第16話 魔軍三傑の襲来
その朝、いつもの時間より早く目が覚めた。
何かが近づいている。
魔獣の森のモンスターたちではない。
それよりもはるかに強い力の持ち主が、この家に近づいている……!
リルルも異常に気付いたのか、ひゃんひゃん吠えているのが聞こえた。
寝間着から着替え、自室の扉を開けると、廊下に出ているアシェリーと出くわした。
「勇者ちゃんも気づいた?」
「ああ、ってうわ!」
アシェリーは寝間着のままだった。
それも、前がはだけて……
「? ……ひあっ!!」
慌てて前を隠すアシェリー。
そんな事をしてる間に、近づいてきた何者かがログハウスの近くに降り立ったようだ。どうやら三体。そして、
「アシェリー!!! ここに居ることは分かってるんだ、出てきやがれ!」
と大音声で叫ぶ声が聞こえてきた。
「あ、アシェリーのお客さんのようで……」
「そ、そうね……でも、ちょ、ちょっと出直してきまーす……」
顔を赤らめた魔王が自室に引っ込んでいく。
代わりにメイドのエリサさんが出て来て、こちらを見るなり
「……良いものを見た、と思われてるご様子」
とニヤる。
「そ、そんな事全く思って……お、おも、おもてを見てくる!」
自分でも意味不明な誤魔化し方をして、ログハウスの扉に向かい、扉をあけ放つと……
「……は?」
「あ……?」
間抜けな声を出してしまった。
外に立っていたのは、かつて中央平原で戦った、魔王軍の英雄と言われる三人。
意外な相手すぎる。初めてのお客様が、なあ。
しかし相手もこちらを見て、似たような反応をしているが。
「ええと……魔軍三傑、の方々? なんか用?」
「てっ、てめえは勇者!? 何でここに居やがる!!」
有翼族のやつが喚きつつ弓を取り出し、矢をつがえた。
背後に居た二人も、筋肉達磨はこちらに突進の構えをみせ、魔法使い女は何かの魔法を発動させる印を切る。
しかし彼らの攻撃がこちらに届く前に、俺は背後のアイテムボックス空間から愛剣を取り出し――
風の魔法を剣にまとわせ、裂ぱくの気合とともに水平に薙ぎ払った。
攻撃直前に魔法剣を叩きつけられた三人は、かろうじて防御したが、衝撃で後方に10数メートルほど吹っ飛んだ。
何でこんなところに魔軍三傑が居るんだよ……
確か、カールティック、トリシュ、ボウマン、だったか?
「ぐはっ……て、てめえトリシュ! どこが魔王……元魔王が居るってんだ!
こいつ、勇者じゃねえか!」
「そ、そんなはずは……
あ、あたしが魔力探知をしくじるなんて、あ、あ、ありえません」
「だが実際、目の前に居るのは勇者だぞ」
体勢を立て直しつつ、もめ始める三傑。
どうもアシェリーに用向きがあるらしいな。
「あー。アシェリーなら、もうしばらくすれば出てくると思うぞ……」
頭をかきかき、三傑に伝えてみる。
「何ぃ?どういう意味……」
などと言ってるうちに、アシェリーがログハウスの扉を開けて出てきた。
ちゃんとした、いつもの装束である。
「お、おまたせー。尋ねてくる時はちゃんと事前にアポを取ってよね!……あら?」
ここで三傑が視界に入ったらしく、
「えー。えーと。ひさし、ぶり?」
バツの悪そうな挨拶。
そりゃそうだな。相手は魔王に対し、クーデターを起こしたやつらだ。
いまさら何しに来たって感じだろう。
虚をつかれた三傑、後ろを向いてひそひそと言葉をかわしあう。
「い、居るっちゃ居たな!
どうするオイ、勇者もセットってのは想定外だぞ!」
「うむ、しかしやるしかあるまい。俺が勇者を足止めする。
後はどうにかして2人で元魔王を仕留めてくれ」
「わ、わかりました……ボウさんには矢避けの魔法をかけておきます。
カルさんは空から、わたしは両サイドから」
「それで行くぜ。あと名前略すな」
何事かの作戦を立てたようで、くるっとこっちに向き直る三傑。
「よ、よし。覚悟はいいか」
「ちょっと待って」
と、アシェリーが3人の前に出て行った。
「なんとなく察しちゃったわ。
あなたたち、わたしの心臓を取りに来たんでしょう?」
「ぐっ……」
あからさまに動揺する有翼のカールティック。正解か。
アシェリーって10年森で迷うポンコツだけど、こういう勘とかは優れてるんだよなあ。
「そしてこの話は、あたしたちだけの問題。
勇者ちゃんは見てて。あたしだけで解決するわ」
とひらひらと手をこっちに振る魔王。
「とか言いつつ、勇者様にカッコイイ所を見せたいだけなんですよ。
緑竜の時がアレでしたから」
「え、エリサあー!」
と、エリサさんの解説に顔を赤らめる魔王。
んじゃまあ、俺は手を出さないでおくか。
俺は椅子を出してきて座り、エリサさんが持ってきたミルクを受け取る。
確保した乳牛から絞ったものだ。これから朝食の時に毎回出る予定。
アシェリーはごほんと咳ばらいをして、三傑に向き合う。
「あまり新体制は上手くいってないみたいねえ……
だからといって、はいそうですかと心臓を渡すわけにはいかないわ。
わたしたちのスローライフはまだまだ、これからだもの!」
「す、スローライフ……? 何言ってやがる!
てめえの人生は、もうここで終焉になんだよ!」
上空に飛び上がったカールティックが、常人にはありえない速度で連続矢を放つ。
と同時に、ボウマンも巨体に似合わぬ速度で突進をかけた。
ボウマンは完全にカールティックの射線上に居る。
しかし矢避けの魔法によって、当たるはずの矢はボウマンの体をそれていく。
その矢は予測のつかない軌道を伴い、魔王へと向かっている。
その魔王の周囲の空気は歪み、魔王の体を拘束しているように見える。
後方に位置する、トリシュの風魔法によるもののようだ。
(中央平原でも見た事のある、というか俺にかけてきた三傑の連携だな)
――三傑は、単騎でも人間相手には無双できる能力持ちだ。
カールティックの氷をまとった連続矢は、常人には避けることも切り払うことも出来ない。
ボウマンは見た目通りの近距離パワー型。土属性の力で地面の上では異様な速度で動く。
トリシュは風というか空気を操って、変幻自在の攻撃を仕掛けてくる曲者だ。
そして今、彼らの一斉攻撃が魔王に迫る……!
(……さて魔王のお手並みを拝見、といこう)
ごくごく。ミルクおいしいです。
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