第27話 元勇者パーティとの再会part2
海沿いの、ログハウス内。
ざざーんと波は変わらず寄せてはかえし、海の上に夜光羽虫が光りながら飛んでいるのが、窓から見える。
「な、なるほど……」
俺が王都を脱出してから、どうしてこうなったのか。
皆にあれこれ説明しているうち、とっぷり日も暮れて。
説明が終わって、グレーナがようやく一言発したところだ。
なかなかに衝撃的だったようだ。
「リネットの様子はどう?」
エリサさんに聞くと、まだ白目を剥いたまま起きる気配もない、ということだった。
まあ、一晩も経てば回復するだろう……
ちなみにリネットとナルバエスは、ログハウス内ではなく外でテントを張って、そこで休んでいる。
魔王が居る家なんぞに、入れるはずないだろう!とナルバエスが拒否したからだ。
グレーナは魔王と聞いて最初はビビったが、俺と一緒に住んでるという話でかろうじて納得。
おっかなびっくりではあったが、家に入ってくれた。
そしてここに至るまでの長い話を聞いて……ようやく一言、というわけだ。
「なるほど」
グレーナはもう一度繰り返した。
そしてふーっと長いため息をつく。
「この魔王さんは平和主義。
いま人間と戦っているのはクーデター組。
しかしそれも亜人軍が壊滅したので当分、平和は続く……
と、いうことね……」
机に肘をつき、手を組んで用心深く魔王を見やりながら、グレーナがつぶやいた。
「信じるか?この話を……魔王を」
「勇者のアンタが信じてるなら、アタシも信じるよ」
「よかった」
アシェリーがほっとしたような笑顔になる。
「しかし……ほんとに女と一緒とは、リネットの勘の的中率も大したもんだわ」
「リネットが、そんな事言ってたのか?」
「邪悪な女2人が、とか言ってたな。
邪悪ってのはあいつの価値観によるもんだ。気にしないでもらえれば」
邪悪ね……
やや、当てはまってる人物がいるな?とエリサさんをちらりと見たら、「ほう」と小さく言ったのが聞こえた。
そして、俺の後ろに回り込みながら、「ほうほう。ほう」と繰り返す。
「か、軽い冗談だって」
「いえ? 勇者様は何も言われてませんし、わたくしも気にしておりません?」
こりゃ、後で何か言われるかされるかだな……
「ふうん? 仲良さそうだな」
グレーナがやや誤解した事を言った。
しかし、とりあえず俺に続いて、魔族や魔王に持つイメージが変わった人間がまた1人、増えた。
「アタシたちの任務は勇者を探し、なんとしても連れ帰れということだったけど……」
「ナルバエスも言ってたな」
「その任務は達成できそうにないね。
元々アタシは探しはしても、連れ帰るつもりはなかったけどさ」
「そう言ってくれると思った」
グッ、とこぶしを打ち合わせる俺とグレーナ。
「まあ、そういうわけなんで。
現状、非公式に魔王と勇者の間で停戦条約が結ばれたようなものなんだ。
このことを、国に帰って上の連中に報告してもらえれば……
ありがたいんだが」
グレーナに向かって言うと、
「うーん……どうだろうねえ……」
「まあ、こんなことを報告して、連中が納得するかどうかだよな」
「今、勇者不在に対して、国民の6割が不安を感じ、3割が勇者に対して同情的。
1割が勇者の管理責任を問うため、国教会に突撃している」
3割もあたたかい人々が居るってのはありがたいね。
国民を不安にさせている責任は、少しは感じるけども。
今は、魔族も人類も、お互いに戦いを仕掛けられるような状況にはなってないんだ。
それを知ってもらえば、その不安は解消するんじゃないか、と俺は思っている。
「上の考えもこんなんだからな。ざっくり要約して言うと、
『今ならまだ間に合う。早く心を改めて、勇者として本来の務めを果たしなさい』
だからねえ」
呆れたように言うグレーナ。
「人を良いように、こき使ってる自覚もなさそうだ」
「まさにブラック国王だよ」
俺も肩をすくめ、大きくあくびをした。
「ひっどい国王だわ。
勇者ちゃんの体をいたわるってことを知らないのかしら」
魔王もご立腹ぎみだ。
ふと気づくと、そろそろ深夜という時間帯。
そりゃあくびも出ようってもんだ。
「じゃあそろそろ寝るか、つってもグレーナの分の部屋はどうしようか……」
「グレーナさんには、勇者様の部屋を使ってもらえば良いかと存じます」
と、唐突にエリサさんが提案する。
「おっ、良いのかい?」
「いや俺はなにも」
「なかなか良さそうなログハウスだったからね!
ちょっと泊まってみたいなあ、とは思ってたんだ!」
グレーナがそう嬉しそうに話すのを聞くと、俺もうなずくしかないな。
「……まあ、まだ大して物も置いてないし。好きに使ってくれ」
「やったね」
「こちらでございます」
エリサさんがグレーナを部屋まで案内し、たと思ったら足早に戻って来た。
? なんでそんな慌ただしいんだ?
「うーん、じゃ俺はマット敷いて床にでも寝るか」
「部屋はありますよ?」
エリサさん、そんな余ってる部屋なんてあったっけ?
俺が首をかしげると、エリサさんは黙って魔王を指さした。
顔を向けると、魔王が顔を赤らめもじもじしており、エリサさんが例の微ニヤリな表情を浮かべている。
「ではわたくしは自分の寝室へ戻らせていただきます。
お二方はどうぞ、ごゆっくり……」
エリサさんの寝室にはエリサさんが寝る。
アシェリーの寝室にはアシェリーが。
「……」
ええと。
「うん、俺は床で寝るよ……」
「絶対ダメです絶対」
なんでエリサさんそんな強く否定するの!?
「んじゃ久々に外で寝袋、」
玄関口に向かおうとしたが、エリサさんがその前にさっと陣取ってしまい、冷たく睨んできた。
こ、こういう時のエリサさんは本当に素早い……!!
グレーナを俺の部屋で寝かせたのも、彼女を部屋に案内して素早く戻ってきたのも、これのためか!
さっきの軽い冗談が、こんな形で戻って来るとは!
「……エリサさん、早く寝室に?」
「お二方がご一緒に寝室に行かれてから、まいります。
屋内の施錠もしなければなりませんので」
施錠って、ここの玄関しかないような気がしますけども!?
「じゃ、じゃああたし、寝室に戻ってるから!」
上気した顔のアシェリーが、なんかふわふわした足取りで自室へと向かっていった。
「さあ」
「え……」
「さあさあ」
エリサさんの圧が迫る。
ま、マジでーーーーーー!?
お読みいただきありがとうございます!
下のほうにある☆☆☆☆☆への評価・ブックマークなどを頂ければ
大変な励みになりますので、応援よろしくお願いいたします!




