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第18話 引っ越し開始 海へ

「えー? もう?」


 森でのスローライフ三日目。

 ログハウスの位置を知られ、現魔王軍の侵略を受ける可能性が出てきたことへの対策として。


 俺は、引っ越しを提案したのだった。


 当然、アシェリーもエリサさんもまさかって感じの表情だ。(エリサさんは多分だが)


「魔軍三傑が、毎日ログハウス前へ飛んできて……


 真正面から戦ってくれるなら良いけどな」


 そんなルーチンを繰り返してくれるなら、日常に奴らの行動も組み込めるが……

 森を焼かれたり、川へ毒を撒かれたりとか、そんな搦め手に走られると対処が面倒になる。


 ……じゃあいっそ、奴らの知らない場所に移動してしまおう!てのが俺の提案である。


「確かに、環境破壊は困りますね」


「今度は探知されないようにしないと。


探知妨害ステルス結界も、家の周りにちゃんとしておこう」


「えー? 引っ越すなら、また家を建て直すの? 


 今のログハウス、気に入ってたのに」


 アシェリーはかなり残念そうな顔だ。


「また同じ物を建てる事くらい、問題ございませんが」


「いやそれは俺の台詞でしょ……実際、そうなんだけどさ」



 魔王のスキルがあればなおさら。

 しかし、建材集めの手間ってものがある。次に引っ越した先に都合よくあるとは限らない。

 じゃあどうするか。



「家、アイテムボックスに入れて持ち運ぼう」


「えええ!?」


 驚く魔王を尻目に、俺はログハウスへと歩いていき……その壁の一部に手を当てた。


「……収納」


 つぶやく。


 するとログハウスは、併設された牛の柵ごと、鶏小屋ごと、リルルの入っている犬小屋ごと……

 何もかも全てまるっとアイテムボックスへ収納されたのだった。

 今までログハウスが建ってた場所には、ただの地面があるだけだ。


「勇者ちゃん、すっごい!」


「何でも入れられるとは聞いておりましたが……


 建物まで入るとは思っても見ませんでした」


 驚きを隠せない2人。


「これで引っ越し先に、今までと同じ住居がすぐ建つってわけ」


「なるほどー。これなら何度でも引っ越せるね!」


「はは。ちゃんと隠れてれば、そうそう何度も引っ越すこともないでしょ」


 後日、俺の言葉は間違っていた事が判明するが、それはさすがに今は知る由も無かった。


「じゃ、どこへ行こうか。次もまた森ってのは芸がないかな」


「……じゃあ、あたし海ってところへ行ってみたい!」


 アシェリーが手を挙げて提案する。


「魔界にはなかったし、地上の海って話には聞いていたけど……


 ここに来てから実際行けてないし!」


「なるほど、決まりだな」


 海ならばこの大陸、東の果てのとある砂浜に行ったことがある。

 移動魔法で飛んでいける。


「それじゃ、掴まってくれ」


 二人に両手を差し伸べる……が、


「……」


 俺の両手にアシェリーが両手を重ね、ぎゅっと握ってきた。

 違うそうじゃない。


「いや、片方はエリサさんの……」


「エリサはあたしの腰に掴まればいいかなって」


 にこにこしながら握る手に力を込めてくる魔王。

 それはなんかエリサさんがちょっと可哀想でないかい?


「腰ですね了解しました」


 しかしエリサはそういって、俺の後ろに回って腰に手を回して背中に密着してきた。


「なーーー!?」


 アシェリーが奇声を上げる。


「え、エリサさん?」


「おかまいなく。


 さあ行きましょう海へ今すぐ行きましょう飛びましょう早く」


 表情は変わらずだが、やはり口の端にほんのわずかな笑みが浮かんでいる。


「いやしかし、ここまで密着する必要は……んん」


「……魔王様に比べて物足りない体つきだと思いましたね今。失礼ですよ」


「い、いや思ってない! 全然!」


「ゆうしゃさまは、きゃしゃなおんなは、おきらいですか……」


 耳元で囁くようにそんな事を言われた。思わずぞくっとしてしまう。


 アシェリーがすごい目つきで睨んできた。

 こ、このメイドめっちゃ魔王を煽ってくるよ!!


「エリサ、ずるーい!!」


「ずるくありません。腰に掴まれと言われたのは魔王様で」


「あーたーしーのー!!」


 魔王が両手をぶんぶんさせるので、俺の両手もぶんぶん上下に振られる。肩が抜けるって。


「はーなーれーてー!」


「離れません。離れたら魔王様とはぐれてしまいますので」


「んみーーー!!」


 ほんとこの二人仲がいいよな。上下関係はあっても、友達同士みたいな空気感。

 などとほっこりしてる場合ではない。このままじゃいつまで経っても出発出来ないぞ。


「んじゃあたしは! 前から!」


 そんな事を言って両手を離したかと思うと、がばっと正面から抱き着いてきた。


「おいい……!?」


「さあ! 行きましょ!」


 こうして俺は前方に雄大な双丘、後方になだらかな双丘を感じつつ海へ向かって飛び立ったのだった。



 ▽



 アーレンス大陸、東の果て。ディカーラ海岸。

 魔獣の森よりも王都に近いが、ここもあまり人が近づかない場所だ。


「わあ……!」


 子供のような声を上げて、砂浜に走っていく魔王。


 天気も良く、空も海も青く広がっている。

 魔獣の森での、高い樹々に囲まれた生活だったので、ひらけた海の景観にいっそうの開放感が感じられた。


「すっごい、これが海なのね! 湖みたいに対岸が見えない!」


「おお」


 エリサさんも海は初めてのようで、無表情ながら感動のこもったつぶやきがもれた。


「あの果てには他の大陸があるって本当?」


「ああ、エルフやドワーフの棲む別大陸がある」


「へえー!」


 アシェリーの瞳がきらきらと好奇心に輝く。


 エルフは人間嫌い、ドワーフは誰にも心を開かない頑固な種族。なのでこの大陸と交流はない。

 大昔は小規模な貿易が行われ、多少は大陸どうしで行き来もあったらしいが……

 今となっては、もういっさいの関りが断ち切られてそのままだ。


「そうとう遠いうえ、途中に難所もあるらしくて。


 その困難を乗り越えてまで、貿易するメリットも無かったみたいだな」


「なるほどー」


 自分なら、一度たどり着いたならば、少々の魔力消費で何度も往来が可能になるが……また便利に使われるんだろうな。おっといかん、もうそういう生活とは縁を切ったのだ。


「エルフはドワーフとも仲が悪いらしい」


「え、それでやっていけるの? 同じ大陸で」


「その辺はちゃんと不可侵条約とか結んでるらしい。


 1000年平和が続いているとか、自慢してたって」


「へえ。いいなあ……魔族と人間も、いつかそうなるといいね」


 アシェリーがちょっと遠い目をした。


「……そうだな」


 今は魔王(元)と勇者(お休み中)が非公式の不戦の誓いをしてるだけ。

 現魔王軍も人類軍も、今はただの膠着状態。


 俺が人類軍から身を隠し続けられれば、魔王が心臓を奪われなければ。

 この状態も、もしかしてずっと続くのではないか……

 それが偽りの平和であっても、いつか真実の平和にたどり着く一歩になるのではないか。


 などと俺は海の彼方を見ながら、思うのだった。

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