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フォレスト王国の太陽と月  作者: 葉月乃 寛
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51 リバー王国の歓迎

リバー王国の港にはブロッサム王国の警備船が先に入港し、馬や馬車を船から下ろして待っている。今回、自前の馬と馬車を持ち込むというレオナルドの条件を、リバー王国が快く受け入れてくれたことで外遊が実現した。

船が港に着くと、まずはチャーリーがクロエをエスコートして降り立ち、リアムがソフィアをエスコートして続いた。待ち受けていたリバー王国の使者を前に、先に口を開いたのはチャーリーだ。


「歓迎ありがとうございます。今回外交を務めます、チャーリー・ベルトランでございます。こちらはブロッサム王国のクロエ・コルテス王女であらせます。」

「ブロッサム王国を代表して参りました、クロエ・コルテスでございます。この度はお招きいただきありがとうございます。」


早速、チャーリーが祖母の姓をぶっ込んできたが、何食わぬ顔のクロエが完璧な挨拶をして見せた。腹の中ではこいつー!と思っているに違いない。


「ようこそお越しくださいました。私はコーエン・バローニと申します。戴冠式後から、宰相を務める予定です。今後ともよろしくお願い申し上げます。」


「バローニ殿、ご無沙汰だな。今回は私が参列できず、すまないな。妹に大役を渡してしまったがよろしく頼むよ。」


今度はリアムが簡単に挨拶をする。


「いえいえ、お忙しいリアム殿下のことですから、王女をお招きできただけで幸いです。」

「それならよかった。さぁ、ソフィア王女こちらへ。」


そのリアムに促されてソフィアが前の方に進み出て挨拶を述べる。


「フォレスト王国を代表して参りました、ソフィア・モンターニュでございます。歓迎いただき光栄でございます。」


若い王女たちの挨拶は好意的に映ったようで一安心だ。無事に挨拶が終わりかけた時、突然の突風が港に吹いた。風が落ち着くと、周囲の目が船から降り立つ女神に釘付けになった。その辺のひよっことは比べものにならない神々しいオーラを背負ったルイーズは、描きたくなるほどの微笑を湛えて口を開く。


「私はソフィアの姉、ルイーズ・ジラールでございます。もう一人の妹エレナが病に臥せっておりまして、その代わりには足りませんが伺わせていただきました。」


港に集まっていた者たちは、今しがた挨拶した若き王女たちをすっかり忘れ、ため息混じりに美しいだとか、女神だとか口々に囁いている。


「これはこれは、足りないなどとご謙遜を。フォレスト王国の森には眠れる美女が多くいらっしゃるようですね。」


ルイーズの気品だか気迫だかに圧倒されていたコーエンが平静を装って歓迎した。


(ひとまず、上手くいったわね。誰にも私のハミングバーズには触れさせないわよ。)


大切な若き王女たちを自分のオーラで籠の中に隠し、ルイーズはとてもご満悦なようだ。挨拶も終わり、リアムはひとまずビゼ港を一時離れることにした。離れるといっても、ビゼ港の沖で停泊する予定だ。ルイーズ一行はリバー王国の護衛が先導する中、王都へ向けて出発した。


リバー王国の城は、〈光の泉〉から水を引き込こんでつくった湖に浮かぶ島の上に建てられている。橋を渡り正門を潜ると、遠目からでもわかる見事な佇まいの五階建ての城が目に入ってくる。城全体は白壁でいくつもの屋根が湖と同じ碧色に染まっている。フォレスト王国の城は森に囲まれ少し地味目で落ち着いた佇まいだが、リバー王国の城は華やかでありつつ上品で美しい。その城が湖に映ることで優美さが増している。


「綺麗。」


エレナの独り言が風に消えていった。

同じように城の美しさに圧倒されたソフィアが、馬車の中でため息を漏らす。


「はぁー。なんて美しいお城でしょう。ブロッサムのお城だって本当に綺麗だったけど、こちらのお城はただそこにあるだけで絵になるのね。」

「左様でございますね。幾度か侵略の危機もあったそうですが、少しの補修で済んだようで本当によかったですね。」

「こんな芸術的な城を争いで壊そうとすること自体が恥ずべき行為だわ。」


ソフィアたちがおしゃべりをしているうちにリバー城の前に到着した。城の前には現王妃と思しき女性が、一足先に着いたチャーリーと挨拶を交わしているではないか。ルイーズはすぐさま馬車から降りると、先に最上の礼をとって頭を下げた。


「ようこそお越しくださいました。私はアルベルタ・アインホルンです。息子のためにわざわざお呼び立てして申し訳ございませんね。」


「王妃、この度はお招きいただき光栄に存じます。私はフォレスト王国より参りました、ルイーズ・ジラールでございます。末の妹が病に臥せっており、失礼とは承知で代理として参りました。」


「あらあら、失礼だなんてとんでもないことだわ。フォレスト王国とは国交もないのに、息子が思いつきのように招待する方がよっぽど失礼よ。」


王妃は、思いがけず明朗な女性だった。ルイーズは少しほっとして、守るべき王女たちをそばに呼んで挨拶を促した。それぞれに挨拶をさせると、王妃は煌めく宝石でも見つけたように瞳を輝かせている。


「まあまま!なんて可愛らしいお姫様たちかしら。うちには女の子がいないから、こんなに可愛らしい来客は滅多にないのよ。そうだわ!ねぇ、コーエン?これから皆様とお茶をご一緒したいのだけど、大丈夫かしら?」

「問題ございません。すぐに手配いたします。」


王妃が是非にということなので、一度、用意されている客室で着替えなど済ませてからお茶をご一緒することとなった。

三階の東側がフォレスト王国とブロッサム王国の客室フロアになっていた。部屋数は十分あるので好きな部屋を使っていいと案内された。


「なんだか凄く自由度が高いわね。こちらで部屋割りも決めていいなんて、よほど攫っていくことに自信があるのかしら。王妃からも全然負のオーラを感じなかったわ。案外、ロック帝国の動きとかを知らされていないのかしらね。」


ルイーズの采配によって無事に部屋割りも決まり、それぞれ荷解きや、お茶会用のお着替えなどバタバタする中、ルイーズはどこまでがリバー王国のもてなしで、どこからがロック帝国の思惑なのか思案していた。

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