40 プロポーズ大作戦
昼過ぎまで、ドレス選びやお肌磨きをされ、ツヤツヤに生まれ変わったお姫様たちは、髪を結われ、化粧を施され、先ほど選んだドレスを着て昼食を出されていた。
「今日は、いったいなんなの?がっちりコルセットで締められて、紅茶も飲めないんだけど。」
「うーん、母上がここまで気合入れるって、どうしちゃったのかしら?」
「お茶会に特別なお客様がお見えになるの?」
「そんな話聞いてないし、お茶会も予定なかったと思うけどな。」
小鳥の餌くらいの昼食をとってから、サロンでゆっくりしていると城の入り口が賑わいだした。
「ねえ、ルイーズ姉様の声がしない?」
「そういえば、オスカー兄様とお爺様のお声も聞こえたような。」
サロンへ入る時にレベッカから、呼ばれるまで出てはいけないと言われていたので、様子を見に行くことができない。入り口のバタバタはレオナルド用の客室へ移動していったようだ。何やら机を叩く音まで聞こえてきた。この大きな城でここまで音が聞こえるということは、机は壊れたのではないだろうか?とエレナは考えている。すごーくまずいことが起こっているのか、レオナルドの怒鳴り声が城に響いている。
「許さーん!国王が決めただと?あの馬鹿息子、何を考えておるか!そんなこと、私を倒してから言え!」
「とにかく、決まったことなんです!フローラ様、そいつをさっさと連れて行ってください。」
三人の元へバタバタが近づいて来て、レベッカがドアを開ける。
「エレナ様、どうぞこちらへ。」
「はーい、私ね。爺様に怒られるようなことしたっけな?」
エレナは部屋に残される二人にヒラヒラと手を振って、心配ないよー。と出て行った。太陽の光を浴びて輝きを増しているエレナを、レベッカが急ぎ足でなぜか〈春の庭〉の奥へ案内していく。花の回廊を抜けるとガゼボがあり、そこには誰かが立っていた。紫紺の制服を着ているので一瞬ルイーズかと思ったが、それにしては背が高い。
(え!?リュカ?うそ。)
レベッカはガゼボまでエレナを連れて行くと、そそくさと城の方へはけてしまった。今日のエレナは女神さながらの美しさで、リュカは言葉を失いただ見つめるしかない。
「ちょっと、馬子にも衣装的な目で見ないでよ。無理矢理着せられている身にもなってよね。」
「い、いや、綺麗だ。この世の者とは思えないくらい綺麗だ。」
エレナはいつになく真剣な声で褒められ、顔が赤くなるのを隠そうと下を向く。しかし、リュカが近づいてそっと頬に触れ、美しい顔を上げさせる。
「そ、それより、なぜその制服なの?それに顔、切れてるじゃん。」
ルイーズとの試合でついた頬の傷にそっと触れて、エレナが心配そうに見つめてくる。
「その前に、改めて言わせて欲しい。エレナ、俺たちの未来にどんなことが待ち受けていても、君と共に戦うことを誓うよ。だから、俺と結婚して欲しい。」
リュカは膝をつき、エレナの手をとって真っ直ぐ見つめて返事を待つ。ガゼボの死角にはものすごいギャラリーが固唾を飲んで、プロポーズの行方を見守っている。レオナルドだけは殺意の炎を立ち上らせているが、オスカーが魔法陣で動けないようにしている。
「私、これからリバーへ行くのよ?帰ってこれないかもしれないじゃない。わざわざそんな女にしなくたって。」
「じゃあ、今すぐ二人で逃げようか?俺は君以外は考えられないし、ちゃんと昇級試験に合格して、国王にも婚約を承諾してもらったんだよ。」
「そんな、私がいない所で何勝手なことしてるのよ!ありえないわ!!」
「そうか、ダメなんだね。俺は早く君と一緒になりたくてブロッサムまで来たのに、休むことなくフォレストへ帰れと言うんだね。」
リュカは大袈裟なくらい肩を落とし、ため息をついて立ち上がると、エレナの手をあっけなく離しガゼボを後にしようとした。
「ちょっ!するわよ!結婚するったら!このまま帰したんじゃ喜ぶのは爺様だけじゃない。」
リュカはキラッキラの笑顔で振り返り、さっとエレナを抱き締めた。
「ありがとう、エレナ。君を一生愛することを誓うよ。」
真っ赤っかのエレナとホッとしたようなリュカへ、盛大な拍手が押し寄せてきた。