第33話 山のスローライフpart2
「出来た!」
温泉を発見してから三日。
湧き出ている場所から、ログハウスまでお湯を引く。
そしてそのお湯を溜める浴槽、排水溝、もろもろが設置された施設。
魔王のスキルを使ってもらい、あっという間にそれらが出来てしまった。
「はあはあ、とはいっても……
一日中ちょこまかと動いて作るのは俺一人だから、けっこう疲れた……」
だが、この疲れも、温泉につかれば吹っ飛ぶに違いない。
「お疲れ! 勇者ちゃん」
「見事な混浴施設です。このすけべ」
その設計図を引いたのは、エリサさんですけどね!
「べ、別にいちいち混浴しなくてもいいでしょ。
時間を決めて、交代で入ろう」
「了解いたしました。では、朝8時~夜8時までは魔王様と勇者様。
それ以外の時間帯は、わたくしということで」
ざっくりしすぎ!
あと、それだと俺とアシェリーが混浴してしまう可能性が大いに残ってる!
仕方がないので、温泉施設の扉に『〇〇が入ってます』看板をかけることで、配慮を求める形になった。
「うー! んっふーーー!」
広めの湯船につかり、思いっきり手足を伸ばす。
ここしばらくの疲れが、お湯の中に溶けだしていくようだ。
「日が落ちていく山のすそ野を眺めながら、温泉につかる。
いやーたまらんね」
現在は夕方。
扉に『シルダーが入ってます』看板をかけて、一人温泉につかっている。
鳥の鳴き声が聞こえる程度で、それ以外は静かな場所に一人っきり、というのもやや寂しい気もするけど。
「こうなると、お盆にお酒を浮かべて……
一杯やりながら、っていうのをやりたくなるな」
さすがに酒造の設備はないけども。
山に果物がなっていれば、それから行けたりしないかな?
「酒ではないですが、温泉に合うハーブティー(独自調べ)をお持ちしました」
「ありがと……っておいぃ!」
堂々とエリサさん入って来てるし!
後ろにはアシェリーもついて来てる!
二人ともバスタオルしてるとはいえ!
あわてて視線をそらしながら、
「か、看板かけてただろ!? 読めないの!?」
「読めますが、無視しました」
悪びれもしねえー!
「い、いいじゃない。一人っきりって、さびしいでしょ。
べ、べつに変な事するわけじゃないし、せっかくの温泉、みんなでつかろ?」
アシェリーが湯船に入って来た。
ううっ、気になる。気になるが、指摘したら絶対、エリサさんに言われる。
が、指摘せざるを得ないことがある……
「……湯船の中に、バスタオルつけたままはマナー違反、なんだ……」
「え? あ、そ、そうなの!? でも……」
「魔王様。勇者様はそう言って、魔王様の裸を見ようとしています。
騙されてはなりません」
「そうなの!?!?!? ちょっと、勇者ちゃん!?」
エリサさん言うと思った!
でも本当なんだって!
「本当なら仕方ありませんね、魔王様、バスタオルを外してさしあげます」
なんだその手のひら返しの速さは、と思ったらそういう行動に!?
「きゃー! じ、自分で外すから!」
悲鳴に思わず振り返ってしまい、
「勇者ちゃん!? 見ないで!」
結局、なんだかんだで俺がさっさと上がってしまい、じっくり温泉につかるのは次の機会になった。
▽
次の日。
朝食を取った俺たちは、山の散策に来ている。
周囲の地形を確認がてら、果物がなってる木や、キノコや野草、食べ物を探すためだ。
「ひゃん!」
「リルル、あまり遠くへいくなよー?」
今回は俺とアシェリー、リルルの組み合わせ。
エリサさんは、お留守番である。
「うん、エリサの靴、歩きやすい!」
今回アシェリーは、山歩きにも適した靴を履いている。
エリサさんが夜なべして作ってくれたらしい。
あの人ほんとに器用だよな……
「あ、あの木の実、食べられるって! あの野草も!」
魔王の【鑑定】で、食べ物探しもはかどっている。
さすがに山の幸などと言われるだけあって、色々食べ物は豊富だ。
なのでついつい、山に深入りしてしまい……
「……迷った」
ログハウスの場所が分からなくなってしまった。
「ちょっと、調子にのっちゃったね……」
「うーん。うっかり登山道を離れたのがまずかったな……」
食料はたっぷりアイテムボックスに入ってるけども。
このままだと野宿になってしまう……
しかしテントもないので、そうなるとアイテムボックス空間で過ごすことになる。
あまり気は進まないが。
「うーん……こういう時どうするんだったっけ……
川に沿って降りれば、ふもとに着く?」
いやいや降りてどうする。どこにたどり着くかもわからんし。
「そうだ!
切り株を見れば、年輪の具合で方角が分かるって何かで読んだ!」
アシェリーが手を挙げたと思ったら、結構ドヤ顔でそんな事を言った。
「それって迷信だぞ」
「えー!? 唯一の山知識なのにー!」
頼りになると思われたかったようで、けっこうガッカリしているアシェリー。
それ以前に、方角が分かってもログハウスには戻れないよ……
こうなれば、頼りはリルルしかあるまい。
「てことで、リルル、ログハウスの方向、分かるかなー?」
かがんで、リルルの顔を見ながら聞いてみた。
「ひゃん!」
おお、分かるって?……と言ってるかどうかは分からない……
しかしリルルは、ふんふんと匂いを嗅ぐような仕草をしたかと思うと、急に走り出した。
「あ、待ってくれ!」
「置いてかないで―!?」
慌ててリルルの後を追う。
しかしリルルが向かった先は、山の斜面に空いた洞窟の入り口だった。
「ログハウス違ったー!」
洞窟の周囲には、最近土が崩れたような跡がある。
地震か何かで、出来た穴だろうか。
振り向いたリルルがひゃんひゃん鳴いている。
「ここで一晩過ごせ、って言ってるのかな?」
「洞窟の中、じめじめしてるし虫とか居るし、やだなー」
しかしおかまいなしにリルルは洞窟の中へ入って行った。
「おーい、危ないぞ?」
リルルについて洞窟の中に入る、が数歩行くと違和感に気づいた。
「あれ、ここから先、人工的に作られた回廊になってる……」
「ほんとだ。石、じゃないね。何かの金属みたい?」
しばらく行くと、降りる階段があった。
リルルは迷うことなく降りていく。
「おいおい、何が居るのか分からないぞ? 危ないって」
俺たちもリルルを追って階段を降りる。
降りた先、扉のない出入口をくぐって出た先は……
「なんだこりゃ?」
見た事も無い金属で出来た部屋が、そこにあった。
一面、銀色にも見える灰色で、ボタンのような突起物が壁にずらっと並んでいる。
細い半透明の柱が何本も天井と床を繋ぎ、その柱の内部に、赤や青の光が上から下へと流れるように動いていた。
床から突き出した四角い構造物には、半円のドームが二つ付いており、その中に光が明滅している。
どれもこれも、何の用途に使うのかさっぱり分からない。
「なんて奇妙な部屋だ……最近の建物にも見えないし、遺跡なのか?」
「……ええ、ここは、遺跡だわ」
知っているのか、とアシェリーを振り向くと、ゆっくりとうなずく。
「ここは。フェンリルが一度リセットした世界の……遺跡だわ」
アシェリーが、驚きに満ちた声で、そう告げた。
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