾い上げる。
近くに落ちていたのは、先ほど二人に手渡したメモだ。
メモには『人間領に戻れというのは嘘だ。戻るフリをして、背後からボウマンを襲え』と書いてあった。
「さて……聖女とやら! てめえの出番だ、こいつを使え……!?」
しかし【威圧】を受けた三人は、地面に倒れ、ピクリとも動かない。
「何ぃ……?
ちっ、あのスキルを最大パワーで使っちまったのはまずかったか?」
リネットの体を抱え起こし、その顔を何度か軽くはたく。
すると弱弱しいうめき声をあげた。まだ、息はある。
「ふう、さすがに聖女と呼ばれるだけのことはあったか。危なかったぜ」
カールティックは額の汗をぬぐった。
「……他の二人はもう駄目だな。一人は即死、一人は虫の息だ」
「う……」
リネットがうめき声をあげた。
「おい、気が付いたか。てめえの出番だ」
「え……?ひ、ひぃ!!」
聖女は気が付いたが、同時に香による催眠も解け、正気に戻ったようだ。
魔軍三傑の一人に抱えられていることに気づき、逃れようと、もがき始める。
「焦るなって。これを見ろ。お前が欲していた、力だ。聖杯だ」
「……!?」
リネットの目が見開かれた。
「こ、これが?! 聖杯?」
「そうさ。これがあれば、お前の望みはかなえられる」
くくく、と低くカールティックが笑った。
「望み……私の望み……それは。
……魔王を倒し、勇者様をお救いする……絶対に、不可能な、望み……」
「不可能なんかじゃねえ。これが、聖杯があれば。可能なんだ」
リネットの目に、力が戻ってきた。
カールティックは聖杯を聖女に手渡す。
「ああ……これがあれば……
勇者様を、真の道に立ち返らせることが、出来る……というの!?」
信じられないようなものを見る目で、カールティックの顔を見つめた。
「その通りだ。お前がこれを使って、無限の魔力を引き出せ。
俺がそれを使って、魔王を倒してやる。あとは、好きにしな」
「確かに、凄まじい魔力を感じます。
使える、わたくしに使えるのが、分かる……!
いくらでも、魔力を、引き出せる……!」
リネットの目が熱を帯び始める。
「ああ……やりましょう。魔王を、倒しましょう。勇者様のために……!」
聖女は立ち上がった。
ここで、倒れている二人に気がついた。
「グレーナ? ナルバエス!?」
「ああ、あいつらはもう駄目だ。置いて行け」
カールティックは冷たく言い放った。
「……そんな!」
「手遅れだ。一人は虫の息だが……じき衰弱して死ぬ。
行くぞ。時間が惜しい」
「ま、待ってください! あ、ああっ!!」
カールティックはリネットの体を抱えあげる。
「聖杯、落とすんじゃねえぞ。
魔王を倒しにいく前に、ひと作業あるんでな……
ちょいと魔王城まで飛ぶぜ」
トリシュの移動魔法をカールティックが発動させ、二人は空へと飛び立った。
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