第17話 魔王対魔軍三傑、からのお引っ越し 元勇者パーティ召集
(お手並みを拝見といこう)
とミルクを飲んでる間に、魔王へ矢の雨、岩のようなパンチが迫り――
いきなり魔王は右手から火球を放った。
雨のような矢を瞬時に消滅させつつ、上空のカールティックを撃つ。
と同時に、左手から振り払うように放たれた一条の火線が、ボウマンの足元を大きく穿った。
空気の拘束は、全く通用していない。
「うっがああ!」
「ごっ……」
悲鳴と共に地面に落下する黒焦げのカールティックと、足元の溝にはまって前のめりにぶっ倒れ動かなくなるボウマン。
(あの体格・重量があんな速度で地面にキスしちゃ、昏倒は免れまい。
カールティック、当分飛べないだろうな)
「え? あ、あれ?」
そんな二人の有様を見て困惑しているトリシュの背後に、いつの間にかアシェリーが立ち、
「はいボーン!!」
と言って肩を叩く。
トリシュは「びゃああ!」と悲鳴を上げてその場に尻もちをついた。
あの魔法使い、高度な事は出来るけどやたら弱気なんだな……
って、終わり? 10秒もかからなかったな。
「と、こんなとこー」
アシェリーがまたぶんぶんと手を振ってくる。
それに応じて、俺も立ち上がる。
「さすが魔王、と言ったところだなあ」
小走りでこちらへ走り寄ってくるアシェリー、俺も歩み寄りながら彼女のほうへ手を伸ばし……
「え? え?」
と何を誤解したのか赤くなるアシェリーの、左後頭部に飛んできた矢をばしっと掴む。
「相変わらず、不意打ちが得意技か」
「ち……中央平原では、これでてめえの足を吹っ飛ばせたのによ……」
地面に倒れ伏したはずのカールティックが、身を起こし背後から魔王を撃ったのだ。
俺は掴んだ矢を振りかぶると、
「あれは痛かった」
カールティックの眼前の地面に投げて突き立てた。
「不意打ち、分かってたのに」
魔王が頬をふくらませる。
「そりゃすまんかった」
「中央平原で勇者ちゃんが食らったのは偶然? 油断?」
「三徹明けで眠かったからかな……」
「何だと……睡眠不足の状態で、俺たちを退けた、ってのか……」
カールティックは愕然としている。
「さ、もういいでしょ。あなたたちの不始末は、あなたたちでどうにかなさい」
「くそ!俺たちはてめえの心臓、諦めてねえからな……!」
カールティックは捨て台詞を吐くと、トリシュの移動魔法で3人仲良く魔王城へと飛んでいった。
「あの調子だと、また来そうだ……ところで、心臓って?」
「多分こういう事ね」
アシュリーの説明によると。
甚大な被害を受けた魔族連合軍は、亜人兵たちから出たであろう不満の対処に困っている。
それを抑えるカリスマも居ない。
であれば、亜人兵たちは洗脳魔法で黙らせるのが手っ取り早い。
しかし、そのためには膨大な魔力が必要……
「その供給源として、あたしの心臓を使うつもりなのね」
「アシェリーの心臓は、そんな膨大な魔力を生み出せるってことか」
「そそそ」
人間の心臓も、ある種の魔法を使う際の便利な媒体になると聞くが……
魔王の心臓となると、効果も絶大みたいだな。
「というか、奴らの狙いをそれだけ察することのできるアシェリーも頭いいな」
「そう? 照れる」
えへへと笑うアシェリー。
「亜人兵は、洗脳して使うべきーだとかカルちゃん言ってたからねー。
普段の発言を知ってれば、ね」
カルちゃんてのはあの有翼族のことか。
かわいい感じに言ってるが、あいつは妙に野心的なものを感じる。
三傑の中では一番油断のならない印象だ。
「他の二人が諦めても、あいつだけは諦めなさそうな印象だ」
「そうかもね、結構しつこいから」
「あの方の性格なら、森に火を放ったりするかもしれません」
エリサさんが物騒な事を言った。
確かに手段を選ばないタイプだ、あれは。
戦いを挑んでくるなら対処はいくらでも出来るが、環境破壊は困る。
食糧も水も確保できなくなれば、スローライフ自体が継続できなくなる。
「ごめんね。面倒なことになって」
申し訳なさそうにする魔王だったが、俺はちょっと考えて、
「……いや、いっそのこと、引っ越すか?」
▽
「王都中、すごい騒ぎだね」
神官服の男が、宿屋二階の窓から外を見下ろして言った。
「だからアタシ言ったでしょ。アイツに無理をさせ過ぎ、頼り過ぎって」
二股に分かれた帽子をかぶった小柄な女性が、ため息をつく。
「ああ……だから! わたしが傍に居て差し上げなければ駄目だったのです!
おかわいそうな勇者様……!」
と、白いフードの聖女が、手をもみ絞りながら泣きわめいた。
――神官戦士ナルバエス、軽戦士グレーナ、聖女リネット。
彼らは元、勇者パーティの一員である。
一時期、勇者シルダーは彼らと共に、魔王軍との戦いの日々を過ごしていた。
まだ勇者が駆け出しだった頃だ。
しかし勇者の成長と共に、彼のスキル【鼓舞】が【全体鼓舞】にクラスアップ。
効果範囲が、4人程度から1000人規模に膨れ上がった。
それを生かさない手はないと、国王は勇者に軍の一部を与え、勇者連隊としての運用を始めた。
結果、彼ら勇者パーティはあっさり解散。
勇者は一軍の将として、魔王軍との前線に立ち……ほかの三人は普段のAランク冒険者として、
勇者と出会う前の日常に戻ったのだが。
数年後。勇者失踪という事態が起き、国を挙げての捜索が始まった。
そしてその話は、元勇者パーティの彼らも知るところとなった――
「アイツが勇者を辞めた、って言われても驚きなんてないね。
それだけの重圧が、アイツにのしかかっていたんだよ……」
グレーナは心底、心配している様子だ。
「魔王軍はどうするのかね? 放置とは勝手すぎないかね?」
「アイツはもう十分、成果を上げたよ!」
ナルバエスの言葉に、グレーナーは机をバンと叩いた。
「一体いくつの街を解放したと思ってるの? 中央平原での大戦果は?
いつまでアイツに頼るの。疲れ果て、ボロボロになったアイツに……」
グレーナは肩を震わせている。
「魔王軍との戦いは、国軍や冒険者勢で引き継ぐべき、とアタシは思う」
「そうです!
あの方に今必要なのは、十分な休息と……わたしの愛なのです!!」
リネットが割り込んでくる。
「勇者様……!
今すぐあなたの元へ飛んでいき、優しく抱きかかえ、癒して差し上げたい。
あの方はわたしが居ないとダメなのです!
ああ、どこへ行かれたというのです……
せめてわたしにだけは行き先を教えてほしかった……
あんなにも愛し合った仲だというのに! はあ……!」
その様子にグレーナは頭を抱える。
「また始まった」
勇者と聖女が、そういう関係になったという事実はない。
ただの一方的な思い込みである。
「リネットの話は置いとくが……逃亡は問題外だね。
奴はもう全く勇者にふさわしくないと言えるね」
「お前は、アイツがどうなっても良いの?」
「やつは国と教会に対し、つばを吐いたも同然だ!
育ててもらった恩も忘れ! 自分は極刑を進言したいところだがね」
「何ですって!?」
ナルバエスとグレーナがにらみ合う……
とその時、部屋のドアがノックされた。
グレーナが出てみると、一人の男が立っている。
国からの使いであると名乗り、そして言った。
「元勇者パーティのあなた方に、勇者探索の協力が要請されました」
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