第21話 海のスローライフpart3 聖女の勘
魔王が寝てるチェアの方に目をやると、魔王はうつ伏せで寝ているようだ。
リルルが背中の紐をいじって遊んでるうちに、ほどけてしまったっぽい。
やばい。これはやばい。
海辺に一人、女性のビキニの上を持ったまま立ち尽くすオッサンという画もやばい。
リルルに元のところに戻すよう言ってみようかと思ったが、もう既にどこかへ走り去ってしまった後だった。
「はくじょうものー……」
こっそり近づいて、着け直してみるか?
いや魔王に気づかれずにそんな事が出来るわけがない。
頭の横にでもそっと置いて、この場を去るか?
近づいた時点で目を覚まされるかもしれない。
エリサさんが戻ってくるまで待つか。
彼女に頼めば……いやビキニの上を持ってる俺を見て誤解されても困る。
「んー」
声が聞こえたので振り向けば、魔王は仰向けになっていた。
「あわわわ」
遠目でも、二つの山が呼吸に合わせて上下しているのが分かる、細かいところまでは見えないけど!
「こ、こうなれば」
風魔法発動。
風の流れを操って、ビキニの上を上手く運んで静かにあそこに乗せよう……
自分の手の動きに合わせて、ふわふわと空中を漂うビキニ。
遠目ではあるが、なんとか二つの山の上空にビキニを持って行き、場所と方向を合わせ……静かに下ろす!
「ナイスオン!」
上手いこと水着を良い感じにかぶせる事が出来た。
「とりあえず、水着をこの手に持ったまま誤解されるという最悪は回避できたか……」
「つまらないオチですね」
「エリサさん、最初から居たでしょ……」
風魔法を使ってる時に、後ろからやってきたのはエリサさんだった。
たぶん、この状況を作り出したのも彼女なんだろう。
「リルルを仕込んだ手間というものを、考えていただきたいですね」
「その手腕だけはすごいと思います」
「とりあえず、真水を確保できる場所は見つけておきました。
そこで体を洗って来てください。魔王様はわたくしにお任せを」
「お、水場はこれで大丈夫ってことか、お疲れ様。助かるよ」
ちゃんとやるべきことはやってくれてるんだけどなあ……
エリサさんにその場所を教えてもらい、さっそく向かう。
案外近い所に綺麗な水が流れる川があった。
そこで体を洗ってさっぱりしていると、
「おつかれー。なんかたくさん魚採ったんだって?」
と魔王がやってきたので、振り向くと、
「うわーーー!!?」
水着の上を付けていなかった。
エリサさん、改めて外した上に、魔王が起きたあと教えなかったなー!?
「? どうしたの?」
「こ、これで失礼しまっす! 水着! うえ!」
などと言って魔王の横をささっと駆け抜ける。
「水着? ……!??!!?」
顔を真っ赤にした魔王の叫び声を背中で聞きながら、コテージまで走り。
玄関の扉を開けて、後ろ手に閉めた。
ぜーはーと肩で息をしているところに、エリサさんがやって来て言った。
「魔王様のお胸はいかがでしたか? 評価をお聞かせください!」
あ、あんたなあ……!!
星5つだけど、いやそういう問題じゃないけど、ああもうこの人にはやたら振り回されてるな俺!!
夕飯は、今日の漁の成果を食卓に出したけど。
アシェリーと何となく気まずくなってしまって、早々にそれぞれ個室に戻ってしまった。
エリサさんも、いつもの無表情ではあったけど……さすがにちょっと反省の色を感じられた。
▽
元勇者パーティのグレーナたちに、勇者捜索の命が下って数日。
城下町で旅の支度を整え、ようやく城門を出て捜索の第一歩を踏み出したところであった。
見上げると、青い空がどこまでも広がっていた。
この空の下のどこかに、勇者が一人でいることを思うと、グレーナーは心配のあまり
青空すら曇天にしか見えなくなってくるのだった。
そんなグレーナの気がかりをよそに、聖女リネットは二人を無視するかのようにすたすたと、迷いなく先を歩いている。
「……つか、どこへ向かってんの?」
グレーナが先を行くリネットに問いかける。
「国の捜索隊が領土をくまなく探してるけど、未だに発見の報告はないし。
アイツの故郷も、ほとんど荒らされるみたいに調査の手が入ったそうね……
でも手掛かりはゼロ」
リネットの足は、北東へと向かう街道を迷いなく選んだように見えた。
その先はいくつかの街と……何があったっけ、とグレーナは首を傾げる。
「リネット?」
再度グレーナが声をかけると、リネットは振り返りもせずに答えた。
「海です」
「……海ぃ? なんで?」
「あの方の呼ぶ声が聞こえるのです。はやく。来てくれ。
愛するリネット。と」
また始まったと言った顔のナルバエス。ため息のグレーナ。
「おいおい……そんな曖昧な根拠で、我々は歩かされてるのかね?」
「心配ありません。確実にあの方は海にいます。あたしには分かるのです」
断言するリネット。
「でも、確かに聖女の勘の的中率はなかなかだったじゃない。
特にアイツに関して」
「そして、悪い予感がします……あの方を惑わす、悪い女が傍に居るような……」
「なんだそりゃ」
グレーナが首をかしげる。
(女ねえ……アイツはそういうのとは、良い縁がなかったよね……
この聖女からすれば悪くても、案外いい女がついてたりするなら。
応援したいかも)
そんな事を言ってしまえば、リネットに何をされるか分からない。
グレーナは口を閉ざしたまま、考えを巡らせる。
(しかし海ね。
この先の海といえばディカーラ海岸。確かシーサーペントの生息地……
ギルドが懸賞金を何度も吊り上げ直してたはず。
でも、討伐できた奴が居なかったんじゃなかったっけ?)
「……ま、まさか。
アイツ、世をはかなんで、崖から飛び降りるとか……
シーサーペントに食われるのを望んでいるとか……
そういうのじゃないでしょうね!?」
グレーナが自分の発想で、顔を青ざめさせた。
「それはマズイ! 早く止めてやらないと……もおおん!
何でアタシの足はこんなに遅いの! あああ心配……」
軽戦士の挙動が不審者のそれになってきた。
「あ、あの方はそんなことは考えません!
あるとしたら悪い女の悪影響……! 早く行って救って差し上げなければ!」
聖女もあたふたとしながら、足を速めようとする。
彼女らに呆れた目を向けたナルバエス。
「それならそれで、面倒ごとが解決したとは言えないかね?」
「「あんたは黙ってろ!!」」
見事なハモりに、顔をかばいながら後ずさるナルバエスであった。
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