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第39話 山のスローライフpart8

 あたりはすっかり冬景色だ。


 バケダヌキの結界に入り込んで時間をすっ飛ばしたおかげで、いつの間にか山は完全に雪化粧。

 緑から赤、そして今度は白い世界へ、目まぐるしく変わっている。


 山の木々を霧氷が覆い、白い花を咲かせたようだった。



「綺麗だわ」


 窓から外を眺めたアシェリーがはーっとため息をつく。

 その息で窓が白く曇った。


「季節の移り変わり、とても新鮮。


 秋の涼しさ、燃えるような木々の様子も良かった。

 

 冬は、空から落ちてくる雪がとても美しいわ。


 ……でも、この『寒さ』ってのさえなければねえ! 


 なんだか、行動力が3割ほど落ちる気分!」


 ぶるっと身をふるわせる。


 常夏状態の魔界育ちの魔王にとって、初めての『冬』なのだ。

 新鮮で楽しんでる様子もあるが、難儀している様子でもあった。 

 

 エリサさんが重ね着用のコートを一枚もってきて、魔王にかけた。


「散歩するにも、歩く速度が落ちちゃうし!」


「しかし、雪を踏んだ時の音、くせになります」


「それは確かに! ぎゅっぎゅっ、てやつね!」


「雪合戦というのも楽しかったですね」



 昨日、積もりに積もった雪を有効活用しようと、広場で雪合戦をしたのだ。


 ……エリサさんのおかげで、かなりの追加ルールを設定する羽目になったけど。

 『雪玉に水をかけて凍らせるの禁止』『雪玉に石を詰めるの禁止』『ボウガン使用禁止』。


 まったくあの人は自由過ぎる。

 魔王と結託してこちらを集中攻撃したと思うと、終盤は裏切って魔王を集中攻撃。



「エリサったらひどいわ。服の中に直接、雪玉を入れてくるんだもの」


「それも禁止にしないとなあ。おじや、出来たぞー」


 と、俺は食卓の鍋置き台に、ぐつぐつと音を立てる土鍋をおいた。


「やったー!」


「これはあったまります」


 昼飯は、昨日の鍋の残りにごはんを投入し、溶き卵を入れた『おじや』だ。


 とにかく冬はもう、毎晩のように鍋料理である。

 イノシシ肉の『しし鍋』、肉牛を使った『牛鍋』、鶏の『水炊き』などなど……

 

 そして翌日の昼は、それらの残りを使って『おじや』を食べるのが習慣になっていた。


「はふはふ! おいしー!」


「勇者様の料理には、素直に脱帽です」


 まったく、鍋料理は最高だぜ。 

 鍋を教えてくれた、ノームには感謝しかないな。

 


「あったまった! じゃ、また雪合戦やるわよ! エリサにリベンジ!」


「返り討ちです。今度は服と言う服を、脱がしてさしあげます」


 エリサさんが両手をわきわきさせている。


「目的変わってない!? ルール、守ってくれよ!?」





「ひえたー!」


 アシェリーがバーンとログハウスの扉を開け、暖炉に火を入れて両手をかざす。 

 後から入って来た俺は震えながら、


「さささささ寒い! さささささ先に、温泉、入っていいかな?」


「いいよー!」


 アシェリーの答えが返ってくるやいなや、俺は温泉へとダッシュした。


 雪だるまに偽装したエリサさんに不意打ちされ、服と言う服を脱がされたのだ。

 かろうじて最後の一枚は守ったが、もう雪合戦じゃねえよ!



「……ふいー!」


 温泉に入ると、しびれるような感覚があり、そして徐々に体の芯からあったまっていく。


「うーむ、温泉、最高」


 雪景色を見ながら、ほうっとため息をついた。

 外はしびれるような寒さだが、お湯の中はしびれるようなあったかさ。

 たまらんね。


「次、春が来て少しすれば、勇者業を休んで一年になるか……」


 やや遠い目になる。去年の今頃は俺は病みきっていた。

 いまでは、完全に復調したと言えるだろう。 

 

 この開放感、充実感。以前じゃ想像もつかない生活……


「これも、アシェリーのおかげかな……」


「え!? あたしが何!?」


 真後ろから声がして、驚いて振り向いた

 いつの間にか、アシェリーがこっそり近寄っていたようだ。


「もう! だーれだ、ってしたかったのに!」


「まーた看板を無視して入って来たな……」

 

 もはや男湯も女湯もない、普通に混浴が常態化している。

 別にやましい事はしてないが、これで良いのか温泉モラル。


 俺はモラルを守る男なので、なるべくアシェリーから視線をそらす。

 アシェリーは看板は無視したが、湯船にバスタオル禁止は守ってるので……


 そして湯船の端に、両腕を組んで寄りかかりながら外を見る。

 うーん雪景色が最高だ。展望風呂にしてよかった。


「で、あたしが何?」

 

 隣に来たアシェリーが同じようにして、こちらを見ながら聞いてきた。


「いや……俺がここまで健康を取り戻せたのは、アシェリーのおかげかなって」


 視線は合わせず、俺は答えた。


「一人じゃ、こんな生活は絶対できなかった。余計に孤独で病んでたかもしれない。


 ……だから、最高に感謝しているんだ、アシェリー」


 そんなことを言われ、ぼっと顔を赤らめる魔王。

 思わずだったが、えらいド直球で気持ちを吐露してしまった。


 俺もちょっと恥ずかしくなる。相手の顔を見ながらだったら、言えなかったかも。


「あ、あたしも……勇者ちゃんには感謝してるわ」


 とアシェリーが照れながら返してきた。


「色んな料理を作ってくれて、あちこち引っ越して。色んな風景を見せてくれて……


 地上って、こんなにも良い所なんだって教えてくれた。


 本当に、素敵なところ……


 そして毎日がとても刺激的で、新鮮だわ。全部……勇者ちゃんのおかげよ」


 おおう。

 これまた照れくさくなることを言ってくれる……


「アシェリー」


 思わず、正面から見つめてしまう。


「勇者ちゃん……シルダー」


 アシェリーも見つめ返してきた。

 そして、少しずつ二人の距離が縮まって……


 俺は寸前で、ピタリと止まった。


「!? な、なに?」


「い、いや……


 ここらへんでエリサさんがバーンって、出てくるのがいつもだから……」


 周囲を見回し、チェックする。気配はない。


「大丈夫よ。さっき、一仕事頼んだから。エリサは、来ないわ」


「そ、そうか」


「だから、続きを……」


 つ、続きか。改めてやろうとすると、照れくさすぎるが。

 じゃ、仕切り直して、また見つめ直し……


「!?」


 またピタリと止まる。

 

「ちょ、ちょっとー!? 珍しく良い感じの雰囲気なのにー!?」


「い、いや、そうじゃなくて。この気配、感じないか!?」


 この世のものではないような、妙な存在感。

 そして、遠くで地響きがしているような。


「……魔王城の方向ね」


 アシェリーも気づいたようだ。

 感覚を研ぎ澄まそうと目を閉じている。


 そして、急に目を見開き、


「こ、これは! まさか! ま、魔界!?」


 突然そんな事を言ったかと思うと、ざばーっと湯船から立ち上がった。


「うわー!? ま、まるみえ!」


「え? あっ、きゃーっ!」


 俺の叫びに、慌てて体を隠しながらしゃがみ込む魔王。

 顔は真っ赤で、こちらを涙目で「もー!」と睨んでくる。

 

 さすがに今のは俺のせいじゃないです!


 しかし、めちゃめちゃ綺麗な身体だった……って、いや、そんな事より。

 魔界、って言ったな?まさかこの気配が?



 いったい、どういう事なんだ?

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