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第29話 元勇者パーティとの再会part4

 次の日。


 朝早く出発したグレーナ一行は、王都に向けて街道を歩いていた。

 結局、勇者を連れ戻すことは無理そうだという結論だ。


 グレーナはシルダーへの好意からで、残る二人は戦力的な意味で判断した。


「力……力が……」


 聖女の足取りは重く、うつろな表情で何やらブツブツとつぶやき続けている。


「朝起きてから、ずっとこの調子だな……」


「よっぽどショックだったようじゃないかね、勇者と魔王が……おっと」


 ナルバエスが口を閉ざす。


 うっかり刺激しようものなら、自分の頭もカチ割りに来るかも、と危惧したのだ。

 しかし聖女の耳には、今のところ何も入っていってない様子だ。


「……というか、力ってどういうことなのかね?」


「たぶん、魔王に対抗するために魔力が欲しい……ってとこなんだろ」


 グレーナが首をすくめた。



 ――人の力には限界がある。


 勇者だろうが魔王だろうが、人の限界を超えた性能の肉体を持っているわけではない。


 彼らが本来以上の力を発揮するのは、その膨大な魔力によるものである。

 魔力を使い、筋力を、集中力を、瞬発力を。

 一時的にブーストし、常人では成しえないことを成す。


 魔力量の大きさこそが、勇者や魔王の強さの源なのである。


 なので、どこにでも居るようなただの村人だったとしても。

 【魔王の心臓】のような、膨大な魔力を持つアイテムを自在に使いこなすことが出来れば……

 勇者なみの力を発揮することは出来るということになる――



「私の愛こそ正しき愛……邪なる愛を退けるため……力……私に力を……」


「つまり、どーにかして魔王を超える魔力を得て、魔王ぶっころ……


 って事を考えてるわけだよねこの聖女さまは」


(それも、人類のためではなく私的な動機で)


 やや呆れ顔のグレーナ。


「そんな都合のいいアイテムなんて、実在しないのにな。


 まあ、聖女もなかなかの魔力を持ってるんだけど。


 魔王には、まるで子ども扱いだったし……」


「【神の遺物】と言われるものは、たしかに教会に展示されてはいますがね。


 伝説では素晴らしい神の力を宿していたとされますが、今では……」


 そのとき突然――

 空から声が降って来た。


「力が、欲しいのか?」


 ばさばさと音をたて、三人の前に降り立ったのは……


「魔軍三傑、カールティック……!」


 グレーナとナルバエスが身構える。

 しかしカールティックは彼らに向かって手のひらを向け、


「おっと今日は戦いに来たんじゃねえ」


「なにぃ?」


 グレーナの剣を抜こうとした手が止まる。


「お前ら人類と、俺らの目的が一致してるって話さ」


「どういうことよ」


 カールティックはにやりと笑って見せた。


「つまりは。共闘しねえかってことだ」


「……意味わかんない」


 グレーナはまだ剣の柄から手を離さない。

 ナルバエスも用心深く、魔法の発動タイミングを計りながらカールティックを睨む。


「要するになあ、お前らは魔王アシェリーを倒したい。


 俺らもアシェリーの心臓が欲しい。

 

 そのための力を貸してやる、ってんだ」


 悪い話じゃねえだろ?といった具合にカールティックは両手を広げてみせた。

 グレーナとナルバエスは顔を見合わせる。


「……魔王は代替わりしたと聞くけど?」


「ち、なんだよ知ってるのかよ。大々的に発表したわけでもねえのに……」


 グレーナの回答に、カールティックはちょっと話が違ってきたなと首をひねった。


「それに、元、魔王アシェリーは人類の脅威になるとは思えない。


 この話はなしだね」


「お前ら……あいつらに会ってきたようだな」


 カールティックの目がギラリと光った。


 グレーナたちは勇者からこれまでの経緯は聞いている。

 カールティックを含む、魔軍三傑の面々がアシェリーを狙っていることも。


(あいつの大事な女を、やらせるかってんだ)


 グレーナの、剣の柄を握る手に力がこもった。


「……具体的には、どういう形で力を貸していただけるのですか?」


 その時、ずっと黙っていた聖女リネットがすっと前に出てきた。


「お?こっちの聖女さんとは交渉可能か?」


「ちょ、ちょっとリネット! お前、まさか……


 こんな奴らの手を借りるとか、言い出すんじゃないでしょうね!?」


(それも、あいつを自分のものにしたいっていう欲望のために!)


 狼狽するグレーナ。


 ナルバエスは用心深く状況の推移をうかがって、何も言わずにいた。

 リネットは病んだ目をカールティックに向け、なおも問う。


「あの魔王を超える力が、あるとでも言うのですか?」


「はは。そうさ。そんな力を、俺らは与えてやることが出来る」


 カールティックは断言した。

 グレーナがカールティックを睨みつける。


「嘘だねっ! そんなものがあったとして、なぜ自分達で使わないのよ」


「本当さ。そしてその力は、俺らには使えないからな」


 ナルバエスが息をのんだ。


「まさか……」


「神々の遺物。【無限の聖杯】。


 お前らが教会とかいうところに展示してる、あの古びたちんけな盃だ」


「しかしアレは今では、何の力も無く……」


「お前らが使い方を知らないだけだ。俺はそれを、知っているのさ。


 正しく使えば、アシェリーなんて目じゃねえ魔力を得られる」


 リネットの目が狂おしく輝いた。


「ほ、本当に……!?」


「お、おい! よせ!


 魔族が、人間にしか使えないアーティファクトの使用法を知ってるなんて!

 

 そんなわけ、ないじゃない!」


 グレーナがリネットを止めようと前に立ちはだかるが、聖女の目はらんらんと輝きを放っている。


「そ、それさえあれば、勇者様は……


 魔王などの誘惑から解き放たれ、わ、わたしの元へ……!」


 リネットはカールティックのほうへ、ゆっくりと歩み寄ろうとする。


 それを見たグレーナはリネットに当て身をくらわした。

 地面にくたっとくずおれるリネット。


「交渉はここまでだ……!」


「お、おい、グレーナ! 


 考えようによっちゃ、こちらに都合いい点もあるんじゃないかね!?」


「バカ! あんた神官戦士のくせして、魔族と手を組もうってのか?」


 うぐっ、と言葉に詰まるナルバエス。


 教会の教えは絶対である彼にとって、教会が敵とする魔族は倒すべき相手だ。


(だが、このまま王都へ帰っても、何の手柄にもならない。


 勇者を連れ帰れなかったという失態を……


 前魔王を倒すという偉業で塗りつぶせないだろうか?)


 彼の中で、功名心と、教会への忠誠とが一瞬火花を散らして戦った。

 が、結局は、忠誠が打ち勝った。


「くうっ! 教会の敵は……どうあろうと……


 倒すしか、ないじゃないかね!」


 ナルバエスも、カールティックに向けて攻撃の意思を示した。

 グレーナが、一瞬ニヤリと笑う。


「その頑なな心意気、今回はありがたいね」


「……やれやれ、結局こうなるのか。


 俺が大人しく平和的に話をしてるってのに……人間はやっぱり野蛮だぜ」


 カールティックはパチリと指を鳴らす。

 するとどこからともなく、怪しげな香りが風と共に運ばれてきた……


「!?」


 違和感に気づいた時には、既に遅かった。

 グレーナたちはその、香りを嗅いで数秒もしないうちに、目がとろんと虚ろになり……



 持っていた武器をその場に取り落とし、立ったまま動かなくなったのだった。

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