表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/48

第14話 森のスローライフpart7

 コケコッコー。


 朝。

 魔獣の森、ログハウスの周囲に、鶏の鳴き声が鳴り響いた。


「いかにも朝って感じだな」


 俺はベッドの中で一つ伸びをし、ゆっくりと起き上がる。

 窓の外は一面の緑。


 王都では絶対見られない風景だ。落ち着く。


「鶏の鳴き声で起こされるのも、乙なものだなー」


 いつも同じ時間に目が覚める体質だが、こういう目覚め方も悪くない。

 そう思えるのも、最近は落ち着いて寝れているせいかもな。


 しかし、この森のログハウス。

 今では牛を囲う柵に、鶏を飼う小屋まで増設されている。

 牛1頭、鶏2匹程度だが、これでミルクと鶏卵までが確保できるようになった。


 ちなみに【全体鼓舞】、試してみたら……


「卵、3人が1日5個ノルマって多すぎない?」


「牛乳も、飲み切れないほど絞れるんですが」


 と、供給過多になってしまったので、今は効果をミニマムにしてかけることにした。

 それで毎朝、卵も牛乳も必要十分な量が安定して確保できている。


「こうなると、パンも欲しくなってくるな」


 朝ごはんは、パンに卵焼きを乗せたものとミルク。

 充実してるじゃないか。いずれ小麦も育てられるようにしたい。


 ……しかし、鶏を小屋で飼うようになって初日は大変だった。

 安眠を騒音で妨害されたと認識したアシェリーが、暴走したのだ。


 そしてそれを止めるため、俺はとんでもないことをする羽目になった……



 ▽



 コケコッコー。鶏導入初日。


「……ふあー。……そういや、鶏を飼うことにしたんだっけ……」


 鶏の鳴き声で、いつもの時間より早く目が覚めた。

 窓から入る光が弱い。今日は曇りかな。


 身を起こそうとすると、


「勇者様。大変でございます」


 エリサさんが勢いよく扉を開き、俺の部屋に駆け込んできた。


「うわ! こんな朝から何の用です?」


「勘違いしないでください。夜這いをしに来たわけではありません」


「……そもそも朝ですしね」


「冗談を言ってる場合ではないのです。


 魔王様が大変なことをしでかそうとしております」


 冗談、最初に言いだしたのは誰なのかとか言おうと思ったが。

 とりあえず話を聞くことにした。



 ――今朝。


 エリサさんがいつものように皆より早く起きて、リビングで待機していると。

 鶏の鳴き声が聞こえたのち、アシェリーがふらふらとログハウスの外へ出て行ったそうだ。



「……それが何か?」


「あの様子は、確実に寝ぼけられております。原因は、鶏です」


「……! まさか」


 慌てて部屋を走り出る。

 昨日作り上げた鶏小屋まで行くと、鶏に向かって最上級火炎魔法を放とうとする魔王の姿が……!


「はいストーップ!!」


 魔王は無理に起こされると、起こした相手に対して火炎魔法を撃つ習性がある。


 まさか、鶏の鳴き声にもそれが適応されるとは……

 このままでは、鶏小屋が吹っ飛ぶどころか、森に広大な焼け野原が出来る。


 しかし声をかけたが、甲斐なく火炎魔法は発射された。


「仕方ない!」


 発射の瞬間、火炎魔法の下に拳を差し入れる。

 そして勢いよく上へと突き上げた。無事、火炎魔法は上空へ。


「いつか見た光景……」


 見上げれば、雲一つない青空。

 火炎魔法で消滅したから……


「……??」


 アシェリーが首をかしげている。


 目の前の鶏が吹き飛んでない事に、疑問を抱いている様子だ。

 そして、第二弾の火炎魔法を準備しだした……!


 ま、まだ寝ぼけておられる!?


「ちょっと! エリサさん! どうやったら止まるのこれ?」


「運が良ければ、すぐ正気に戻られるのですが」


「良くなかったら?」


「もうちっとだけ続くかと」


 アシェリーに会って初日は運が良かったパターンか。

 そして今日のが悪いパターン。

 まあ、このまま魔法を弾き続けるだけなら……と思ったが。


 アシェリーは今度は両手をかざし、10数個の魔法を並行発動させようとしている……!


「うわー。これはちょっと、周囲の被害をゼロにってのは難しそうだぞ……」


「たった一つ、解決策があります」


「そんなんあるなら早く!」


「古来より、姫を目覚めさせる方法と言えば?」


 ……それって。


「お、おとぎ話に良くある話のことを、言ってます?」


「言ってます」


 そ、それはあれじゃん!あれをしろってことじゃん!

 こんなアホなシチュエーションでかい!


 だがアシェリーは、今にも多連装火炎魔法を放とうとしている……!


「え、エリサさん! 後でちゃんと、アシェリーに説明してくださいよ!?」


「大丈夫ですよ。受け入れていただけるかと」


「うううおー!!」


 俺は妙な喚き声をあげ、アシェリーの顔を両手でそっとつかむ。

 引き寄せて、唇を、合わせた……


「……。……。……!? ……!!!!!???」


 アシェリーの目に光が戻って来て、そして何が起こっているのかを認識したようだ。

 唇を離し、


「……目、覚めたか?」


「……。……さめた……」


 顔を真っ赤にした魔王がそこに居た。

 半目だったのが、今はとろんとした目だ。


「朝ごはん、だからな」


「うん……」


 なんか良く分からない会話ののち、アシェリーは大人しくログハウスに戻っていった。


「……ゆ、許されただろうか」


「大丈夫ですって」


「まだ寝ぼけてる感じ、してない?」


「あれは乙女の心持ちになっているのかと」


 ……良かったのか、これで。


 しかし、ロマンチックとはかけ離れた状況だ。

 やるんなら、もう少し、こう……なんか、あるだろうに。


 ちゃんとしたシチュエーションが。


 まあ、とりあえず森と鶏小屋の平和は保たれた……


「それでは、毎朝これをお願いいたします」


「なんだってー!?」


 魔王が寝ぼけるたびに、あれをやれと!?

 エリサさんは唇の端を少し歪め、微ニヤリの表情。



 ……しかし。



 その後は、鶏の声でアシェリーが「寝ぼけ火炎魔法状態」になる事はなかった。


 どうやら鶏の声に、強烈な記憶が紐づけられた様子。

 鶏の声を聞くたびに、今朝のことを思い出し、頬を染めて身もだえするようになった。




 ほっとしたような、やや残念なような……?


 あの事案の後、エリサさんに状況を説明されたアシェリーがつかつかとやって来て、


「あれはノーカン!」


 と宣言をして去っていったが、同意しかない。

お読みいただきありがとうございます!


下のほうにある☆☆☆☆☆への評価・ブックマークなどを頂ければ

大変な励みになりますので、応援よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ