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第15話 森のスローライフpart8

「勇者ちゃん! こっちこっち」


 ある日、魔王が俺を呼び止めた。

 テラスの椅子を3つほど並べて、その端の一つに座っている。


「勇者ちゃんは椅子に寝て」


「?」


「頭はあたしの膝」


 ぽんぽん、と膝をたたく。


「……?」

「い、いいから!」


 ぽんぽんぽんぽん!


 いや、だって。それ膝枕じゃん。

 ちょっと恥ずかしいような……突然なんなの?


 鶏の件があって、俺はやや気まずい感があるんだが。

 魔王はわりと吹っ切れてる模様。切り替えが早いタイプか。

 そこへ、すすっと近寄って来たエリサさんが俺の耳元でささやいた。


「大人しく従ったほうが身のためですよ」

 

 なにそれこわい。

 従わなかったら何をされるんですか……


「そりゃ、もう、なんか……グサリと」


 わけがわからない!

 まあ、ただ魔王も妙に必死に膝を叩き続けているので、ちょっと膝も気の毒だし言う通りにした。


「よしよし!」


「一体なんなの?」


「耳かき、してあげようかなって!」


「はあ」


 また唐突だな。


「昨晩エリサにしてもらって……

 

 そしたら、エリサが次は勇者様の耳もして差し上げなければ……


 とか言い出すもんだから! それはあたしの! って揉めて。


 こういうことになりました」


「……妙な事で揉めないでもらえますか」


「ともかく! 勇者ちゃんの耳を掃除する権利を得たのはあたし。


 ほら、耳かき道具だって、あたしが木の枝を削って作ったのよ!」


 おお、アシェリーのお手製とは……って、めっちゃ尖ってませんかそれ!?

 耳かきより暗殺に適してそうだけど!?


「さあ、じっとしてて」


 ふるふる。


 その耳かき凶器を握った手も妙に震えてるし!目も座ってる!

 魔王の言葉に従っても、結局グサリとくるのでは!?


「勇者様。愛とは耐える事です」


 えりささんが微ニヤリの表情で、つぶやいた。


「うわああああああああああああああああああ!?」



 ……結局、耳の奥だけ鉄化魔法で鉄になって無事、やり過ごしました。

 耳の中ですごいガリガリガチガチ、轟音が鳴ってたよ……



「……えらい目にあった」


「お疲れ様です」


 テラスでグッタリしていると、エリサさんがハーブ茶を持ってきてくれた。

 近くの野草で適したものがあったのを摘んで、作ったらしい。


「ありがとう」


「いえ。面白いものが見れましたので。魔王様をけしかけた甲斐がありました」


「あのね……」


 結局この人の手のひらの上で脅されてるな、魔王。

 って俺もか……


「今度は、勇者様が魔王様の耳を掃除して差し上げてはどうでしょう」


「え、うーん。人のってやった事ないからな……」


「魔王様も初めてのご様子で、面白い事になってましたね」


 怖かったよ!


「わたくしでお試しになりますか。では膝枕の準備を」


「いいよ別に……!」


 寝っ転がってきそうなエリサさんを押しとどめる。

 そんなところ、アシェリーに見られたらどうなる事か。


 ……たぶん、それもエリサさんは計算してる気がする……


「ところで、掃除といえば……ちょっと気になる事があるんだけど」


「いつもログハウスの掃除をありがとうございます? いえいえ」


「先に言わないでくれないか……いや、それもだけどさ、別の話なんだ」


 このログハウスが出来てからあった疑問を、ようやく口にした。


「その、だな。このログハウスにはトイレまで付いてるじゃない」


「ありますね」


「その……どうなってるんだ? 


 なんか、汚物の処理とか誰もしてない気がするんだけど」



 トイレ、あるもんだから普通に使ってたけど。

 どうしたって、問題が出てくるはずなんだ。


 トイレは個室で、入ると少し高い段差があり、そこに穴の開いた椅子がある。

 で、座って穴に。というものだ。


 エリサさんの設計通りに建てたのは俺だけど。

 出たものをどこへどう処理されてるのか、まったく関知するところではなかったのだ。



「ああ、それですか。


 魔獣の森の、木の特性ですね。吸水性が大変優れておりまして」


「いやさすがに噓でしょ……」


 そろそろエリサさんのノリも分かってきたので、もう騙されはしない。


「ちっ」


「舌打ちした今?」


「いえ、どこかで鳥が鳴いたようです。まあさっきの話は嘘ですが……」


 でしょうとも。


 で、エリサさんの説明によると。

 例のトイレ穴の底には、魔界に棲むダークスライムが仕込まれているという。


「モンスターが居るのあの穴に!?」


「モンスターと言っても、大変便利な存在ですよ」


 有機物ならなんでも吸収、自身の栄養として取り込む特性を利用して、魔界では珍重されている生き物らしい。非常に貪欲で、時には自ら触手を伸ばして汚れなどを取り込んだり、匂いすら吸収してくれる。


「行方不明になられた魔王様を見つけた時のために……


 簡易トイレとして持ってきたのですが。


 こうしてお役に立ててなによりです」


 そうだったのか。


 微妙な話題だったが、聞いてみてほっとした。

 処理どころか掃除もしなくていいシステムのトイレとは、便利すぎてありがたい。


「しかし、10年間もの間……


 このことを含めた生活の全てを、森でどうにかしてきた魔王様を思うと。


 実に、つらい気持ちになるのです」


 そうかー、アシェリーは10年間も外で……

 それも大変な話だなあ。人目は無いとはいえ……


「いま、あられもない魔王様の姿を想像しましたね? なんという変態勇者」


「全っ然してないからね!?」


「なになに、何の話ー?」


 げえっ、魔王! 


「聞いてください魔王様。ド変態勇者様のお話を」


「完全に捏造! 風評被害!」

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