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第22話 海のスローライフpart4

 ざざーん。

 

 波の打ち寄せる音が、建物の外から聞こえてくる。


 そしてコケコッコー。


 ぱちりと目を覚ました俺は、ゆっくりと起き上がって窓の外を見やる。

 まぶしい光に思わず目を細めた。


 白い砂浜と、青い海、空が広がっていた。


「そうだった。森から海へ引っ越したんだった」


 緑から、青の風景へ。

 海でのスローライフ開始、2日目。


 今日もいい天気だ。



「おはよう! 勇者ちゃん」


 何となくの気まずさは寝て忘れてしまったように、元気なアシェリーに戻っていた。

 良かった。俺も忘れよう。


 だが目に焼き付いたあの光景は、とにかく頑張って意識から追いやるしかないな!



 軽い朝食を取ったのち。


 ログハウスの玄関扉を開け、外に出ると……

 目の前に、宝箱が置いてあった。


 それも、かなりデカい。人が入れそうな。


「……!?」


 あまりの唐突さ加減に、一瞬思考が止まる。


 何故こんなところに?


「なんかの罠か……!?」


 周囲を見渡してみるが、相変わらず人影は見えない。


 ここに居るのは俺たちだけだ。

 そもそも人払いの結界が張られているから、そうそう誰か近づくこともないはず。


 その結界内に無理やり入ってくる奴が居るなら、だいたいはこちらに悪意あるものだろう。


「そんな奴が、この家に侵入するでもなく。宝箱を置いていった……?」


 お宝。財宝。伝説のアイテム。

 そういうものが入っている、トレジャーボックス。


 ダンジョンを突破した先にあったりする、ご褒美のようなありがたい箱。


 そんなものがなぜ、ここにある?

 理解不能。


「しかし、開けるべきか止めるべきか」


 罠解除などの、危険宝箱取り扱い技能は取得済みだが……

 爆発系の罠の場合に備えて、遠くに運んでからにするか?


「あら勇者ちゃん。固まってどうしたの?……なにそれ?」


「宝箱ですね。見た感じ、綺麗な色のサンゴを組み合わせて作ったような」


 アシェリーたちがやってきた。


「開けてみましょ!」


「魔王様。ミミックだったり、罠が仕掛けられている可能性が」


「大丈夫よ。【鑑定】したところ、中身は新鮮な魚と出たわ」


 なにそれ!?


 止める間もなく、アシェリーががぱっと宝箱を空けた。

 ……確かに、中身は魚だった。周囲を氷で埋められている。


 つか、鑑定してもらえばよかったのか……


「ちゃんとおねーさんに頼るように」


 にぱっと笑いかけるアシェリー。

 確かに。どうも俺は、1人でどうにかしようと思う癖が染みついているのかもしれないな。


「次からはそうするよ」


「ふふふ」


「しかし、本当にただの魚ですね。誰かからこのような贈答品を貰う心当たりは?」


 首を振る俺たち。

 と、ここで俺は気づいた。


「つか、ただの魚じゃないぞ!? これ、クラマグラっていう高級魚だ!」


「高級魚?」


「ああ、キロあたり数十万ゴレムはする、超高級魚だよ!」


 首をかしげる魔族2人。

 しまった、人間界の通貨単位は意味をなさないか。


「海のオリハルコンとか呼ばれたりもするが」


「え!? めちゃくちゃ貴重なんじゃない!? すっごーい!」


 伝説の金属の例えを出したら、通じた。


「そんな超高級魚を、宝箱に入れて家の前に置いておく……一体誰の仕業でしょう」


「毒物が混ざってる可能性は?」


「ないわ。もう一度【鑑定】したけど一切、そういった悪意が感じられる要素はゼロ」


 うーむ。

 ますます謎だ。


「これは?」


 と、エリサさんが宝箱の隅にあったツボを取り出す。


「なんか、調味料が入ってる。ショーユ―だって。【鑑定】の結果」


「聞いたことありませんね」


「し、ショーユ―ですとお!?」


 つい大声を出してしまった。

 魚料理に必須な、東方のありがたい調味料じゃないか!!


「な、なに? これも貴重品?」


「いやいや! 


 魚を食べる時には、もうこれが無きゃ始まらないってくらいの……


 ベストマッチ調味料だよ!」



 その後ショーユ―の有難みについて熱弁を振るったが、やや引かれてしまった。

 これは絶対クラマグラを料理して、分からせてやらないとな!


 てことで解体開始。


 【鑑定】結果が問題なしなら、ありがたく頂こうじゃないか!

 後で誰かが文句や難癖をつけて来ても、知らん!



 板の上に寝かせ、頭と尾を切り落とし、本体を三枚におろしていく。

 それらをさらに二つに割って、輪切りに。

 ブロック状になったものを、薄く短冊の形にそいで、それを一口サイズのものに切り分ける。


 クラマグラの刺身の完成!



「それを、ショーユ―につけて食ってみ」


 生で!?こんな真っ赤な、舌みたいなのを!?

 とかいう顔をする2人だったが、おそるおそる言う通りにすると……


「……んー!? お、おいしーい!!」


「これは。素晴らしい……」


 そうでしょうそうでしょう。

 俺も一切れ口に入れる。んまい!!


「何これ最高! 美味しすぎなんですけど!!


 誰!? こんな美味しい魚を置いてってくれたのは!?」


 それが全くの謎だ。


 罠でもなく、本当にただの美味しい魚。

 宝箱自体も、こだわりの逸品に思える。


 ログハウスのインテリアにはちょっと派手だけど。


「しかし、当分クラマグラづくしの料理が食べれそうだなあ。


 腕の振るいがいがある」


「うわー楽しみ! 誰だか知らないけどありがとねー!」


 と海へ向かって叫ぶアシェリー。


「さて、これを朝食として……今日も水泳教室だな」


「えー。だいぶ上達したし、お休みしたーい。クラマグラの日にしたーい」


 なんだクラマグラの日って。一日中食べるつもりか。


「運動して、お腹がすいた時のクラマグラ料理、より美味しく頂けると思うんだが」


「やります」


 即答。

 そして俺たちは、また日が落ちるまで水泳教室に励んだのだった。



 夜は、表面を弱火で軽く焼いたマグロのステーキにした。

 当然大好評でした。



 そして次の日の朝。


 また、宝箱は出現した……



 なんなの、これ!?

お読みいただきありがとうございます!


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