第34話 山のスローライフpart3
次の朝。
俺とアシェリーはふたたび、ログハウス周辺の散策だ。
ある程度地形を頭に入れとかないと、また何かの機会に迷う可能性がある。
今度は歩きながら、目印として目立つ色の布を、一定距離ごとに木の枝に結んでいく事にした。
「登山客が来て、ほどいていったりしないかな?」
アシェリーが結ばれた布を見ながら、そんな事を言った。
「あー、言っちゃなんだけど……
ここの近くが魔族領になってから、登山客はほとんどいないらしいんだ」
「そうなの……その人たちにも、悪い事しちゃってるわね……」
「アシェリーが悪いんじゃない。また、いつか登山客でにぎわうようになるよ」
アシェリーがうつむいたのを見て、慌ててフォローする。
「だと、いいわね」
「それまでは、この山の綺麗な景色を二人じめしとこう。あ、三人じめか。
登山客どころか誰も居ない、静かな環境をね」
そしてしばらく、二人で散策を続ける。
食べられるキノコや木の実を取ったり、野草を取ったりしていると……
「ねえ、何か聞こえない?」
ふと魔王が耳を澄ませた。
「ん、……。何か、足音っぽいのが聞こえるな」
ずしん、ずしんと、遠くから近づいてくる。
二人して木のかげに隠れ、しばし待つ。
そして木々を分け入るように現れたのは、青い肌をもった巨人だった。
全高5メートルはあろうかという巨体だ。
「山トロールね」
「魔王軍の配下に、加わってないものたちもいたんだな」
こっそり小さくささやく。
山トロールは、その名の通り山に住むトロールの一族だ。
かなりの強さを持ち、並みの冒険者パーティであれば腕の一振りで全滅しかねない難敵だ。
「ん? 何か声が聞こえる?」
足音のほかに、きゃーきゃー騒ぐ声が聞こえると思ったら、巨人は手に何かを握っていた。
「人?」
「じゃない、あれはノームだわ」
――ノーム。
人より小さな体躯をもち、大地の精霊とも言われる、亜人族。
ドワーフの親戚のように言われる事もある。
「へえ、初めて見た。
確かに、三角の帽子をかぶってる。身長は1メートルもないな」
二人とも、女の子のようだ。
山トロールは両手に二人、ノームを掴んで歩いていく。
「たぶん、山トロールの今晩のメインディッシュになるんだわ」
「助けよう」
アシェリーもうなずき、二人してさっと木の陰から飛び出す。
「ブフーン!?」
山トロールが気づいて振り向いた。
俺は愛剣を空間から取り出し、抜き放つ。
山トロールの踏みつけをかわし、飛び上がりざまにそいつの両腕を切り落とした。
「ブアアアア!」
すさまじい咆哮が山々にとどろき、驚いた野鳥がバサバサと飛び立っていく。
「おっとっと?」
山トロールの手から解放され、落ちていくノームたちをアシェリーがしっかりキャッチ。
「勇者ちゃん、ノームたちは大丈夫!」
アシェリーに向かって親指を立て、俺はふたたび山トロールに向き合う。
両腕を失った山トロールは、死に物狂いで暴れている。
体を振り回し、何本もの木が体当たりで倒された。
俺はそれをかいくぐって、山トロールの両足首の腱を切り裂いた。
どうと倒れたところを、やつの頭部に剣を突き立てると、ようやく静かになる。
「やれやれ。久しぶりに戦った気がする」
剣をアイテムボックスに放り込み、肩をすくめた。
「つよい、つよいー!」
「二人ともありがと、ありがとー!」
子供のような声が聞こえたと思ったら、切り株の上に二人のノームが立って、手を振っていた。
「食べられなくて良かったわね」
アシェリーが声をかけると、ノームは震えながら、
「あいつ、なかまを何人も食べたー!」
「かたきうち、したかった! 毒キノコ、たべさせようと思ったー!」
「でも、しっぱいしたのー!」
で、捕まったってわけか。
しかし山トロールを毒殺しようとする作戦、なかなか穏やかじゃない発想である。
「山トロールって、他にもいるの?」
アシェリーが尋ねると、
「いないー! あいつだけ! だから、もう食べられる心配、ないー!」
「だから、ありがとー! とても、ありがとー!」
ぴょんぴょん跳ねて感謝を繰り返すノームたち。
「おれい、したいー!」
「こっちきて! ノームのおうちー!」
どうやら、ノームの住んでいるところへ、案内したいらしい。
「へえ、お招きにあずかろうかしら。
ノームって、ほとんど人前に現れないし、こんな機会、二度とないかも」
「だなあ、これは行ってみるしかないな」
そうして、俺たちは「こっちこっちー!」と繰り返すノームたちの後を追っていくのだった。
▽
「おー、ここがノームの住み家、なのか」
「素敵。キノコのおうちなのね」
ノームたちに連れられてきたのは、たくさんのキノコが生えている谷だった。
俺たちの身長の3倍はありそうな巨大なキノコが、そこかしこに散在している。
ノームたちは、そのキノコをくり抜いて、住み家にしているようだ。
「……家の中、入れるかな?」
巨大キノコとはいえ、俺たちが入るにはさすがに入口もせまく、無理そうな気配だ。
「ちょっとむりそうー! じゃ、こっち!」
と連れられていった場所は、さらにひときわ巨大なキノコが一本生えている場所だった。
家ではないようだったが、どうもこのキノコ集落の中心にあるシンボル的存在のようだった。
「ここなら大きな人、雨降ってもぬれないー!」
「すわって、まっててー!」
大きな人というのは俺たちのことか。
言われた通り、しばらく座って待ってると、大勢のノームたちが現れ、俺たちの前に膝をついた。
「ベリトとヘルガをたすけてくれて、ありがとー!」
「青いトロール、たおしてくれて、ありがとー!」
口々に、感謝の言葉を繰り返してくる。
ベリトとヘルガというのは、捕まってたノームの女の子の名前のようだ。
その二人が、ノームたちの中から現れ、深々とお辞儀をした。
「いのちのおんじん-!」
「おんじんには、おかえしをするー!
これから、あたしたちのお料理、たくさんでてくるー!」
「たんのうしてって! 大きい人たちー!」
「ほんとに、ありがとー!」
その言葉通りに、たくさんの皿に乗った、ノームの料理が運ばれてきた。
そうしてノームたちは楽器のようなもので音楽をかなで、踊りだし、歌いだした。
「こりゃ、なんとも不思議な食事会になりそうだ」
「みな、小さくてかわいい!」
俺とアシェリーは、顔を見合わせて笑う。
こうして、ノームの宴が始まった。
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