四章 新たな徒
宮城の裏に広がる林の中。
快と楚智は昼過ぎから薪拾いの為に訪れ、陽が暮れる前には帰城するつもりであったが、気付けば、すっかり暗くなってしまい、おまけに山賊に囲まれてしまった。
ふたりは背中を合わせ、ぐるりと囲まれた山賊達を見やる。
「夕羽、隙きを見て逃げるのだぞ」
楚智が云った。
しかし、その声が震えているのを、快は気付く。
「まかせろソチ」
事もなげに快は云い、籠を降ろした。
「は? 任せろって?」
楚智は振り返り、怪訝そうに快を見る。
「何だあの者は? 女官じゃないのか?」
快の態度に、賊達はザワ付いた。
「もちろん、女官ですよ」
賊に対して快は、ニヤリとする。
「生意気な! 捕えろ捕えろ!」
リーダー格の賊がそう命じると、一斉に周囲の賊達が攻めて来た。
彼らの武器は木刀や棍棒であり、快は楚智を庇いながら、それらの攻撃を躱す。
「ユ、夕羽!?」
快のその行動に、当然ながら楚智は驚いた。
「ソチ、逃げろ!」
快は叫ぶ。
思う様に躰が動かないと知った。
ユハの躰は、戦闘用に作られていないのか。
「とにかく! その女官を捕えるんだ!!」
リーダー格の言葉に、賊達の攻撃は快に集中する。
「しめた!」と、快は思った。
楚智を逃がすチャンスだ。
「ソチ行け!」
快の言葉に、楚智は弾かれた様に走り出す。
庇う者がいなければ、或いは勝機があるだろう。
そう考え、快は口角を上げた。
林の中を走り抜ける楚智は、宮城の灯りを見付けて、漸く我に返った。
背後を振り返り、夕羽を心配する。
だが、楚智は自身の力量を知っていた。故に後戻りはせず、警察機関である検非違使庁を目指した。
検非違使庁は、宮城の北西に在る左庁と、南東に在る右庁と二箇所に分かれている。
楚智が駆け込んだのは、左検非違使庁だ。
入ると直ぐに、守衛の武官に止められた。
「小宦官が何事か!?」
「武官様! 子捕りが出ました! 助けて下さい!!」
息を着く間も無く、楚智は武官の袖に取り付いて、そう捲くし立てる。
「何だ己は!?」
武官は楚智を突き飛ばし、手にしていた槍の柄で打った。
背中を強打され、楚智は悲鳴を上げて転がるも、何とか身を立て直して、拝跪叩頭する。
「武官様! どうか、どうか助けて下さい! 女官が子捕りに拐かされてしまいます!!」
再度悲願するが、また打たれた。
「黙れ! 小宦官の分際で!! ここは検非違使だ! 己の来る所ではないわ!」
蹴り飛ばされ、楚智は石段を転げ落ちる。
そこへ調度、ひとりの少年が通り掛かった。
「うわっ! 驚いた。小宦官が転がって来るなんて、びっくりだ」
少年はそう云いながら、楚智の側にしゃがみ込む。
「こらこら、大丈夫か?」
少年に起こされ、背を擦られるが、楚智は顔を上げない。
「どうした? 何があったんだ?」
「こ、子捕り、子捕りが出たんです」
嗚咽しつつ、楚智は漸くそう訴えた。
「それから?」
少年の顔色が変わった。
「僕の力じゃ、どうする事も出来ず、女官を残して、それで、助けを求めに……………」
楚智の涙は滂沱の如く。
「行こう! 場所は何処だ? 案内しろ!」
少年は楚智を引き立たせる。
「貴方様は?」
涙でぐしゃぐしゃの顔を少年に向け、楚智は尋ねる。
「俺は、黄白利。少しは力になれるぜ?」
少年、黄白利はそう云って、にやりとした。