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フォレスト王国の太陽と月  作者: 葉月乃 寛
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9 上司と部下

ここはルイーズの執務室。

呼び出されたリュカは、無駄のない所作で入室し敬礼する。


「挨拶はいいよ。」


ルイーズの声に反応して姿勢を正す。リュカは薄茶色の柔らかそうな髪を短めに整えていて、鍛え上げられた長身でなかなかの男前だ。


「こんな夜明けにすまないね。寝ていただろ?」

「いえ、知り合いを見送ろうかと起きていました。」

「はーっ。それエレナだろ?」


ため息交じりに問いかける。


「えっ、あの、はい。エレナ様から聞いたわけではありませんが、昨日から馬の準備をされているようでしたので。」


しれっと答えるリュカに、ルイーズは生温かい眼差しを向ける。


「見送ってから来ても良かったのに。」

「いえ、エレナ様は私などに見送られずとも、大丈夫でしょうから。」


そのことなんだけどね、とオスカーが話し始める。


「私のところに、エレナがいろいろと相談に来ていたのは知っているよね?」

「はい、オスカー様にも何かとお世話になりまして。」

「はははっ、オスカーでいいよ。私たちの仲じゃないか。それで、単刀直入にいうとさ、婚約を急がないといけない事態になってしまったから、明日の午後に昇進試験を受けて欲しいんだよ。」

「オスカー!婚約の件はまだっ!!」


顔を真っ赤にさせながら、焦ってルイーズを見る。


「リュカ、お前も隅に置けないね〜。私の可愛い小鳥を手懐けたらしいじゃないか。」

「団長、ご報告が遅くなり申し訳ございません!」


ルイーズが面白がっていじると、リュカが深々と頭を下げる。


「リュカ、エレナのこと本気なんだろうね?」

「はい!もちろんです!!昇進試験で合格し、副団長になった暁には、正式に結婚を申し込む所存です!!」


リュカは下げていた頭を勢いよく上げ、ルイーズを真っ直ぐに見つめて宣言した。


「だったら昇進試験を受けて、さっさと婚約してちょうだい。これは団長命令よ!」

「はっ!必ず合格することを誓います!!」


ルイーズは満足そうに宣言を受け入れた。


「ところでオスカー、昇進試験を早く受けられるのは願ったり叶ったりなんだが、どういった事態が起きたのか教えてもらえないか?」


「それがね、リバー王国の戴冠式に国賓として呼ばれてね。最初は断る方向で話が進んでいたんだけど、リバー王国側は友好の証として招待しているから無下に断れば火種になりかねない。しかもリバー王国の後ろにはロック帝国がいる。リバー王国側は姫君をご招待すると言ってきていて、ソフィアとエレナが行くことになったんだ。とは言っても、ソフィアは数百年に一度と言われる聖女だし、こちらとしても宝を差し出す形にはできない。信頼のおける者を同行させるなら勇者のエレナしかいない。エレナなら浴室まで入れるしね。もちろんエレナだって自分以外に守らせるなんて考えられないだろう。ただ、あのエレナだ。頭に血がのぼったらね・・・。」


「最悪、気持ち先行で行動し、命に代えて守ろうとする。ということか?」


「ああ、『授けの儀』でエレナは、私のことは誰が、何が守ってくれるのか。と言ったんだ。予感として自分が危険に巻き込まれると思っている中で、ソフィアを守ることに意識を向けないといけない。エレナは自分の命など誰も気にしていないと思っているんじゃないかな。ただ、それを宿命と捉えているとしたら、エレナは命をかけると思う。」


オスカーはそうなってはいけないと考えている。エレナはソフィアのためだとしても死ぬべきではない。国に背く考えかもしれないが、聖女の方が価値があるなんて、誰が決めたんだ?命に代えて守ってくれなんて、記述に残る聖女も思わないはずだ。エレナが生きてこそ、ソフィアが生きている意味があるのに。いつも可愛い妹のことを考えると、不憫で仕方なくなってします。ボタンを掛け違ったまま妹を、なんとか救いたいと考えてきた。


「そこまではわかるが、なぜ婚約を急ぐ?」

「お前がエレナの命綱になるんだ。【光の救世主】らしいしなぁ。」


最大の秘密を教えてくれなかったリュカに、ルイーズが拗ねたような言い方をする。


「かっ、重ね重ね申し訳ございません!報告するタイミングを失っておりました!!」

「まったく次から次へと、お前には驚かされるよ。それよりさっさと試験に合格して、婚約の承諾書をもらってきなさい。そして、エレナがブロッサムを発つ前に直接会いに行って、帰って来なきゃならない理由を押し付けておいで。突っぱねられても引くんじゃないよ!」

「もちろんです!ようやく俺のエレナになるんです。絶対に引きません!」


オスカーはよく言ったというように、幼馴染の背中を叩いて執務室を一緒に出た。


「『俺』だってさ。柄にもない。あー、リュカが伝説の『光の救世主』ねー。イメージできなーい。」


それでもルイーズは、自分が可愛がってきた部下を頼もしく思うのだった。

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