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第31話 引っ越し、山へ

「やっぱ、山よね!」


 ちょうどここから北に、ラマノール山脈という標高数百メートル規模の山々がそびえている。

 やや魔族の占領地に近くなるが、以前は登山を楽しむ人たちもいたらしい、手ごろと思われる山だ。


 ただ、問題が一つ。


「あの山に、行った事ないんだよなあ」


 移動魔法で行ける場所は、一度自分が行った場所に限られる。

 残念ながら、ラマノール山脈方面には行く機会がなかった。


「歩いていく事になりますか」


「えー? かったるーい。あたしの移動魔法で、行こうよ!」

 

 アシェリーはあそこへ行った事あるんだ?


「いや、ないけど、あの山は魔族領に近いでしょ。


 あたしの移動魔法で行けるのは魔王城だけだけど……


 一度そこへ行くように、移動魔法を使うの。


 その後は、空中で飛行ベクトルに強制介入して、方向を捻じ曲げれば……」


 す、すごい力技だな!?

 

「なんとか、あの山のふもと辺りには着けると思うわ。その後はちょっと登山になるけど」


「それじゃあ、アシェリーに任せようかな?」


「ええ! おねーさんにお任せ! 頼って頼って!」


 頼られる機会が来て、すごい嬉しそうだ。 


「そうとなれば、色々準備をしないとな……!」


 俺たちは手早く手持ちの荷物などをまとめ、ログハウスを例によってアイテムボックス空間に収納。


 そして海に入ってテレースさんを呼ぶ。

 唐突な引っ越しになること、今までの贈り物に感謝の気持ちを伝えた。


「名残惜しいです。まだまだ、贈り物をお届けしたかったのですが」


「十分、いろいろ頂いたよ。


 あと、いずれここには人間の軍隊がやって来ると思うんで、用心してね」


「分かりました。最後に、勇者様の子種をいただければ……」


 と胸の貝殻を外しにかかるテレースさんを慌てて止め、


「そ、それはまたの機会で! じゃ、じゃあ俺たちはもう行くから!」


「そうですか。しょぼん。では、皆さまお元気で……」


 残念そうなテレースさんは海に入って行き、姿を消した。


「ふう……」


 汗を拭いて、アシェリーの方を向くと、めらめらと燃えるようなオーラを立ち昇らせている。


「またの機会……? 


 機会があれば、テレースさんと、良い感じになりたいの……?」


「ち、ちがう! 


 そういう意味じゃなく、とりあえずはぐらかす選択肢の答えとして、ね!?」


「とりあえず、と。明確な否定じゃないんですね。


 つまりこれは、なかば了承と取れる答えと思われます、魔王様」


 エリサさん火に油を投入するような真似をー!


「へえー!? そーなんだあー!?」


「ちがうって! 今、良い感じになりたいのは、アシェリーだけ!」


 あっ。お、思わず……そんな事を言ってしまった。


「あ……」


 アシェリーの炎のオーラが消え、しおらしい態度に。


「……うん、そ、そうなんだ。そう、ええと? もっかい言って?」


 秒で機嫌が戻って来た。

 エリサさんの微ニヤリが止まらない。


「い、いいだろ、もう。早く行くぞ!」

 

 照れ隠しで、山の方を指さす。

 人間の軍隊もやって来ることだし!

 とはいっても、王都からここまで、最速で1か月はかかるだろうけど!


「……うん、ま、いいわ! じゃ、あたしに捕まって!」


 と背を向けてきた。

 その後ろから、しがみつく。


 そして俺の後ろから、エリサさんがしがみついてきた。


「今なら、魔王様の胸に手を回してラッキースケベチャンス」


「とんでもない事を耳元でささやかないでください……」

  

 まさに悪魔のささやきだな……


「もっとぎゅっとしがみついて! そう、えへへ。じゃあ、行くわよ!」


 そして俺たちは、魔王の移動魔法によって、空へと飛び立った。



 ▽



「うわーーー!?」


「きゃーーー!?」


「墜落まで、あと3。2。1……」


 どーん。


 ギリギリ、風魔法による衝撃緩和の効果が間に合い、俺たちはなんとかラマノール山のふもと付近に軟着陸した。


「……あぶな、かったー! 勇者ちゃん、ありがとね……」


「やっぱり、移動魔法の軌道を無理やり変えるってのは……


 安定しないもんなんだなあ」


 空中であっちへフラフラ、こっちへフラフラ。


 時にはきりもみ回転しながら、かなり危ない空中移動になったが、結果的には一応目的地に着くことが出来た。


「もう! 勇者ちゃんが空中で、あたしの胸を掴んでくるから……!」


「あ、あれは事故! きりもみ回転されたから、かなり焦ったんだって!」


「完全に故意ですね」


 またエリサさん!ちーがーうー!


「でもナイスです。アドバイス通り」


「な、なんのアドバイスを受けたの? 勇者ちゃん!?」


 勘弁してくれ!


「み、見ろよ、あそこにちょうど登山道が見える。


 登って行けば、ログハウスを建て直すにちょうどいい場所にもたどり着けるかもだ」


「ちょっと!」


 アシェリーはもう無視して、俺はずかずかと登山道に入って行くのだった。



 かつてはそれなりに登山する人たちが居たんだろうど、今では近づく者もいない。

 ここはかなり魔族領に近いからだ。


 しかし、かつての登山道はまだ草に埋もれたりすることなく、かろうじて残っていた。


「待ってよー。勇者ちゃん、あたしつかれたー」


 登り始めてさほど時間が経ってないのに、魔王が疲れを訴えてきた。

 はえーな、と思ったけど、さっきの『無理やり移動魔法』がかなり負担になっていたらしい。


「それに、よくよく考えれば魔王様の靴は登山に向いておりません。


 準備を怠ってしまったわたくしのせいです」


 エリサさんが珍しく、まともな事を言っている。


「わたくしはいつもまともですが」


 それは嘘!


「仕方ないな、じゃ、じゃあアシェリーは俺がおぶっていくか」


「え! いいの!?」


「日が暮れないうちに、ログハウスの場所も確保したいしな。


 とりあえず建ててしまえば、数日の食糧と水もあることだし」


 と、俺はかがんでアシェリーに背を向けた。


「うーん、あたし、お姫様抱っこがいいなあ」


「それはちょっと……登山に向いてないスタイルじゃないかな……」


 わがままはスルーして、俺はアシェリーをおぶって歩き出した。


「重くない?」


「平気平気」


「ふふ、勇者ちゃんの背中……広いし、あったかい」


 しがみつく腕にぎゅっと力を込めてきた。

 俺もアシェリーの体温を感じながら、山道を登る足に一歩一歩、力をこめる。


 そうして山を少しずつ、登って行った。

 時々、小川のそばで休憩を取ったりしながら、ログハウスを建てるに適した場所を探す。


 しかし、なかなか良い感じの場所に出くわさない。

 なにせログハウスだけが建つ広さでは不十分なのだ。


「今じゃ、鶏小屋や牛用の牧草地に加え、水田や小麦畑すら併設されてるからな……


 どれも小規模とはいえ、結構なスペースが必要だ。


 それなりの広場でないと、アイテムボックス空間から出すわけには」


 まだ昼過ぎと言った時間帯だが、どうしたものかな……



「勇者ちゃん、大丈夫?」


「だいじょぶー」


「エリサはどう?」


「わたくしも疲れました。勇者様、お姫様抱っこを希望します」



 それは無理!

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