第37話 山のスローライフpart6
秋も深くなってきた。
赤や黄色に燃える木々の中、今日は三人で渓流釣りに勤しんでいる。
「お2人ばかり、ノームと会ってるなんてずるいと思います。
今日は意地でもついて行きます。
掃除洗濯などは既に済ませております。嫌だと言ってもついて行きます。
答えは聞いてません」
とエリサさんが早口でまくし立てた。
そこまで言わなくても、自由について来ていいよ……
「釣れたわ!」
魔王がぴっと釣竿を引いた。
糸の先には、一匹の魚が食いついている。
「それはニジアメだな。塩焼きにすると美味いぞ」
釣った魚に塩を振り、クーラーボックスに入れておく。
以前、セイレーンの人に貰った宝箱に保冷性があったので、こうやって便利に使っている。
「釣れました。これでカウントは勇:5 魔:2 私:8です。
圧倒的勝利メイド」
どういう称号だよ。
しかし、確かにエリサさんの釣りの腕は、かなりのものだ。
これまでの鬱憤を晴らすかのように、釣りまくっている。
「魔王様。一匹ほど、恵んで差し上げましょうか」
「むきー! いらない! ほっといて!」
かなり調子こいてるメイドである。
雇い主に対して、態度が大きすぎる。
まあ、楽しんでるようでなによりか。
ノームは今のところ来てくれる気配はないが、釣果だけでも満足はしてくれるだろう。
「本日の結果発表。だらららら……! 勇:11 魔:3 私:12。
メ イ ド さ ん 大 勝 利 」
ガッツポーズのエリサさん。
鼻息も荒く、こんなドヤ顔初めて見た。
とりあえず6時間制限で釣り勝負(別に最初からそのつもりはなかったけど)をした結果。
こういう成績になったのだった。
「きょ、今日の所は勝ちを譲ってあげるわ。次は、負けないんだから!」
腕を組んであさっての方向を向くアシェリー。
なかなかに悔しそうだ。
「それは無理ですね。わたくしは魔王様の3倍。
これを詰めるのは難しいでしょう」
「よ、4倍でしょ! わざと計算間違えて! もー!」
ぱたぱたと地団太を踏むアシェリー。
このメイドの煽り力、侮れない。
「いや、ほんと器用にこなすよな。優勝おめ」
「勇者様もなかなかの腕前です。さすが、やりますね」
「な、なに肩組んでるの! 離れてー!」
「こちら二桁組ですから。魔王様は一桁組。そういうことです」
そ、その辺にしておきませんかねエリサさん?
あとなんで抱き着いてくるんですか!?
胸元に指を這わせないでもらえませんか!?
「もおー! エリサのいじわるー!
勇者ちゃんも鼻の下伸ばしてないで、突き放してー!」
伸ばしてないって……
「ふう。スッキリしました。ありがとうございました、魔王様、勇者様」
エリサがスッキリした顔で頭を下げた。
鬱憤は晴れ、真面目なメイドモードに切り替わった模様。
「今日は、魚料理が楽しみですね」
その辺は任せておいてもらいたい。
暗くなる前に、ログハウスに戻ろう……
「あれはなに?」
としたら、魔王が妙な声をあげた。
振り返って、指さした先を見ると……
「なんだありゃ、家!? いつの間に建ったんだあんなもの……」
さっきまでは何もなかったはずの場所に、木造の家が建っていた。
それも、この辺では見ないような様式だ。
「あれも、ノームの仕業なのですか?」
「いや……東洋の屋敷、のように見えるな」
「なにそれ?」
アシェリーが首を傾げた。
「海の東の果てにある国のやり方で、建てた家だな」
しかしなんでそんなものが突然。
近くまで寄ってみる。人の気配は感じられない……
「ここが玄関かしら?」
引き戸があり、魔王が手をかけて引くとカラカラとあっさり開いた。
「おいおい……不用意だな?」
「あたしを出し抜ける罠なんて、そうそう無いでしょ」
まあ、そうだけど。
用心しながら中に入ってみるが、やはり何の気配もない。
なかなかに広い玄関だった。
右側には、木製の靴置きらしき棚があった。
「……東洋の屋敷だと、この段差の先は、靴を脱いで上がるらしい」
「へえ?」
段差の前には、靴が何足か並んでいる。人が居るのか?
「上がってみるか。あまりにも怪しすぎる家だが」
「勇者と魔王が揃ってて、何かあるわけもないでしょ」
「その上メイドも居ますし。家にメイドはつきもの」
「そうだけど、東洋ではメイドとは言わないんじゃないかな……」
とりあえず皆で靴を脱ぎ、アイテムボックスに入れて段差を上がった。
「こんにちわ! 誰かいませんか?」
魔王が呼びかけてみるが、返事はない。
上がる前に、呼びかけるべきだったなと思ったが、ちょっと遅かった。
まっすぐ奥に伸びる廊下の先は、T字路になってるようだ。
とちゅう、左右に木のドアがあったが、鍵がかかっていて開かない。
「無理やり開けちゃおうか?」
アシェリーが右手の指先に炎をともした。
「誰の家かも分からないのに、破壊活動はまずいでしょ……」
「ドアの修理代を請求されても、知りませんよ」
「ちぇー」
なんとなくだけど、高そうな気がする。
正直、いざとなれば魔王に燃やしてもらえばいいか、くらいには思った自分もいたり。
ノームの家とは思えないが、ノームのような隠れ里にすむ違う種族のものかもしれない。
「とりあえず、攻撃魔法はなしの方向で」
「りょーかい」
とりあえず廊下を先に進み、左右を見回すが同じような廊下が続いているだけだ。
「なんか、めっちゃ広くない? 外から見た時に想像した広さより」
「確かに……」
こんなに長い廊下があるほどの大きさには、とても思えなかった。
「掃除のし甲斐がある家ですね」
メイドらしい感想、と言えるのかな。
一人だと、めちゃくちゃ大変そうな規模だと思うけど。
「それにしても長い廊下だ……」
ふと後ろを振り返って、来た方向を見てみる。
そこには想定外の状況が待っていた。
「……玄関がない!」
「ええっ!? ほんとだ、前も後ろも廊下がずっと続いてる!?」
「……みごとにハメられたようですね。家自体が罠のようです」
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