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第11話 幕間 魔王とメイドの夜会話2

「……しかし、えらいものを拾ってきたわね勇者ちゃん」


 その日の夜。


 ログハウス内、魔王の個室にて。

 例によって、エリサに髪をくしけずらせながら、アシェリーがぽつりとつぶやいた。


「ですね……」


 エリサも無表情を保ってはいる。

 が、勇者が白い獣を抱いてログハウスに戻ってきた時の驚愕を思い出し、やや身震いをした。


「勇者様の話を聞く限り……


 人間にはフェンリルについては伝わってないようです」


 魔族に伝わる話では、フェンリルはこの世の全てを食らいつくす獣の王だ。

 そして実際に、この世界はフェンリルによって一度終わりを迎えたとされる。


 そんなフェンリルの幼体と無邪気にじゃれあっている、勇者。


 その様子は、起動すれば周囲のものを全て消し飛ばす魔道爆弾を、それと知らない者が

 もてあそんでるかのように思えるのだ。


「世界が一度終わった後は、魔族が栄えることになり……


 そして次に人間の世界になった」


「魔族が地上で栄えていた頃には……


 白紙にされる以前の文明の名残が多少あったそうですね」


「それにより、フェンリルの記録が魔族には伝わった」


 しかしその後は、神々との大戦争が起こりアーレンス大陸は荒廃した。

 それゆえに、後から来た人間には、フェンリルについては知る由もなかったのだろう。


「フェンリルの再来に警戒していたら、神を名乗る連中が来たとか。


 想定外だったでしょうね……」


 魔族にとっては神も、フェンリルも脅威という認識でしかない。

 神は魔族だけを放逐したが、フェンリルはこの世界そのものの敵である可能性すらある。


「どうされますか? 勇者様をこのままに……?」


 エリサが問いかける。


 勇者がフェンリルをどう育てるかによって世界の命運が決まると言っても過言ではない。

 そのリスクを、責任を、フェンリルの危険性を勇者に伝えるのか。


 エリサはそう、聞いているのだ。


しばらく目をつむって考えるアシェリー。


「……いや、やめとくわ。


 彼にとってはフェンリルの幼体はリルルという犬にすぎない。


 そして人類の命運という重い使命から解き放たれた彼に……

 

 当分、再び重荷を背負わせたくない」


「しかし……」


「大丈夫よ」


 にっこりと笑ってアシェリーは言った。


「勇者ちゃんを信じなさい。


 勇者ちゃんの底抜けの人の好さ、善性に子供のころから触れていれば……


 伝説のフェンリルだって誰かの敵になるなんて未来、いくらでも変わると思える」


 そんな様子に、エリサは思うところがあるといった具合に問いかけた。


「……魔王様が変わられたようにですか」


「えー? あたし? どんなふうに?」


「はた目から見ても赤面してしまうくらい、勇者様にメロメロなご様子です。


 以前の浮いた話など一切なかったのが、嘘のようです」


 耳まで真っ赤になったアシェリーが足をじたばたさせる。


「なー! 恥ずかしい! そ、そんなにかしら?」


「はい。そしてお似合いでございます。


 人類最強の存在、勇者様。そして魔族最強の存在、魔王様。


 そんなお2人のご様子、見てて大変面白くございます」


「ちょ、面白いて言った?」


 アシェリーが真後ろのエリサを見ようと、顔を後ろに傾ける。

 エリサはあらぬ方向を向き、


「……興味深くございます。


 魔王様、髪を整えるのがやり辛くなりますので、前を向いてくださいませ」


 と誤魔化した。


「んむむ……」


 アシェリーはやや不満げに顔を戻す。


「そういや……今日は勇者ちゃんに恥ずかしいとこ、見られちゃった」


「はあ。いきなり、お召し物を全部お脱ぎにでもなられましたか。


 奇行もほどほどになさいませ」


「そんなわけないでしょ! ……でも、ぱ、パンツは見られた……」


 その時の様子を思い出し、やや顔を赤らめるアシェリー。


「どうせそのうち、その全てを勇者様にはさらけ出すことになるでしょうに」

「そそそそそそれはまだ全然早すぎないかなあああ!?」


 ふたたび耳まで真っ赤にする。


「つがいとはそういうものです」


「かもだけど!」


「しかし、勇者様はそこまで積極的ではありませんよね」


 エリサの言葉に、急に冷静になるアシェリー。


「そうなのよねえ。最初の晩以来、何も言ってこないわ」


「そして今や、勇者様はフェンリルにメロメロなご様子。


 ライバル登場です。ファイト、魔王様」


「そ、それだけは無いと信じたいわ……で、でもまさか……」


 世界の脅威に対して、違った意味で警戒心を抱く魔王。

 エリサはその様子を見て、口の端をほんの少しゆがめ、


(やはり、見てて面白いです)


 と口には出さずニヤるにとどめるのだった。


「……しかし、緑のドラゴンの攻撃。


 あんな形で、あたしが無力化されるとは思ってもみなかったわ」


「話は聞きました。


 それでも魔王様なら緑竜くらい、瞬時に消し炭には出来たでしょうに」


「まあ、あてずっぽうの攻撃が当たればね」


「それですね。魔王様は万が一、勇者様に攻撃が当たる事を心配した」


 そうかもねー、とアシェリーはうそぶいた。


「でも大丈夫ですよ。


 魔王様の攻撃、勇者様なら十分しのがれるでしょう。昨日の実績もあります」


「? なにそれ?」


「……」


 エリサはため息をつく。

 最上級火炎魔法の0距離射撃の事を、本人は何も覚えていないのだ。


「でもねー。ちゃんと強いとこ、かっこいいとこ勇者ちゃんに見せたかったな」


「十分良いものを見せられたと思いますよ。パンツで」


「いーやー! 次は、強いとこ、見せる! お姉ちゃんの面目躍如、する!」


 ふんすと鼻息を荒くするアシェリー。


(しかし、大抵の相手は瞬殺でしょうに。


 魔王様が実力の数パーセントでも出す必要のある相手、そうそう現れますかね……)

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