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第35話 山のスローライフpart4

 とんてんとんてん、ノームが躍る。歌う。


 俺たちは、巨大なキノコに囲まれた世界で、不思議なノームの音楽を聴きながら……

 小さい皿(それでもノームには大皿だ)に乗った、たくさんのノーム料理に舌鼓をうった。


「素朴な味だが、おいしいな……」


「なんか、落ち着くね!」


 主に木の実を使った料理が多かった。

 甘いなかに酸味が程よく混じるもの、不快ではない苦みのあるもの、さまざまだ。


「たのしんでるー?」


「おくちにあったかなー?」


 ノームたちが入れ代わり立ち代わり、料理を運んできたり、話しかけてくる。


「ええ、とってもおいしいわ!」


「レシピが気になるな」


 笑顔で言うと、皆わっと喜び、その辺を駆け回ったりして喜びをあらわしている。


 ほかのノームたちも、それぞれ酒を飲んだり、騒いだり。

 木を彫って、人形なんかも作ってたり。


 この山に、こんなノームの里があったなんて、全く知らなかった。


「そこまで山の奥深く、ってところじゃなかったけども」


「よく誰にも見つからずに、存在できてるわよね、ここ」


 幻想的なキノコの家々が立ち並ぶ、奇妙な谷。

 そこをひっきりなしに駆け回るノームたち。

 

 そんな不思議なほほえましいノームの宴も、数刻ののちに終わりを告げた。


 日もそろそろ暮れそうな時間帯で、早く帰らないとまた迷ってしまいそうだ。

 しかし、今日の夕飯はエリサさん一人になりそうだな。すまん。


「いや、楽しいひとときだったよ」


「ありがとう、ノームの人たち!」


「ばいばい、いのちのおんじんさんー!」


「ゆうしゃさん! まおうさん! またねー!」


 ベリトとヘルガをふくめた、大勢のノームに見送られ、ノームの里を後にした。


「いや、楽しい宴だった」


「エリサもいっしょだったらなー!」


「確かに。あんなキノコの家なんて、きっと想像もつかな……」


 しかし、そう言って振り返ってみると、ノームの住み家だった谷は、どこにも見当たらなかった。

 ちょっと、歩いて離れた程度なのに……


「……たぶん、招待されないと入れない、隠れ里なのね」


「自由に来れないのはちょっと寂しいけど、そうやって彼らは身を守ってるんだ」


「また、来れるわよ、いつか」


「またね、って言ってくれたからな……」 


 ほんとに、不思議な体験だった。




 ログハウスに帰った時は、完全に日が落ち、真っ暗になっていた。


「いやーまた迷うところだったな……」


「ノームがくれた、『たずね先の小枝』がなかったら、あぶなかったね!」


 ノームの里で、おみやげとしてもらったものだ。

 迷った時にその小枝を手のひらに乗せると、行きたい先を矢印のような枝先で示してくれるのだ。


「おかえりなさいませ、ずいぶんとおたのしみでしたようで……」


 夕ご飯の時間をわりと過ぎてしまい、ややむくれた様子のエリサさん。


「ごっめーん! でも、エリサのぶんのおみやげ、持って帰ったから! 


 ノームの不思議な料理!」


「すまない、こういう時の連絡手段を確保しておくべきだったな」


 そんな魔法もスキルも持ち合わせてないけど……


「いいのです。わたくしは魔王様と勇者様がお幸せでいてくれるだけで、十分です。


 おなかもすいてませんし、食べたいとも思いません」


「ごめんってー! ね、エリサ―!」


 ……わりとエリサさんも人間味あるところあるな。魔族だけど。


 その後エリサさんにずっとアシェリーがつきっきりだったようだが、機嫌はなかなか直らなかった模様。

 俺も何か考えるか……


 

 ▽



 次の日。


「なにしてるの?」


 ログハウスのテラスで、魔王に声を掛けられた。


「……人形? 彫ってるの?」


「ああ。手頃の太さの枝を見つけたんで、ちょっとね」


 小刀を使って、枝を削り、人形を作ってる最中だ。

 昨日、ノームがそういうことをやっているのを見て、覚えたのだ。


「勇者ちゃんてほんと器用よね」


「まあ、そういうスキルだし」


 彫ってる間、アシェリーは肘をついてじっと見ている。

 ……若干気になるが、なんか楽しそうだし、いいか。


「できた!」


「すっごい! 三体も?」


 初作だし、つたないけど、なんとか三体の木彫り人形が出来た。

 男の形をしたもの一体、女の形をしたもの二体。


「あ、これ。勇者ちゃんとわたしと、エリサ?」


「正解」


 なんか機嫌損ねちゃったみたいだし、何かできることはないかな~と考えた結果だ。

 これを一緒に飾って、まあ皆で仲良くしようよ的な?


 さっそくリビングに飾ってみる。

 

「おや」


 掃除に来たエリサがさっそく気づいた。

 今日も朝ごはんの時は若干、不機嫌に見えたが……


「勇者様が作られたのですか?」


「う、うん」


 ふむふむ、と棚に乗せられたそれを上から下から、観察するエリサさん。


「……なるほど。これは魔王様と、勇者様ですね」


「正解!」


 びしっとエリサさんを指さす俺。


「そしてあと一体は……」


「そう、残り一体は……」


 だらららら……と近くで魔王がドラムロールみたいなものを口でつぶやいている。


「お二人の間に出来た、お子様の人形と」


「ちっがーう!」


「それはまだー!」


 顔を赤くして、俺と魔王がつっこんだ。

 てか、まだ、って!


「ふふ。冗談ですよ。これはわたくし、なのですね」


「そ、そう。エリサさんだよ」


 なんか、いつものエリサさんが戻って来たみたいだ。


「ありがとうございます。お二人の、隣に並べていただいて」


「よかった。機嫌もどってきたかな」


「わたくしはいつも平常心でございます」


 うん、完璧に元のエリサさんだ。


「はやく、この人形の魔王様と勇者様の間に、小さい人形が出来る事を願ってます」



 だからー!


 気が早い、って!

お読みいただきありがとうございます!


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