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第19話 海のスローライフpart1

 てことで、海でのスローライフ開始、1日目。


 まずは……


「ログハウスを建て直すのに、適した平地を探そうか」


「ここなど、どうでしょう」


 振り向くと、エリサさんがトンボとかいう道具を使って土の地面を均していた。

 どこから出したんだそんな道具……


 しかし、ちょうどいい感じの広さだ。さすが出来るメイドさん。仕事が早い。


「ありがとう。じゃ、……展開」


 アイテムボックスに収納したログハウスを、用意された平地に出す。


「わあ!」

  

 森で建てたログハウスと全く同じものが、別棟や犬小屋などもそのままの形で。

 一瞬で建て直されたように、そこにあった。


「すごいわ! 何もかも元通りね!」


 アシェリーは大喜びで、テラスの椅子に座って感触を確かめたりしている。


「んじゃ、念のためのステルス結界を張っておくか」


 魔法を起動。

 これで探知系魔法でも捉えられなくなる。


 そして人払いの結界も組み込まれているので、近づく人間も自然とこの場所を避けるようになる。


「そうだ。海の近くだから、対塩害防護も組み込まなきゃな」


 潮風に吹かれまくるだろうし。

 家を傷めないためにも、この結界は必須だ。


「それで、今日は何をなさいますか?」


「そうだな。森でもやったように、水源の確保と、食糧の確保が第一目標だな」


 海へと引っ越す前に、一応ある程度の水や食料をアイテムボックスにストックして持ってきてはいる。しかし現地でもそれらを確保しないと、当然、あっという間に枯渇してしまう。


「水……って、目の前にたくさんあるじゃない?」


 アシェリーが首をかしげた。


「魔王様。海水には塩分が含まれており、飲料には適しておりません」


「そーなの? じゃあ、あれってしょっぱい水なの?」


 ほへーといった顔の魔王。


「なんで、海水を蒸留して塩も手に入れられるようにしたいな。


 貴重な調味料だ」


「料理に海水ぶっかけるんじゃダメなの?」


「食材がびしょ濡れになってしまいます魔王様……」


 やたらと年上ぶってくる魔王の世間知らずっぷりに、思わず笑みが浮かんでしまった。


 しかし。

 スローライフを送るにしても、俺だけの一人暮らしだったら、どうなっていただろう。

 もしかしたら、余計に心を病んでいたかもしれないな……


 気が付くと、魔王もこちらを見ながら「ん?」という感じで笑顔を向けてきていた。

 目が合う。


「ふふ」


「ははっ」


 自然に二人して同時に笑い声があがる。

 うーん。アシェリーが居て良かったな……


「……」


 微ニヤリな表情のエリサに気づき、


「っと、じゃ、そろそろ次、食糧の確保をっ」


「そ、そうね!」


 二人して顔を赤くする。

 な、なんかいま一瞬すごく良い雰囲気が流れていた気がする。


「ところで、良い雰囲気だったお二方にわたくしからプレゼントがございます」


「は?」


「な、なに?」


 エリサが、テラスにある机の上に、紙袋を二つ置いた。


「魔王様と勇者様の、お水着でございます」



 ▽



 うーむ。


 波打ち際に立って、しばし海を眺める。


 海で食糧確保するのなら、釣りか、水中へ潜っての狩りであろう。

 後者の場合、下着のみかいっそ全裸かということを考えてはいたが。


「水着が用意されてるとは」


 エリサさんは常に裁縫道具を携帯している。

 森でも、布の素材に使える植物やら動物やらを独自に狩って、衣服などを作る準備していた。


 どうやら森の川で泳ぐために作っていたらしいのが、これ。


 自分の体を見下ろし、ピッタリフィットした短パン型の水着を見る。

 ご丁寧に羽織る用のパーカーと、ビーチサンダルまで用意してあった。青基調で統一されている。


「魔界のメイドは本当に優秀だな……」


「それほどでも」


「うわ!」


 いつの間にか、エリサさんとアシェリーが後ろに立っていた。


 というか、二人とも水着だ。着替えてきたんだから当然だけど。


「どどどうかな? に、似合ってるかな?」


 アシェリーがもじもじとしながら聞いてきた。

 レースつきの真っ赤なビキニ。腰には青いふわふわとしたパレオを巻いている。

 頭には、近くに咲いていたらしい赤い花を使った髪飾りまでつけていた。


「うおお……」


 いやほんと、うおお以外の感想を一言目で言えるかっていう。

 とんでもなくスタイルのいい赤髪美女が、こんな水着をまとっているのをすぐ近くで直視したのだ。誰でもこうなるはず!?


 しかし、エリサさんに強いジト目線を送られているの感じ、慌てて言い直す。


「め、めちゃめちゃ似合ってる。すごい。きれい」


 語彙力は既に崩壊していた。

 しかし、


「そ、そうか! ならよし! よかったよ~!」


 アシェリーはほっとしたようで、エリサの両肩を掴んで足をじたばたさせている。

 出てくるまでやたらと時間がかかったなと思ったけど、心の準備もその時間に入ってたのかな……


 エリサさんは何の飾りもない黒いワンピースタイプ。

 言ってはなんだがすごい地味だ。


「わたくしはあくまでメイドですので……


 魔王様と並ぶようなものを着るわけにはいきません」


 また人の心を読んだようなことを……今回は当たってるけど。


「……それじゃ、海に入ってみようか」


「うん!」


 犬がわん!と鳴くような感じで答える魔王。


 波打ち際までてててと走っていく。

 ざざーん。

 寄せては引く波にそうっと足をつけてみる魔王。


「わわ、つめたい」


 季節的には初夏なので、海に入るには少し早いがまあ大丈夫だろう。


「ひゃー!」


 波が引いた時に、足をすくわれたような錯覚に陥ってすっころぶ魔王。

 まったく、こうして見ているとほんとフツーの女の子にしか見えないな。


「転んだ魔王様に手を貸してあげて、ポイントアップのチャンス」


「お、おう?突然後ろに立ってささやきかけないでくださいよ……」


「ああ、ご自分でお立ちになられた。この鈍重勇者」


 まったくエリサさんは……


「それでは、わたくしはひと泳ぎしたのち、水源の調査と確保に向かいます。


 お二人は存分に手をつなぐなどして、泳ぎの練習をしていただきます」


 などと言って、超高速で準備体操をした後ざぶんと一人海に入っていった。

 そして50mほど先の岩礁まで泳いで戻ってきたかと思うと、タオルを羽織ってどこかへ行ってしまった。


「あれ、エリサ? どこへ?」


 貝を拾って眺めたり、寄せてくる波をジャンプしてみたり。

 好奇心の赴くままに行動していた魔王の、気づかぬ間のことだった。


「水源を探しに行くとか言ってた」


 フットワークの早いメイドさんである。

 しかしエリサさんも海で泳ぎたかったのね、めっちゃ泳ぎ早かったな……

 つか、泳ぎの練習?いちおう、俺は泳げるけども……


「……アシェリー、きみって地上の海は初めてなんだよね」


「そうよ、こんなに青くて、入ってもダメージがなくて……

 

 つめたい液体の集まりなんて新鮮」


 魔界の海はマグマらしいからな……


「じゃあ、泳ぐことって、出来る?」


「……」


「あの?」


「出来るわ! 概念は知ってるもの!」



 ……なんか、ダメそうだ。


 海でのスローライフ1日目は、水泳教室かな?

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