第30話 元勇者パーティとの再会part5
「おーおー。良く効くもんだな。お前の【惑わしの秘香】」
「か、貸し1ですからね。こ、これ結構調合に貴重な草とかを使うんですから」
木陰から姿を現したのは、同じ三傑の一人、トリシュだった。
「き、聞いてますか!?
に、人間に効くように調合するのって、た、大変で」
「わーかったよ。覚えておくって」
「こんな面倒せずとも、俺の【威圧】で従えさせれば良かったものを」
のっそりと奥からさらに現れたのはボウマンだ。
「ばっか。一時的に恐怖で支配してもなあ。
完全にこっちの思う通りに動き続けられるかどうか、確信が持てねえ。
こういうのは報酬で釣るか、洗脳が手っ取り早いんだよ」
首をすくめたカールティックは、立ったまま寝ているようなグレーナたち三人に向き合った。
「いいか? お前らにこれからいくつかの任務を与える。しっかり聞け」
三人はふらふらと頭を上下させる。
「そして俺が指を鳴らしたら、お前らは目が覚める。
俺とのやり取りは忘れ、とにかく命令遂行を第一として動くんだ。
いいな。これからお前らは……」
▽
「……!?」
グレーナがはっと意識を取り戻した。
「な、なんだ? アタシ、道を歩きながら眠っていたのか?」
足元には自分の剣が落ちている。いつ落としたのか……
見回すと、他の二人も立ったまま虚ろな表情をしている。
「おい? お前らもか!?」
軽く揺さぶると、ナルバエスもリネットもはっと目を見開いた。
「一体何が……敵に攻撃でも受けたのか!?」
しかし皆を見た感じ、特にダメージなどを受けた様子もない。
直前の事を思い出そうと、グレーナは頭をひねるが何も思い出せなかった。
何があったんだ?何か大事な事があった気がする。
勇者のログハウスを出発して、王都に戻る途中の旅路……
「……そうだ。俺たちには任務があった」
「……勇者様のためにも。なんとしても、あの、聖杯と」
「……ドラゴンの死体から、クリスタルを」
三人は頷きあい、王都への街道を足を早めて突き進むのだった。
▽
その様子を離れた丘の上から確認したカールティック。
「よし」
と満足気につぶやいた。
「ばっちり、香は効いたようだ」
「あ、当たり前です。わ、わたしの調合なんですから」
やや鼻息を荒くするトリシュ。
「しかし、本当に聖杯は起動するんだろうな?」
ボウマンがまだ疑わし気に頭をかいた。
「俺にはどうにも、胡散臭い気がしてならんわ」
「うるせー。俺がどれだけ苦労してこの情報をつかんだと思ってるんだ」
ボウマンに対し、腕を広げて怒りを表現するカールティック。
「俺は戦争が始まってこのかた……
ありとあらゆる鳥類をいちいちとっ捕まえては、使い魔にしてなあ!
それらを人間領に放つ、っていう地味ぃぃな事をひたすら続けてきたんだ!」
その時ちょうど空を飛んでいた、白い鳥を見上げてカールティックは睨みつけた。
「そしてようやく、求める情報を掴んだんだ!
ただただ筋肉を鍛える日々を送るだけの、脳筋バカのてめっちに何がわかる!」
「ど、【同化】のスキルを軽く逆流させることによる、ち、鳥類の使い魔化。
確かに、疲れそう」
トリシュが暗い顔で分析した。
「そうとも!
自室で魔法と薬の研究ばかりやってる、引きこもり陰キャはまだ多少話が分かるってな」
「……」
「まあ、お前は目的のためには手段を選ばないが……
それは地道で遠回りな事でもやり通す、っていう勤勉さも含まれている。
分かったよ、この作戦が成功することを信じようじゃないか」
ボウマンが良いだろう、といった感じで両手を上げた。
(おそらく、人間に聖杯を起動させて膨大な魔力を発生。
その魔力を自ら取り込むつもりなのだろう)
(で、でも現状……
カールティックは【同化】による使い魔を、大量に使役している。
それで自身の魔力が減衰。わたしたちより弱くなっている。
そ、それなら、カールティックを出し抜くことは……)
((自分達にも可能だ))
ボウマンとトリシュはひそかに、お互い通じているわけではないが同じことを考えていた。
「……そうとも。万事うまくいくさ。万事な」
そんな二人の思惑を知ってか知らずか、カールティックは凶悪な笑みを浮かべて言った。
▽
「また、引っ越しの必要が出てきたわけだ」
グレーナたちがここを去った朝。
俺は起きてきたアシェリーとエリサに朝食を振る舞ったあと、二人の顔を見ながら切り出した。
「ええ? また?」
「……グレーナさまは、ここの場所を他言するような方には見えませんでしたが。
他のお二方がそうされると?」
エリサの言う通り、グレーナには問題ないが、他の二人は王都に戻ればこの場所を報告するだろう。
リネットがなにやら心神喪失状態だったが、それでもナルバエスは職務に忠実だ。
「それに、既に王にはバレただろう。
グレーナたちには、監視用の使い魔がひそかについていた」
「なんですって?」
グレーナたちが王都へと向かって、ここを発った時に判明した事だ。
彼女らの後を追うのが、その時かろうじて掴めたくらいに、気配を隠すのが巧みなやつだった。
「白い鳥だった。気づいた時には射程外だったので、逃してしまったが」
「鳥さん、撃ち落としたらかわいそうでしょ」
使い魔と言っても、普通の鳥を王宮魔術師が魔力を込めて、操れるようにしたものだからな。
鳥自体に罪はないので、俺もためらったのは確かだ。
「じゃあ、グレーナさんたちとは無関係に……」
「この場所に、大軍が送り込まれる可能性がある」
魔王とメイドが黙り込んだ。
「すまない、俺の事情に巻き込んだかたちだな」
「いいわ、森の時の引っ越しは、あたしたちのゴタゴタが原因だったし!
おあいこ!」
アシェリーがにっこり笑った。
そう言ってくれると助かる。
「じゃ、次はどこに行こう?」
「そうだなあ」
俺は腕を組んで考える。
森、海ときたら……
「やっぱ、山かな」
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