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第28話 元勇者パーティとの再会part3

「お、おじゃましまーす……」


 結局、圧に負けて魔王の部屋の前へとやって来た俺。


 とりあえずノックし、「どうぞ」と返事があったので静かにドアを開けて

 部屋に入ってみた。


 自分の寝室と同じつくりだけど、やや広い。なんか匂いが違うな……


 魔王はベッドに腰掛けて、にこにこしながら自分の横をとんとんと叩いている。

 ベッドは自分のと違って、キングサイズってやつだ。


「えーと」


 とんとん。


「ね、寝るだけなら床でも」


 とんとんとんとん。


「昔はよく硬い地面でも寝たもんなんだ」


 とんとんとんとんどんどんばすばすばす!


 魔王がなんか「むー!」とか言いながら微妙に涙目になってきたので、さすがに無視するわけにもいかず、隣に座った。


「よし」


 魔王が距離を詰めてきた。

 うーむ、まさか。こんな流れで?周囲には結構人が居るんだぞ?


「良かったね、勇者ちゃん。懐かしの人たちに会えて」


 あら、普通の会話から始まった。

 でもそれでちょっとホッとして、妙な緊張感もほぐれてきたな。


「そうだな……みんな元気そうで安心したよ。


 そして力づくでも王都に引っ張っていこうなんてしようとしなかった。


 俺の気持ちを汲んでくれて、良い奴らだよほんと」


「そうね……さすが勇者ちゃんの仲間ね」


 魔王は足をぶらぶらさせながら、


「それでね、ちょっと知りたいことがあるんだけど……」


「うん?」


「あの、そのー聖女って人の……」


 リネットのことか……


「すまなかった」


「え?」


「いきなり頭をカチ割ろうとしてきて」


「ううんそうじゃないの!


 勇者ちゃんとは一体、どんな間柄だったのかなあ、って」


 ああ、なるほど。

 そういうことがやりたくて、呼んだんじゃなかった、ちょっと変な方向に考えすぎてた自分が恥ずかしい。


「リネットは俺が勇者として未熟な頃……


 国教会がサポートとして、派遣してきたメンバーの一人だった」



 神官戦士ナルバエス、軽戦士グレーナ、聖女リネット。


 俺が最初で最後に、パーティを組んだ連中だ。

 頑ななナルバエスとは最後までソリが合わなかったが、グレーナは魔王もさっき見た通り、仲良くやっていけた。

 

 リネットは、最初はおどおどした気弱な聖女で、誰とも打ち解けようとはしなかった。

 ある時、彼女がダンジョンで毒を受けて倒れた時に……俺が一晩、寝ずの看護したんだ。


 そうしたら、いたく感動されてな。


 それから妙に、ベタベタしてくるというか、常に付きまとって来ると言うか。

 やたら気に入られたらしい。そして、やたらと俺を持ち上げるような発言を繰り返すようになった。



「それがちょっと重くて、苦手だった」


 苦笑する。


「そっか、そーだったんだ」


 魔王がほっとしたように笑った。


「勇者ちゃん、誰にでもやさしいもんね。


 それが災いして、自分でも重すぎるものを背負うようになったり……


 誰かがのしかかってきたり。ちゃんとした支えが、必要だわ」 


 魔王が俺の肩に、頭を乗せてきた。


「のしかかって来てるじゃん……」


「もう!」


「はは、冗談だよ」


 肩を抱いて引き寄せた。

 

「支え、すごく頼もしいよ」


「ならよかった」


「……そろそろ、寝ようか」

 

 二人並んで、ベッドに横になる。


「……こっちのベッドは広いなあ」


「エリサが、クイーンサイズで作ってくれたの」


「……」


「……」


 やや気まずい空気が流れる。

 状況が状況だし、流れで『そういう』雰囲気になることも、出来たとは思うが。


「……外の気配が、どうにもなあ」


「気になるよね……」


 明らかに、この部屋の様子を探っている。

 敵とかではなく、明らかに身近な人物が。


「もういいや、おやすみ!」


「えー? おやすみ……」


 ならん。ならんぞ、外の奴の思い通りには!

 そう思って、意地になって俺は寝ようと、アシェリーに背を向けて目をつむった。


「むー……」


 なにやら不満げなうなり声が後ろから聞こえてくるが、知らん知らん!


 ぐー。フェイク寝息を立てる。外の奴らもあきらめろ。

 ……とかやってたら、背中にぐっと、温かいものがくっついてきた。


「これくらい、いいでしょう?」


「……どうぞ」


 アシェリーの体温を直に感じながら、こりゃしばらく寝れないかもなあ、とか思う俺だった。



 ▽



「……今夜はこれ以上、なにもなさそうですね」


 コテージの外。

 魔王の部屋の窓近くに、体を寄せていたエリサが残念そうにため息をついた。


「んー、だからこういうのはやっぱ良くないって」


 グレーナが頭をふって、立ち上がった。

 二人はそこを離れ、玄関の方へ向かった。


「『勇者様の面白いものが見れるかもしれません』とか言われてさ。

 

 何事かと思って来てみたが……


 ダメですよ、こういうのは。エリサさん……だっけ」


 やや、まだぎこちない態度で、グレーナが頭をかきながらエリサに言った。


「興味はございませんでしたか?」


「い、いやその……そりゃ、ちょっとキチンと出来るか……心配ってのはある」


「出来るって何をですか?」


「何ってその……言わせるかフツー!」


 グレーナが叫びかけ、慌てて両手を口に当てる。

 玄関まで戻ると、


「じゃあグレーナさま、お休みなさいませ」


 エリサが音をたてないように扉を開けた。

 グレーナが玄関口をくぐりながら、 


「あんた、魔族なのに妙な……面白いやつだな」


 とエリサに笑いかけた。 


「そうでしょうか? そんなこと言われた経験は全くありませんね」


 しれっと答えるエリサ。


「いや、魔族にも色々居るんだということが分かった。


 魔王とも、決して相いれない存在ではないと」


 改めて、エリサの目を見ながらグレーナが言った。


「そもそも、この戦争を仕掛けたのは魔王様ではございませんし」


「ああ、聞いたよ。アタシたちは、明日王都に帰るけど……


 戦争を止められるかどうかは、正直分からない。


 でも、アタシたちにも何か出来ることをやろうと思ってる。


 あんたたちは 引き続き、ゆっくり今の生活を続けてくれ」


「……元よりそのつもりでございます。では、おやすみなさいませ」


 グレーナはシルダーの部屋に戻り、ベッドに横になった。

 すぐには眠らず、今後のことに考えを巡らせる。


「アタシたち元勇者パーティ総がかりでも、勇者とでは実力に差があり過ぎる。


 逃げられたってことにしても、不自然な報告にはならないよね……」


 ぼそぼそと、小さく独り言をつぶやきながら、考えをまとめていく。


「あいつの言う通り、現状維持が良いのかもしれない。


 現魔王軍は内乱寸前、人類軍は勇者を欠いて大幅戦力不足。


 戦争が無い状態を平和というなら、今がそうだもんね。


 これが続けば、国内の厭戦派も増えていくかも」



(だが、現魔王軍が態勢を立て直してしまったら……)



 グレーナは窓の外の星空を見上げる。

 流れ星が一筋、きらめいた。



「願わくば、あいつの平穏が永遠に乱されませんように」

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