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フォレスト王国の太陽と月  作者: 葉月乃 寛
5/71

5 授けの儀1

トントン、トントン、

夜明けより少し前、部屋の扉を控えめに叩く音でエレナは目が覚めた。いや、誰かが二階への階段を登ってきている時からエレナは目覚めていた。


(まだ夜明け前ね。イネスが起こしに来るには早いけど。)


「はい。」

「予定より早くに悪いわね。父上がお呼びだから、着替えを済ませてからいらっしゃい。」


薄暗い扉から顔を出したのは、イネスではなくルイーズだった。


「わかりました。」


エレナがそれだけ言うと、ルイーズは静かに扉を閉めた。


「ソフィ、起きて。予定より急ぐみたい。」


ソフィアは何がなんだかわからない頭のまま、ベッドから起きて身支度を整える。

今日のソフィアは動きやすい膨らみを抑えた品の良いドレス、エレナは王家の紋章入りの騎士服だ。それぞれに『誓いの儀』で授かった勲章を身につけて、準備万端。

エレナが扉を開けると、今度はイネスが待っていた。


「足元にお気をつけください。」


イネスは足元を照らすランプを持って、二人の前を進んで行く。

夜明け前の城内はまだ暗く、ソフィアは廊下の灯りをつければいいのにと不思議に思いながら、イネスの灯りを頼りに進んで行く。なぜかエレナは片目をつぶって、もう片方の目で見える情報を読み取っている。


(困ったな、どこの部屋に向かっているのか察しがつかない。なんとなく下っているような気がするけど、地下に行くなら階段だし、こんな廊下があったかな。城内なのに、やけに歩いたような気がする。)


不意にイネスが扉の前で立ち止まり振り返る。

「ここから先は姫様たちだけでお進みください。灯りはございませんが、一本道でございます。」

「どのくらいで着くの?」

「進めばわかりますので、ご安心ください。エレナ様、朝の準備運動ですよ。」


イネスが安心させるように笑ったような気がした。


「行くしかないってことね。これ以上、父上を待たせるわけにはいかないし。」

「本当に行くの?」

「私が一緒だから大丈夫だよ。」


エレナはソフィアと手を繋いであげる。


「じゃ、イネス、行ってくる。」

「いってらっしゃいませ。」


扉を開けて中に入ると、すぐにイネスによって扉が閉められた。


「真っ暗ね。」


ソフィアが不安な気持ちを紛らわすように言う。

エレナはようやく両目を開けて数回瞬きをする。


「OK、私は見えてるから、ソフィは三十秒目を閉じたまま私についてきて。手を離してはダメだよ。」


エレナが一から三十まで数え出す。エレナは暗闇に慣れるために、先ほどまで片目をつぶっていたのだ。


「二十八、二十九、三十。ソフィ、もう目を開けていいよ。さっきより見えるはず。」


ソフィアが目を開けると、うっすらと先があるなーくらいに見える。


「さて、急ぎめで行きますかね。」


エレナは大丈夫だよと言うかわりに、さっきより少し強くソフィアの手を握った。一応ソフィアの方がお姉さんなのに、エレナは小さい時からソフィアを守ってきた。ソフィアはじんわり心が温かくなるのを感じながら、しっかりと手を握り返して進み出した。


(ソフィは気づいていないと思うけど、さっきの扉、こちら側からは開けられなかったな。イネスが閉めたとき、こちら側にドアノブはなかった。イネス側から押すタイプの扉だったから、こちら側からは引かないと開けることはできない。でもドアノブはなかった。ということは、あのドアは一方通行でこちらから開けることを前提としていないんだろうな。)


「どうしたの?」

「うーん、自分の生まれ育った城なのに、知らないことが多いんだなと思って。」


(ドアノブがないのはまだいいとして、引き返してまだ扉があるのか?扉までの空間が、進んだ距離以上に遠いと感じるんだけど。扉を入ってすぐは前方だけが開けている気がした。今は前後とも風が抜けている。左右は壁が続いているから、一本道には間違いなさそうだけど。)


「このまま進んで大丈夫なの?」

「ソフィ、心配いらないよ。イネスが進めばわかるって言ったじゃん。それは引き返すなってことだと思う。」


ソフィアは暗闇が苦手だ。砦での訓練では夜間訓練もあり、ソフィアは何度も追試を受けることになったものだ。エレナはソフィアが不安にならないように、ずっと話しかけてくれている。ここにエレナがいてくれることに心の底から感謝している。

十五分くらい歩いた頃だろうか、遠くに光が見える。暗闇に慣れた目にはとても眩しい光だ。


「着いたみたいだ。」


光が見えたことでホッとしたソフィアとは対照的に、エレナの声は緊張していた。

次に起こりそうなことに準備しているようだ。

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