第4話 メイドさん合流 森のスローライフpart1
なんだかんだで、魔王とスローライフを送る事になった。
……勇者がそんな事でいいのか?
魔王も、城に帰らなくていいのか?
「いいのよ。戻ってもまた争いになるだけ。
しばらく彼らには頭を冷やす時間をあげましょ」
と魔王。
「中央平原で、魔族連合軍をほとんど壊滅させたんでしょ?
そしたら当分、魔族は動けない。
そして人間たちは勇者ちゃんがいなければ、ね?」
「……見抜いてたのか」
勇者のスキルの一つ、【全体鼓舞】。
パーティにいる者たちに対して、能力上昇のバフをかけることが出来る。
魔力の強さで魔族に劣る人間が、勇者一人が立ったくらいで勢力を逆転できたのも、
そのスキルによるところが大きい。先だっての中央平原での戦いが特にそうだ。
以前はせいぜい4~5人にしか効果がないスキルだったが……
今では、軍隊レベルまでに規模が増大している。
「ふふ。あたしの固有スキルの一つ、【鑑定】。
相手の多少の能力は聞かずとも得られるわ」
「なるほど」
ともかく、魔王の言い分は。
俺が抜けた人間軍も、半壊した魔族連合軍も、お互い強気な侵攻はもう出来ないって事だ。
「そしてあたしたちの状況。
魔族と人間の間に、非公式な停戦協定が結ばれたようなものじゃない?
いずれ、それを公式のものにしていけばいいわ」
確かに。
俺が行方をくらまし続ければ、人間側も戦えない。
魔族連合軍も、先の敗北をうけて穏健派みたいなのが台頭してきてくれれば。
和平の道だって、ある……
「そゆこと! ね! だから勇者ちゃんはあたしと一緒に、静かに暮らしてこ!」
魔王はニッコリ笑って、腕を絡めてきた。
俺たちがスローライフを送れば、この大陸は平和になる。
風が吹けばなんとやら並みに、あいまいな話だが……
まあいいか。静かな生活は望むところだ。
魔王がついてくるとは思わなかったが、一人寂しくよりかはいいだろ。
「じゃあ、そうしようか」
「しようしよう!」
ここ、魔獣の森ってそういうのに向いてるかもな。
人間も、魔族の連中も、好き好んで近づくような場所じゃない。
ここなら誰にも邪魔されることなく静かに生きていける……
「ここにおられましたか魔王様」
「ひゃい?!」
「なに!?」
俺も魔王も気づかないうちに、そいつはそこにいた。
数メートル離れた木の後ろから、こちらをのぞき込んでいる一人の魔族の女……
姿格好から察するに、メイドのようだが。
「エリサ!? 驚かせないでよも~」
「驚いたのはわたくしのほうです」
アシェリーと知り合いのようだ。
メイドは歩み寄ると、スカートをつまみ上げて丁寧な礼をした。
肩までの黒い髪、魔王と対照的なきつめの目。
というか常にジト目をしてる感じの、少女と言っていいくらいの魔族だ。
魔族特有の角は額から二本、真上に伸びている。
「行方不明になられて10年。やっと手がかりが得られたと思えば……
人間と番っておられるとは」
「つがっ!? あ、いやー。そういうことになるのかなあ?」
てれてれ。
顔を赤らめ、身をくねらせる魔王。
こっちまでなんか顔が熱くなってくる。
しかし手がかりってあれかな。空にすっ飛ばした火炎魔法……
あの規模の魔法が撃てる奴なんて、なかなか居ないだろうし。
「あ、勇者ちゃん、この子はエリサ。とっても優秀なメイドなの」
エリサの肩に手を回しながらアシェリーが紹介した。
「暑いです魔王様。あと臭いです。離れてください」
「ひどっ!?」
「冗談です。お久しぶりです、魔王様。ご無事でよかった」
「ごめんね、心配かけて」
「心配などは全くしてませんでしたが」
「ひどっ!?」
……主従関係のわりに結構フランクな距離感だな。
エリサは常に無表情で、感情のこもらない喋り方だが、2人が仲の良い事は分かる。
しかし、魔獣の森を抜けてきた実力。自分にすら気づかせなかった隠形の術。
只者ではないな。
魔王とのやり取りを終えたエリサはこちらを向くと、頭を下げた。
「エリサと申します。よろしくお見知りおきを勇者様――」
エリサの姿がブレたかと思うと、いきなり俺の顔に向かって右手を高速で突き出してきた!
すばやく左手でエリサの右手首を下から掴んで止める。
このメイド、目つぶしを仕掛けてきたんですが!?
「魔族流の挨拶なのこれ!?」
エリサの力が抜けたので手を離してやると、エリサは手首をさすりながら、
「ふむ、まあいいでしょう。肉体の反応速度はかなりのもの。
体内に流れる魔力も、魔王様と引けを取りませんね。
魔王様の隣に立つにふさわしくない、とは言い難いところですね」
持って回った言い方だが、一応は認められたってことかな。
「やや不本意ではありますが、わたくしは魔王様の意思を最大限に尊重します。
勇者様と甘々なスローライフを送ろうというのなら、身辺の世話などお手の物。
協力サポートいたします」
なんだ「甘々」って……
2人きりの生活かと思ってたけど、なんかメイドさんが加わったようだ。
「とりあえずエリサにも認められたみたい、良かったわね。
エリサってなかなか頑なで、他人のことを認めようとしないから」
だからっていきなり目つぶしはどうなの。
アシェリーは何事も起こらなかったように、のほほんとしている。
「では、お2人がスローライフを送るにあたって、まずは何をされますか」
「そうだなあ、」
「おねーさんにまかせて! 10年居たからねここ!
なんで、まあ、適当にフラフラしてても大丈夫、かな?」
……ダメだこの魔王。俺が何とかしないと。
「まずは拠点と飲み水の確保。と、住処だな」
▽
今いる場所は魔獣の森の南端あたり。
森の北西から南東にかけて、山脈からの雪解け水が流れる川がある。
とりあえず北へ進み、森の中央あたり、川のそばを拠点とすることにした。
「きれいな川よね。あたしもだいぶこの水には助けられたわ」
「10年間も、この水だけで……」
とか言ってると、魔王は両手で川の水をすくって飲み始めた。
「おいおい、煮沸消毒しなくていいのか」
「しゃふつ? なにそれ」
「……」
10年間これ。改めてタフぶりを思い知らされる。
「まあ、これで飲み水は確保できた。あとは雨風をしのぐ家だ」
「あたしは10年、木のうろとかで過ごしてきたけど」
「お、おいたわしや魔王様……」
「さすがに3人、そんなとこで暮らせないだろ。家、ちゃんと作るよ」
おおー、と感心の声を上げるアシェリー。
「勇者には【固有スキル】がある。
アシェリーはもう把握してるだろうけど……
【異次元収納】【全体鼓舞】だ。
そして最後にあと一つ。【基本万能】ってのがある」
「何でも出来るってことよね? すごいね」
「いや、最初から何でもってわけじゃない。
一度見たり聞いたりしたことは、大体何でもそれなりに出来るようになる。
ってことだ」
アーレンス大陸を東へ西へ、やたらと便利に使われた俺は、けっこう色々な事も学んでいる。
このスキルのせいで、便利屋扱いされる羽目になったとも言えるが。
「なので一応、建築技術も学んでいる。
家は俺が建てるから、2人は資材の確保を頼みたい」
「なるほどね。木をぶっ倒してくればいいのね。まかせて!」
腕を上げて力こぶを作る魔王。
森を焼かないよう注意した方がいいかな……
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