第26話 元勇者パーティとの再会part1
「何者かが三人。近づいて来ています」
エリサが食べる手を止め、小声で言った。
俺も魔王も、同時にその存在を感知していた。
さく、さくと砂を踏んで用心深く近づいてくる……
外のリルルもひゃんひゃん鳴き始めた。
「【人払い】の結界は張ってあったのに、それを突破してくるとは」
「【探知妨害】の効果も上乗せしてある結界だし……
あたしを探してる三傑の子たちじゃない、と思うけど」
「今度は俺のお客さんかな?」
当然、王都から俺を探して連れ戻すための捜索部隊が、各地に派遣されてるだろう。
それは想定内ではあった。
そのための人払いの結界でもあったが……
それをあっさり抜けてくるくらいの実力者と言えば、そうそう名前を挙げるのは難しい……いや。
「……あいつらだ」
「え?」
「もしかして元、パーティの?」
エリサさん鋭い。
外の足音は玄関前で止まった。
ぼそぼそ……と漏れ聞こえてくる声。
それを聞いて確信した。なので、ノックされる前にバーンと扉をあけ放ってやった。
「ごめんくださうわ!!」
後ろにのけぞった軽戦士のその顔、その身長、間違いない。
「グレーナ! やっぱりな! 何年ぶりだ?」
「し、シルダー!? お、お前! 大丈夫だったか? 生きているな?
風邪とか引いてないか? 美味いもん食ってるか?」
相変わらずのオカン気質を発揮しだしたのを見て苦笑するが、手を広げ、笑って答えた。
「見ての通りだよ」
「おお、見た感じは変わり無さそう!」
「お前も相変わらずだな!」
と、帽子越しに頭をがしがし撫でてやる。
「それはやーめーろ! 子供じゃない!」
「おっと、事案事案」
「アタシは成人だ!」
グレーナはドワーフの血が入っているらしく、成人しても子供のような小柄だ。
つい、その点をいじるとグレーナは怒ったそぶりは見せるが、わりとよくあるやり取りの一つになっている。
「いやー懐かしいな。ほんとにまた会えるとは、思ってもみなかった」
「アタシもさ。心配したぞ! 絶対、体を壊す働き方してたからなお前!」
過酷な勇者業を続ける中で、唯一の友人と言えるのがグレーナ。
パーティを解散させられてからは、全く会う機会が失われてしまったが……
こんな形で再会するとは。
そこへ、グレーナをぐいっと押しのけ、神官の男が割り込んでくる。
「……ナルバエスか」
「再会の喜びはそこまでにしてもらうがね。シルダー、貴様を拘束する」
「それが、王の意思か」
まあそうだろうな。
意地でも俺を連れ戻したいと。
そして、以前のように馬車馬みたく働かせたい意思は、まるで変わってなさそうだ。
ナルバエスも、相変わらず。
王と国教会に対しては忠実である以外ありえない、という頑なさ加減。
「まったく。王の命に背き、逃亡するとは勇者にあるまじき所業ではないかね。
恥の概念というものがないのかね?」
こういう口調も、相変わらずか。
それすら、妙な懐かしさがある。
当時の俺は割とイライラさせられたが……今は、余裕があるからか、そういうふうに思えたのだった。
「それでお前らにも、捜索命令が出たわけか。
そして発見し次第、連れ戻せと」
「そうだ。王都に戻れば相当の厳しい処置がぐほおおお!?」
会話の途中で、ナルバエスが横方向へ吹っ飛んでいった。
「あ……ああ!! 勇者様!! おかわり無さそうで!」
目に涙をため、顔を真っ赤にした聖女。
「リネットも、居たか……」
ナルバエスを両手で突き飛ばしたようだ。
吹っ飛ばされたやつは、横腹を抑えて悶絶している。あれはもう双掌打だな。
しかし、リネット。前のパーティでやや苦手としていた女性……
「げ、元気そうでなによりだ」
「勇者様も! ああ! わたくし、わたくし……!」
と感極まった様子で腕を広げ、こちらに飛び掛かり……いや抱き着こうと?したところ。
「ほんとに勇者ちゃんのお客様だったのねー」
ひょこっと、魔王が玄関口から顔を出した。
それを見た聖女の動きがビタリと止まる。
ピシャーンとどこかで雷が落ちたような音が聞こえた(気がした)。
顔を青ざめさせ、体をガクガク震わせながら、恐る恐るといった様子でリネットが問う。
「ゆ、勇者さま。そ、そのか、その方はいいいいい一体……」
「ああ、彼女はアシェリー……今、一緒に住んでる、まお」
「そうか! ようやくお前にも!
そういう存在が出来たのか、これはめでたいな!!」
グレーナーが心底喜ばしい、といった様子で拍手をした。食い気味で。
だがリネットの顔には影が差し……どす黒いオーラが立ち昇りはじめた。
俺の後ろで、エリサさんが「あちゃー」と言う声が聞こえた。
ええと、何か、やらかした……?
リネットの頭部から、血管が一本切れたような音が鳴った(気がした)。
「こ……この、ド汚い泥棒猫があああああああああああああ!!!」
聖女が聖女らしからぬ言葉を吐き、いきなり魔王に吶喊!!
「悪女滅すべし! 天・誅!!」
錫杖を振り上げ、アシェリーの頭に叩きつけようとする……!
が、魔王はため息をついて軽く手を掲げる。
一瞬、魔法陣のようなものが空中に展開するのが見えた。
するとリネットの体は、弾かれたように後方に吹っ飛んだ。
ずざーっ砂地を滑っていく。
「んきゃあー!?」
「お、おい」
「勇者ちゃん、大丈夫。みねうちよ」
「防御結界にそんなんあるっけ……」
良く分からんけど、リネットはすでに体を起こしている。
大事は無いみたいだが。
「いきなり人の頭をカチ割ろうとか。
勇者ちゃんの知り合いでも、それはちょっと失礼じゃないかしら?」
アシュリーが外に出て、後ろ手に髪をなびかせる。
赤毛の長い髪がふわっと広がり、室内の光を後ろから受けてきらきらと光った。
「!?」
グレーナがようやく気付いたようだ。
「こ、この人、ま、魔族じゃないか!!」
おしい。75点。
「そ、それも!魔族の、王たる……魔王、アシェリーじゃないかね!」
なんとか起き上がったナルバエスが、震える声で正解した。
「な……なんですって……」
リネットの顔に絶望が広がる。
そしてアシェリーは高らかに宣言した。
「そうです。あたしが魔王、いや元? 魔王のアシェリーです。よろしくね。
勇者ちゃんの仲間たち。そしてようこそ、あたしたちの愛の巣へ!」
リネットが前のめりにばったり倒れた。
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