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第32話 山のスローライフpart1

 しかし、登山の準備が不足していたのは確かだ。

 俺の靴は冒険者用のごついやつで、それなりに登山にも向いてはいる。


 しかし女性陣の靴は、どうにもそれ向きじゃなかった。

 

 エリサさんは疲れというより、足の痛みが気になるかもしれない。


「……エリサさんは、俺のアイテムボックス空間内でいい?」


「それは面白そうです。一度入ってみたいと思っておりました」 


 苦し紛れの提案だったが、案外あっさりと受け入れられ、エリサさんは空中へと姿を消した。

 周囲の空気ごと、エリサさんをアイテムボックス空間に入れたのだ。


「……あたしも、そこに入った方が、勇者ちゃんきつくないんじゃない?」


「いや、アシェリーはこのままで良いよ」


「……ふふ」


 また、俺に回した腕に力を込めてくる。

 そうして、二人でたわいのない話をしながら、山を登っていった。

 

 すると、そのうち急に空が暗くなり、ぽつぽつと小雨が降りだした。


「あめ―!」


「山の天気は変わりやすいっていうけど……」


 とか言ってるうちに、ざあっと本降りになって来た。


 困ったな。このままだと、俺たちもいったんアイテムボックス空間で雨宿りの羽目になるかも。

 あの空間、真っ暗で案外退屈なんだよな…… 


 そろそろ日も傾きだしたかな、という頃。


 ようやく、ログハウスを建てられるくらいの広さのある場所に出た。

 見晴らしも良さそうだ。今はあいにくの雨模様だが。


「ここがちょうど良さそうだ。ログハウスを……


 っとその前に、エリサさんだ」


 エリサさんをアイテムボックス空間から出してあげる。


 しかし、出てきたエリサさんが地面にくたっと倒れそうになったので、慌てて抱き留めると、……寝ていた。


「……すみません。あの空間、暗くて何も見えないのでつい」


 とエリサさん。そうなるよね……


 いそいで俺はログハウスを空間から出す。

 鶏小屋も水田も併設したすべてが、無事に広場に展開された。


「さ、中へ!」


「やー。下着までびしょびしょ!」


「だそうです、勇者様」


 いちいち報告してこなくていいよ、どんな反応返せば!?

 俺たちは走ってログハウス内に入った。


 エリサさんが手早く全員分のタオルを持ってきてくれた。

 自室に戻って服を脱ぎ、体を拭く。


「しまったな。こういうとき、広い風呂なんかがあると良いんだけど。


 冷えた体を温めるには、風呂が一番なのに」


 森でも海でも、近場に体を洗える水場があったのと、気候的に暖かかったので風呂を作るのを失念していた。

 スローライフの計画には、風呂場の設置もあったのに。


「……そうだ。山なら、温泉があるかもしれない」


 確かこの山は一応、活火山もあったはず。


 すぐ近くになくても、温水をログハウスまで引っ張ってこれるようにすればいいんだ。

 軽い火炎魔法を展開して体を温めながら、俺は思いついた計画をはやく実行したくて、うずうずしてくるのだった。



 ▽



「わあ! 良い眺めー!」


 次の朝。


 今日は快晴だったので、ログハウスがある広場から、目の前に広がる平原が遠くまで見渡せた。

 そしてその上には青い空。


「前回は、見渡す限りの蒼い海と空だったけど、今回は見渡す限りの緑と青だわ!」

 

 アシェリーが目の前の風景に、感嘆のため息をもらした。


 ここは山の中腹あたりにあるので、見下ろす形で平原や森を眺めることが出来る。

 平原のさらに向こうには、ぼんやりと青くけむるような山々が連なっていた。

 

 魔獣の森も、左の方に小さく見えている。


「森にいた時は、どちらを向いても緑だったね」


「緑一色の世界から、青一色の世界。そして今度は青と緑の世界!


 引っ越しって、良いものね! それに山、とても空気が美味しい!」


 アシェリーがこちらを振り向き、笑顔を見せた。


 確かに、いくら良い風景でも、ずっと同じ場所に居続ければ新鮮味もなくなる。

 何度も引っ越すってのも、けっこう良いものなのかもしれないな。


「じゃあ、今日はなにしよっか!? あ、いつも通りだと水場の確保かな?」


「それもだけど、今回は温泉も探そうと思う」


「おんせん?」


 温泉の概念を知らないらしい魔王に、手短に温泉について説明した。


「へえ、山にはそういうのがあるのね!」


「登ってくる途中に小川があったから、水場はそれで良いとして。


 今日は温泉探しだ」


「りょーかい!」


「しかし、どうやって探すおつもりですか? 


 この山を歩いて回るには、広すぎるかと」

 

 エリサさんがやってきて、当然の疑問をぶつける。


「温泉ってのは、マグマだまりの近くにあるものだ。


 その熱源を魔法で探知して、近くを探せば……うん?」


 急に足が引っ張られたかと思ったら、リルルが俺のズボンに噛みついていた。


「なんだい、リルル。ん、こっちへ来い、って言ってるのかー?」


 そうだ、と言うようにリルルはひゃん!とひと鳴き。

 そしてたたたっとある方向へと走っては、こちらを振り向いて、しっぽを振っている。


「まるで、付いてこい、って言ってるみたいね!」


「なにか食べ物になる様な、動物でも居るのかな? 


 とりあえず付いていってみようか」



 ……そしてリルルに付いていった俺たちは、とある岩陰で湧き出ている温泉を見つけたのだった。


「え、これが温泉なの?」


「あっさりと、見つかりましたね……」


 いやいや、まさかだろ。

 さすがにこれには俺も驚いた。 


「……リルルは、さっきの会話を聞いていたのかな。


 そして完璧に内容を把握して、温泉の匂いかなにかを嗅ぎ取り……


 俺たちを連れて来た……」


 不思議な犬だ。

 当のリルルは、ちょこんと座ってしっぽを振り続けている。


 ほめて!って言ってるようにも思えたので、しゃがんで頭を撫でてやった。


 リルルは気持ちよさそうに目を細め、そのうち寝転んで腹を出してきたので、そっちもわしわしと撫でてやる。


「いや、実際お手柄だ。すごいぞ、リルル!」


 アシェリーとエリサは顔を見合わせ、何とも言えない表情をした。


 しかし温泉といっても、人が入れるようなものではない。

 なので、実際はここからログハウスまで、温水を引っ張る経路を作る必要があるが。 



 それが出来れば、今度はログハウスに温泉が併設されることになる! 


 無料で、いつでも入れるようなやつが!

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