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フォレスト王国の太陽と月  作者: 葉月乃 寛
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8 旅立ち

城の外は、徐々に朝日が昇ってきていて、全てが新しい色に染められていくようだ。ソフィアは御者の手を借りて馬車に乗り込み、エレナは自分の馬に乗っている。

砦から来た時は三頭立てだった馬車は二頭立てに変わり、馬車から外された一頭にユーゴが乗っている。少しお待ちください。と城の従事に言われ留まっていると、イネスがフィンと現れた。


「お待たせして申し訳ございません。」

「イネス、遅いよ。次からは待たないからね。」

「はい、エレナ様。」


イネスが来ることがわかっていたようかのようにエレナが突き放した言い方をしたのを見て、いろんな?マークと戦っているソフィアに、他のことは気にせず、自分の身をしっかり守るんですよ。とフィンが念押しする。


「それでは出立します。あとを頼みます、義兄様(にいさま)。」

「ま、任せておけ。」


フィンが右手を上げると笛が鳴り門が開かれる。イネスはフィンへ一礼をすると、馬車へ乗りみソフィアの前に座った。先頭のエレナに続いて、ソフィアとイネスを乗せた馬車が続き、最後にユーゴが出発する。フィンはエレナの背中を見送りながら、初めて呼ばれた「義兄様(にいさま)」というエレナの声を思い出し、泣きそうになるのを堪えていた。エレナにとっての初外遊は、楽しいことばかりではないはとわかっている。勇者というからには、これから生死をかけなければいけないことを。そして、同盟国でもないリバー王国では、身の安全を保証できないということを。


トラストを目指し、馬の速度が徐々に上がる。朝日に照らされ、よく手入れされた馬の毛が輝いている。これからトラストまでは二日かかる。まずは今日泊まる場所まで走るしかない。

城を出てしまえば、エレナの気分は上向いていた。馬の背で朝日を浴び、風を受けていると、イライラが吹き飛んでしまった。こういうところが、エレナのいいところだ。すっかりトラストへ意識を向け、想定できるトラブルへの対処法を考えている。


(そういえばオスカー兄様、リュカにちゃんとあのこと言ってくれるかな。)


ふと、リュカへ挨拶も伝言もなしに出立してしまったことを、少しだけ後悔していた。



馬車の中は、浮かない顔をしたソフィアと静かに見守るイネスがいた。


「ねぇ、イネス。エレナはなぜあんなに能力を呪いのように感じているの?勇者も聖女も能力の可能性でしょ?」


確かに、国民は守護や能力を認定されても、それだけに囚われない教育を受けて、将来を決めることができる。例えば、【戦士】のパン屋もいれば、【商人】の教師もいるのだ。しかし、王族は守護や能力によって少し縛りが発生する。


「左様でございます。しかし、王族というものは国の責任を負うお立場です。なるべく身内から問題を生み出さないようにしなければなりません。それ故、自分の希望と周りからの期待が一致しないこともございます。ですから、向き不向きや好き嫌いを言えないのが王族なのです。」

「それは、昔の内乱みたいなことが影響しているの?」

「左様でございます。」


レオナルドが国王になるまで、王都では貧富の差が激しく、国民は教育よりも生きていくことに必死だった。子供であっても盗まなくては食べられない。そういった状況を生み出してしまったのは、他でもない王族だった。国にとって大切な宝は子供達だ。国王になったレオナルドは二度とあのようなことを起こしてはいけないと、王族にこそ厳しく教育された。

その時から、守護と能力を将来の参考にする教育システムができたのだ。生まれながらに【殺し屋】や【詐欺師】といった能力が見つかることはなかったので、教育を間違えなければ『罪人』と呼ばれる者を減らせるだろうとの考えからだった。

そして、王族を始めとする貴族による階級制度をやめ、王族が最終的な責任を担う組織制度に変更した。上下関係ではなく、役割分担による国づくりを推進している。各分野で担う業務がわかれていて、分野ごとにいくつかのチームが形成されている。チームそれぞれにリーダーが配属され、権力の誇示や派閥の拡大を阻止する目的で、リーダーは最長六年で交代される。リーダーに選出されるのはその分野で優れた者で、家柄や資産、コネなどは関係ない。そして、王族は各分野が円滑に運営されているか監督する立場にある。だからこそ、王族は個人の好き嫌いで取り組むことを決められないのだ。


「でも、エレナが勇者になりたくなければならなくていいのでしょ?私は聖女と認定されても、何か物凄い力が沸き起こっているかと聞かれたら、いいえと答えるわ。全く変わらないの。だからね、私は聖女だから偉いのよ!って気にはならないの。逆に、何か結果を出さなきゃ!なんて気負いもないの。だって、聖女って実際に見た人いるの?記述やイメージで聖女に期待されても貢献できないのが現状よ。」

「ソフィア様は、そのままでよろしいんですよ。気分を悪くされないでいただきたいのですが、お偉方も聖女の貢献先なんて初めてのことで、思いつきもしていないんですよ。」


イネスはふふふと笑ってみせる。


「エレナ様はレオナルド様の実績を、そして背中を見てらっしゃるのはないでしょうか?レオナルド様も勇者でございます。国を立て直し、国民の教育システムを生み出し、司法を確立し、平和のフォレスト王国を建国したと言っても過言ではございません。生きている英雄を前に、自分への重責を感じていらっしゃるような気がします。そして、レオナルド様がエレナに対して厳しいのは、自分と同じ勇者の血筋に責任を感じているのではないでしょうか。まさか末の孫娘が勇者とは思っていなかったでしょうからね。」

「そうね。でもお爺様はエレナのことが大好きよ。」

「ええ、もちろんレオナルド様はどのお孫様も愛していらっしゃいます。ただ、今後どんな危険に遭遇しても対処できるよう、より厳しくされていたように思います。厳しくされるほど負けたくないエレナ様と、将来を心配するあまり優しくなれないレオナルド様。おさすが勇者といいますか、お互い頑固者ですからね。あっ、これはお二人には内緒でございますよ。特にレオナルド様のお耳に入れば、クビになってしまうかもしれません。」


ソフィアとイネスは声を出して笑った。そこに浮かない顔のソフィアはいなかった。

そこからは、ブロッサムの最近の流行りや、クロエに案内して欲しいところなど、たわいない話をして過ごした。

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