第23話 海のスローライフpart5
申し訳ありませんが、ストックが尽きたのと、個人の都合などにより二週間ほど書き溜め期間に入ります。
ラストの展開とエンディングはもうざっくりとですが書いてあり、後はそれに繋がる山のスローライフ編を書くだけですので、ほぼ完結保証となっております。気長に待っていたければ幸いです
★連載再開しました。この前書きはこの話の更新当時のものです
「また置いてあるわ」
朝に届く、謎の高級海産物入り宝箱。
その後も連続で出現。今日で3品目だ。
2日目はアワロニという高級貝。
3日目はタラバキングという高級蟹。
なんなんだ……この日替わりグルメギフト(海産物限定)。
最高だけど、ちょっと怖い。目的が分からん。
「これは、届けられる現場を押さえたいな」
「美味しかったって、直接本人に言いたいしね」
やや魔王はズレているが、ともかく犯人?は特定したい。ついでに目的も吐かせたい。
よって、深夜から張り込みをすることにした。自宅の。
「よし! 今夜は徹夜ね! がんばろ!」
アシェリーも気合十分だ。夜に備えて、水泳教室は今日はお休みだな。
▽
「すやぁー……」
日付が変わったころ、魔王はあっさりと陥落。
俺にもたれかかって寝息を立てている。
「……魔王様はベッドに運んでおきます」
「よろしく……」
エリサさんがアシェリーを抱えてログハウスに向かった。
俺たちは海産物贈呈の現場を押さえるべく、少し離れた場所の岩陰からログハウス玄関を見張っていたのだが……
気合十分だった見張り員の1人が、早々に失われてしまった。
なんてことだ。
「敵もさるものだな……」
「誰も何もやってませんけどね」
戻ってきたエリサさんの突っ込み。ありがとう。
これからは2人態勢だ。
ざざーん。
聞こえるのは静かな波の音だけ。
「にしても何の変化も見られないな……」
「……いえ。何か、静かすぎる気がしませんか」
「……!」
エリサさんの言葉に、緩みかけた気を引き締め、周囲を油断なく警戒する……
……
「……変わりなく思えるけど」
「まあ、そうですね。適当な事を言ってみただけです」
ちくしょー!!
そして。
夜明けまで3時間くらい、という頃。
ついに『やつ』が来た。我々が諦めかけたその時……!ってやつだ。
海から黒い人影が立ち上がり、砂浜を音もたてずログハウスへと近づいていく。
手には、大きな箱のようなものを抱えている……
間違いない。
「犯人はあなたですね!!!」
「きゃー!?」
いきなり岩陰から躍り出て、黒いシルエットの人物に指をびしっとさしてみた。
すると犯人は箱を取り落とし、悲鳴を上げてその場に座り込んでしまった。
あ、あれ?びっくりさせすぎた?
「幻光」
照明魔法を使って、照らしてみる。
そこに居たのは、黒タイツ男、ではなく。
見目麗しい女の人魚…セイレーンだった。
▽
「すいません。最初から説明をしておくべきでしたね……」
セイレーンの女性は、テレースと名乗った。
腰から下は例によって魚のものなのだが、それを器用に使って砂地に立っている。
さっきも歩いてたしな。滑ると言った方が近いか。
胸は貝殻で隠されている。……なんか、スゴイデカイ。
「つまりあの宝箱は、シーサーペント討伐のお礼、だったのね」
テレースによると。
海の底の国で、平和に暮らしていたセイレーンたち。
しかし数年前……シーサーペントが急に現れ、ここら一帯を縄張りとした。
セイレーンすらも時おり餌とするため、長らく怯え続ける生活だったという。
戦うには強大すぎる相手……
しかしセイレーンたちは、ここから離れる事は出来なかった。
「私どもは、この近海特有のサンゴが作り出す環境でしか、生きられないのです」
「なるほど……逃げたくても逃げられなかったわけか」
そんな時、たまたまやってきた俺が、シーサーペントを退治してしまったというわけだ。
「おかげ様で、セイ連邦に平和が戻りました。
民は皆あなた様に感謝しており……
大恩に報いると言うにはあまりにもささやかではありますが。
毎朝、贈り物を届けることにしたのです」
セイ連邦。
それがセイレーンの国の名前か、なんかシャレじみた名前だが……ここは突っ込まないでおこう。
しかし、この海の底にセイレーンの国があったなんて。
全く知らなかったな。
「あまりにも違いすぎる種族の交流は、争いの元ですからね……
私たちは陸の方々には一切知られないよう、静かに暮らしているのです。
なので……」
「分かってる。誰にも言わないよ、あなた方の事」
エリサさんも頷く。アシェリーには報告するだろうが、彼女なら大丈夫だな。
「助かります。重ねて感謝、申し上げます」
テレースはぺこりと頭を下げた。
「贈答品には、問題ありませんでしょうか……
人間の口には、合わないとか……」
「いやいや全然! すごく美味しく頂いてますよ!」
「なら良かったです」
ほっとした表情のテレース。
「今回の件、何か不満あってのことかと思い……
その時はこの身を勇者様に捧げることも……考えておりました」
え!?
セイレーンを食べようとか思わないって!
「いや、そういう意味ではないかと」
エリサさんが微ニヤリの表情だ。まさか。
「民を救った大英雄のあなた様になら、私の……」
とか言って、テレースは胸の貝殻に手をやった。
そして貝殻を取り外し……って待った待った!!
「大丈夫! 毎回おさかな美味しいです!
これからもよろしくお願いします!」
「そ、そうですか?しょぼん」
何でちょっと残念そうなの!?
「あ、でも。ちょっと欲しいものがあるんだけど」
「なんなりと!」
なんか食い気味のテレース。
「セイレーンの世界に、良い肥料ってないかな?」
「……肥料ですか。はあ、ありますが」
テレースさん、意外な事を聞いたという感じでややぽかんとしている。
「今度、小麦とか農作物を育ててみようと思ってね。
セイレーンの国に質のいい肥料があるなら、提供してくれるとありがたいなって」
「それなら……明日から海産物と一緒に、お届けにあがりましょう」
「助かる!」
これで肥料問題は解決しそうだ。
ということで。
何故かやや残念そうな顔のテレースを、海へと送り出し……今回の件は全面解決とあいなった。
「とりあえず、何かの罠とかじゃなくて良かった」
うーんと伸びをする。
空が明るみ始めていた。もう朝か……貫徹しちゃったな。
「結局、原因は勇者様にあったのですね。人騒がせな」
「……エリサさんは今後、贈答品の恩恵を受けられません」
「ごめんなさい冗談です」
エリサさんが即答するくらい、あの海産物は魅力的なようだ。
「しかし、良かったのですか? テレースを美味しく頂かなくて」
「そこまで見境なくないです!」
「どうやって成立させるのか、興味あったのですが」
「知らないよ……」
とりあえず眠い。
朝ごはんを食べたら、仮眠しよう。
……今日の水泳教室は、午後からだな。
▽
そして水泳教室の時間。
アシェリーの水着が何故か貝殻になっていた。
「こ、こういうのが趣味、と聞いて……」
はみ出かねない危ない貝殻水着に、顔を真っ赤にした魔王がもじもじとつぶやいた。
……エリサさん、いったい何を言ったんだァー!?
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