第10話 アレクシス王の怒り 森のスローライフpart6
「勇者はまだ見つからんのか?!」
――アーレンス大陸の人間領、王都アレクサンデル。
その王城、王の間で。
アレクシス王は怒り心頭、といった様子だ。
「はっ……四方八方に捜索隊を派遣させておりますが……吉報いまだ無く……」
うなだれるウィレム大臣。
「このままではアーレンス大陸統一計画が一歩も動かぬではないか!!
あの勇者……こちらが優しくしてれば付け上がりおって。
とっ捕まえたなら、今度は1日たりとも休ませることなく働かせてやる」
「まったくですな。勇者は我々が育てたのです。恩を仇で返すとはこのことですな」
そもそも一切の休みなく働かせていたし、そのせいで勇者の心は壊れる寸前だったのであるが……
2人には全く、自覚がなかった。
「草の根分けても探し出せ! 賞金は出す! その分は勇者に働かせる!」
「勇者を知る、全ての者に聞き込みをさせます。故郷の者にも」
ウィレムの言葉に、アレクシスはふと何かに思い当たった顔をした。
「おお、そうだ。いつぞや勇者と組んでいた、冒険者パーティが居たな。
そやつらも動員せよ。むしろそやつらが一番、勇者に近い。
心当たりを多く知っているに違いない。
そやつらが行動を開始したら、使い魔に監視させるのだ。いいな」
手を振り上げ、ビシッと決めるアレクシス王。
「……ところで、突然ヒゲが抜ける奇病というのは存在したか?」
「王宮医師に聞いて回りましたが、そのような病はないとのこと。
しかし呪いの可能性は否定できない、とも」
「うう。呪いであるなら、わしのような賢帝になんたる仕打ち。
絶対、許さぬぞ……」
「わたくしもです……」
ややバランスの欠いたヒゲをさすりつつ、王と大臣はそうつぶやくのだった。
▽
魔獣の森――のログハウス前。
無事、アシェリーは豚や鳥をゲットして帰還。
鳥の中には鶏もいた。
後で乳牛ともども、生きたまま捕まえて小屋に飼おうかな。
牛乳に加え、鶏卵も得られる。
(俺の【全体鼓舞】。
牛とか鶏に適用したら牛乳や卵の生産量、上がったりしないだろうか)
ふとした思いつきだったが、これは試してみる価値あるかも。
ふすっふすっと鼻息が近いなと思ったら、リルルが寄って来ていた。
なんかデカいキノコを咥えている。
「おお、お前の戦果はそれか。えらいぞー」
リルルの頭を撫でたら、しっぽを振ってひゃんひゃん喜んでいる。
ふと気づくと、魔王が物欲しそうな目で俺を見ていた。なんだろう。
するとエリサがすすっと寄って来た。
俺の耳に、口元に手を立てた顔を近づけて……ないしょ話かな?
「魔王様も褒めて欲しいんですよ!!!」
うわあ!耳元でそんな大声!
「ちょーっ!
そういう事はせめて、あたしに聞こえないようにひそひそ言うものでしょエリサあ!?」
顔を赤らめ、あたふたするアシェリー。
アシェリーの言う通りだよほんと……おかげでやり辛い。
「……お、お疲れさまアシェリー、ありがたく使わせて、もらうよ。ありがとう」
「あ、うん、うん!」
なんとか言葉を絞り出す。アシェリーもまあ笑顔になってくれたし、まあ良いかな?
エリサさんにはちょっと後で話がある。
まあそれはそれとして……
「今夜は鉄板料理を披露したいと思う」
「おおー!!」
「ひゃん!」
まずは下準備。
豚は血抜き解体、可食部をそぎ取り、食べる分だけを残して後はアイテムボックス送り。
鳥は湯漬けした後、羽毛をむしって、アイテムボックス送り。
羽毛は、ベッドに使えるとエリサさんが持って行った。
「てことで、今回使うのは豚肉です」
まず野草をざく切りにして、鉄板に広げて並べる。
こいつの食感はキャベツに似ているので、豚肉とも相性が良いだろう。
そしてキノコ。短冊切りに切り分け、野草と同じように散らして広げていく。
ここで薄く切った豚肉の登場だ。
思い切った量をじゃんじゃん並べていこう。
そして塩を振り、木で作った蓋をする。
かまどに火を入れて鉄板を熱していく……豚肉に十分火が通ったら、完成!!
「蒸し豚しゃぶにキノコと野草を添えて、です」
厨房から木皿に分けて、ログハウスの食卓まで運び入れる。
「うわー! すごーい!」
食卓に乗った料理を見て、目を輝かせる魔王。
「ただの串焼きマンじゃなかったんですね、純粋にすごいです」
エリサさんもまあ褒めてくれてるのだろう。
「以前、しばらく一緒になったパーティの1人に教わったんだ。料理やら釣りやら」
「へえ!」
「まったく彼女はオカンみたいなやつだったな。
俺が勇者業ばかりで遊ぶ暇も趣味も持てないのが心配だからって……
色々気を回してくれた。パーティでは唯一、真の仲間と言えたかも」
女性と聞いてアシェリーがピクリと反応。
「へ、へええ……真の仲間……」
(あたしも、料理とか出来た方がいいのかなあ?)
とぼそぼそつぶやく。
その様子を見て微ニヤリするエリサ。
「熱いうちにどうぞ、だ」
「……そうね、じゃあ、いただきます!」
「いただきます」
全員で熱々の豚肉にかぶりつく。
「んー!? おいしー!!」
「これは……」
目を細め頬に手を当てて喜ぶアシェリー、頬張りながらピタリと体の動きを止めるエリサ。
「牛肉最高!と思ってたけど、豚肉も美味しいわ!
肉をこれほどの美味さに仕立て上げられるなんて……!
勇者ちゃんて王宮専属の料理長だったんじゃないの!?」
「大げさだなあ」
そこまで手放しで褒められるとなかなかに照れてしまうな。
エリサも結構な衝撃を受けたようだ。
「前から思ってたけど、お城で出る肉料理とは大違いね!
なんで? 全然黒くないし、固くないし。牛肉なんて、中身が赤かったわ!」
「……」
なんとなく察してしまった。
どうも魔族は火加減が適当な模様だ……
「これは。ぜひ、レシピを伺いたく」
エリサもやや興奮気味だ。
「レシピなんて大層なもんじゃないよ。火加減に気を配るかどうかで」
「もー! そんなのあとあと! 冷めちゃう前に食べましょ!」
アシェリーの言うことももっともだ。
まあ、とりあえず喜んでもらえたようでなにより。
飯っつっても肉のみ!どん!終わり!
というのも寂しかったからな。
これからちょいちょい、サブメニューなんかも加えていきたい。
そういうのが出てきた時の、二人の反応が楽しみになってきた。
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